- ESPEMの防衛部隊を屠っていたグリムは、手応えの無い相手にだんだんと退屈になってきた。
- 元々それほど感情を表に出すことも、何かの感慨に浸ることも感想を持つこともほとんど無い。
- それでも今は背を向けて逃げていくばかりの相手を追いかけて狙い撃つのは、ひどく億劫で眠気すら誘う作業であり、うんざりしたような表情を浮かべているように見える。
- ラクスを抹殺するという最大の目的はバンが果たしに向かったため、自分がすることはこれしか無いのだが、あまりに単純な作業に欠伸を噛み殺していた。
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- そこにたった1機で突っ込んでくる機影を見つけて、呆れながらどこのバカだとそちらを振り返る。
- 今更1機だけ援護に来たところで状況が覆ることはありえ無いことは誰が見ても明らかだ。
- そこに飛び込んでくるなど、ただの自殺志願者か、そうでなければ状況の読めない大馬鹿者としか思えなかった。
- だが目に飛び込んできた機体の姿形を見ると、少しだけその考えを改めた。
- その機影には見覚えがあったからだ。
- これまでヒューを始めとした部隊の連中が散々苦渋を舐めさせられてきた、最初の作戦で奪い損ねたフリーズ。
- ここまできて作戦が失敗するとは思えないが、これまでの相手よりはずっと手応えがある筈。
- 退屈凌ぎというにはあまりにも大きな獲物に、グリムは口の端を僅かに持ち上げると、ビームサーベルを抜いて接近するフリーズに切り掛かり行く手を阻む。
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- 敵が迫ってきたことを認識したザイオンは機体に急制動かけると、背中のブースターを切り離し応戦する体勢を取る。
- あわよくばこのまま本部まで突き抜けることが出来ればとも思っていたが、見つかってしまった以上仕方ない。
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- 近づきながら現状を探っていたが、状況は思っていたよりもずっと酷い。
- この宙域から既に離脱している者もいるが、それも踏まえても防衛部隊はほとんど全滅に等しい状態だった。
- そこへたった1機のMSで飛び込んで、果たして何が出来るだろうか。
- ザイオンは自分でも無謀な戦いを挑もうとしていうことは分かっている。
- それでも簡単に引ける戦いではない。
- 何故ならこれは人類の未来を賭けた戦いであり、自らの意志と意地を貫くためのものだから。
- 可能性が限りなくゼロに近くても、諦めなければゼロではない。
- その僅かな可能性に縋って賭けてここまで来たのだ。
- だから逃げない。
- せめてこの戦いが人の未来へ繋がる一石になればと想いを込めて、ザイオンは雄叫びを上げてビームサーベルを振り下ろした。
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PHASE-42 「突入」
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- 月のESPEM本部からはまだだいぶ遠い所で、激しくビームを散らしながらサーベルを打ち付けあうフリーズとストライクイージス。
- しかし傍目から見ても互角とは言い難い。
- まだ不慣れな機体に悪戦苦闘しながらも、ザイオンが何とかストライクイージスの猛攻を凌いでいるという表現が正しい。
- サーベルを振るいながらグリムは思ったほどの手応えを得られず、少々ガッカリした。
- あれだけこちらの手を煩わせた相手との、自身は初めての戦闘だ。
- どれほどの相手かと思っていたが、新型の性能を除けばそこいらの雑魚とそれほど変わらない。
- こんな奴にバンやヒュー達は何を手こずっていたんだと、パイロットが変わったことなど知らないグリムはミライと戦って苦戦していた彼らに毒づいた。
- 果たしてミライが乗っていたら状況はまた違っていただろうが、現実に今はザイオンが辛うじて乗っているだけだ。
- 結局退屈凌ぎにもならず投げやりな気持ちになる。
- かと言って素通りさせるのは立場上問題があるので、相手をするのは仕方が無いとただのやっつけ仕事に成り果てていた。
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- そこにさらに迫る機影がレーダーに捉えられた。
- スピードは速いが今度もMSが1機だけだ。
- もう1人バカがいるのかとグリムは呆れながら、フリーズが期待はずれの相手だったためにこれも同じだと気にも留めず、フリーズを仕留めることを優先させた。
- ザイオンもそれが味方だとは思わず、相手の援護だと思った。
- とにかくストライクイージスの攻撃を防ぐことに手一杯でどうしようもない。
- そこにもう1機現れては、さらに追い込まれていくばかりで、その状況に焦燥感を募らせ、雄叫びを上げた時の決意も萎えてしまいそうになった。
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- しかし2人の考えは間違っていた。
- その機影こそ、ミライの駆るアルティメットフリーダムだった。
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- 「ザイオンさん!」
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- ミライは苦戦しているフリーズの機影を見つけると、すぐに援護体勢に移る。
- 腰部からビームサーベルを取り出し、振り被って鍔迫り合いの2機の間に割って入る。
- 攻撃に気がついたグリムは素早くフリーズを弾き飛ばすと、大きく後ろに跳んでアルティメットフリーダムの斬撃をかわす。
- そしてすかさず肩のビーム砲で狙い撃つ。
- それから間髪入れずに再び接近すると、アルティメットフリーダム目掛けてビームサーベルを振り下ろした。
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- だがミライはそのどの攻撃も冷静に目で捉えていた。
- ビーム砲はフリーズの盾になるように背に庇うと、シールドで受け止める。
- 直撃しなかったと言えど、その衝撃は並みのMSであれば相当なものがあるはずだ。
- しかしアルティメットフリーダムはビクともしない。
- 続けて振り下ろされたビームサーベルも軽々受け止めると、薙ぎ払ってあっさりとストライクイージスを弾き飛ばす。
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- ここに来るまでにアルティメットフリーダムの強力なパワーは実感していたが、実際に戦闘を行って改めてその凄さを目の当たりにする。
- この力がどれだけ凄いもので、危険なものであるかを。
- 本当は存在してはいけない、平和とは矛盾した力。
- だが今は母を助けるためにこの力が必要だ。
- ミライは一瞬の戸惑いを振り払い、ストライクイージスを正面に見据える。
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- グリムは飛ばされた機体の体勢を整えながら、規格外のパワーに驚き僅かに渋面を表情に貼り付ける。
- まだ1度接触しただけだが、それでも相手のパワーを知るには充分過ぎるほどのものをアルティメットフリーダムは見せつけた。
- 腕一本で自分の駆るストライクイージスを弾き飛ばしたうえに、ビーム砲を受けてもビクともしない機体などそうは存在しない。
- 手合わせをしたことは無いが、可能性があるとすればアポカリプスだけだと思っていた。
- バンの手元にかの機体が届いた時にスペックをちらりと盗み見たが、あれは核エネルギーを使うことでその驚異的なパワーを生み出していた。
- 突然現れた目の前の機体は間違いなく核エネルギーを積んでいると確信を抱いた。
- と言うことはエネルギーも半永久的に供給されると言うことだ。
- 片やストライクイージスは戦闘に入ってから随分と時間が経過している。
- 残エネルギー量がそろそろ心許なくなってきている。
- 予想以上の相手と思わしくない状況にグリムは次の一手を出しあぐねた。
-
- ザイオンは自分に援護があることにも驚いたが、その機体に乗っているのがミライだと分かって尚驚いた。
- 自分が飛び出してきた時はとてもMSに乗れる精神状態では無かったからだ。
-
- 「どうしてここに。戦うことは嫌なんじゃないのか」
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- ストライクイージスと睨み合いながら、通信機越しにザイオンは尋ねた。
- 誰かに無理矢理乗せられて、或いは一時の感情に任せて来たのなら、また戦って相手を傷付けることに心を痛めてしまう。
- 責める口調ではなく、ミライの心を心配したのだ。
-
- 問われてミライは少し黙り込む。
- ザイオンの問い掛けに対する明確な答えを持っているわけでは無い。
- 父や母に比べれば壮大な決意や覚悟を持っているわけでも無い。
- それでも現実から逃げたくないと思ったからもう一度MSに乗ることを決めた。
- 少し顔を伏せて考えたが、キッと瞳に力を込めて真正面を向く。
-
- 「今でも戦うことは嫌です。でも何もしないまま大切なものを失って、それを後悔することはもっと嫌です。それが正義だとも思いません。おそらく本当の正義とは何かを求めて、今ここにいるのです。何もしないうちから諦めては望みも叶いません、成すべき事も成せません」
-
- ミライは迷いの無い声でハッキリと答えた。
-
- その答えにザイオンは酷く納得し、嬉しく思った。
- またその言葉はラクスを思い起こさせ、彼もまたミライがラクスの娘なのだということを実感する。
-
- 今度はその場にイリウスのバイアランが戦闘に乱入してくる。
- イリウスは狂気の笑みと奇声を撒き散らしながら、機体の腕を突き出してビームを放つ。
- 留まっていたミライとザイオンは射線から逃れるように散ると、ミライは器用に機体を捻りながら、全ての射線をかわしてバイアランに接近する。
- そしてビームサーベルを振るって後退させる。
-
- それを見たザイオンはMSの性能もさることながら、ミライのパイロットとしての技量の高さに大きな希望が湧いてきた。
- 彼女ならこの状況を何とかして突破出来るかも、世界を変えられるかもしれないと。
- ザイオンは今この状況で自分のすべき事が分かった気がした。
-
- 「俺のことよりラクス様を早く!」
-
- 後ろからアルティメットフリーダムに切り掛かろうとしたストライクイージスの前に飛び出し、その攻撃を受け止めながら唸る。
- 自分の実力ではせいぜい相手のMSを抑えていることしか出来ない。
- ならば自分の思いも全て託して、ミライの背中を押して守ることが今自分がすべきことだと確信していた。
-
- ミライはザイオンの気持ちを汲み取るとコクリと頷き、フリーズ達の戦闘に背を向けてバーニアから光を溢れさせて月へと急ぐ。
- だがザイオンの制止を振り切ったイリウスは、アルティメットフリーダムの背後からビームを放つ。
- ミライは螺旋を描いてその攻撃を避けると、進行は緩めないままバイアランの方を振り返る。
- 同時に背中のドラグーンをパージして、周囲に散らばらせる。
- そして意識を集中させると、バイアラン目掛けて四方からビームを発射する。
- ドラグーンから放たれたビームは光の檻を作り出してバイアランを取り囲み、正確に頭部と武装、それに機体の四肢のみを貫く。
- あっと言う間にボディ部だけになったバイアランを横目に、ミライはドラグーンを収めるとラクスの居る本部を目指して飛び去る。
-
- イリウスは迸る閃光を目視することも出来ず、何が起こったのか理解出来なかった。
- 激しい衝撃が起こったと思ったら、モニタはブラックアウトし駆動音も途絶えた。
- 動かなくなった機体に対して操縦桿を乱暴に引いて何とかしようとするが、鉄屑の塊も同然のMSでは動くことすら叶わない。
- 言うことを聞かない機体にイライラが頂点に達したイリウスは、ケダモノのような咆哮を上げて目の前のコンソールを思い切り拳で叩きつけた。
-
- さらに複数のマラサイが接近するアルティメットフリーダムに気が付いて狙い撃ちにするが、今のミライの相手では無かった。
-
- 「邪魔をしないで下さい」
-
- ミライは叫びながら、モニタに映る全ての機体を同時にロックする。
- そして全ての火砲から光を放ち、一瞬で数10機のMSが頭部や武装を破壊され戦闘不能状態になる。
- そうして漂うMSの残骸を尻目に、光の尾を引いてその間を鮮やかに擦り抜けていく。
- それは瞬きを数度する間の僅かな時間のことだった。
-
- 電光石火の出来事にグリムはしばし茫然自失としていたが、我に返るとアルティメットフリーダムを追いかけようとする。
- だが今度はザイオンがその行く手を阻む。
- 相手は自分よりも格上だと分かっているが、それでも臆することなくフリーズの肩から激しい体当たりを喰らわせて注意を逸らせる。
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- 「お前の相手は俺だ!」
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- グリムには接触回線を通して聞こえるその声がひどく鬱陶しく感じられ、眉間に皺を寄せてフリーズの顔面に肘打ちを喰らわせて引き剥がす。
- それでもザイオンは怯まずストライクイージスに掴みかかる。
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- しかしアルティメットフリーダムに邪魔をされるまでは圧倒的に優勢だったということもあり、グリムは完全に舐めてかかった。
- 実際ショルダータックルは不意を突かれただけで、次に捕まえようとしたフリーズの手をあっさりと振り払うと素早くライフルを構えて、牽制の射撃を放ち近づく隙を与えない。
- やはりまともな1対1の戦いではストライクイージスが押し気味なのは変わらない。
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- ザイオンは何とか攻撃に耐えながら、振動に揺れるコックピットの中で歯を食い縛り、心の底から力を欲した。
- 相手を倒すためではなく、未来を切り開くために今を乗り越える力を。
- 何より今ここで倒れるわけにはいかない理由がある。
- この後、プラントで行方不明になっているヒカリとコウも助け出すさなければならない。
- 同志として、大切な友として、何としても果たしたい、果たさなければならない自分の責務だと思っている。
-
- 「俺はこんな所で死ねないんだ!」
-
- それは魂の叫びだった。
-
- すると体の奥で何かが弾けたような感覚が頭に響いた。
- 次の瞬間には周囲の状況がとても、全身の毛の先まで感じているのではと思えるほどクリアに掴めた。
- まるでスローモーションを見ているようにストライクイージスの動きが見えるし、自分の次の行動がどういう結果になるのかが頭に浮かんでくる。
- 突然鋭くなった感覚に戸惑うザイオン。
- だがストライクイージスを退けることに集中していた彼は、その疑問をすぐに掻き消すと眼前に迫っていた閃光を紙一重でかわす。
- フリーズも先ほどまでと違い、自分の思い通りに動かせる。
- これならいけると、ザイオンはお返しとばかりに射撃をお見舞いして、少しずつ形勢が逆転していった。
-
- グリムは突然動きが良くなったフリーズに戸惑う。
- さっきまではまるで新米パイロットが操縦しているかのようなたどたどしさがあったのに、今はベテランのパイロットが機体を自分の手足のように扱っているような印象を受ける。
- しかも強いと唸るほど反撃に転じてきた攻撃は力強く正確だ。
- とても同じパイロットが乗っているとは思えない。
- しかもエネルギー残量は危険域に到達しようとしてる。
- 早く戦いにケリをつけて補給に戻らなければならないという焦りが、僅かに動きを緩慢にして隙を作った。
-
- 今のザイオンはその隙を逃さなかった。
- さっと距離を取ると、フリーズの左腕を水平に構えてシールドをパージする。
- グリムは迫るシールドを振り切ろうとフットペダルを踏み込み、スピードを最大限まで引き出してジグザグ飛行を取る。
- しかしザイオンの操るバスターシールドは、逃げるストライクイージスよりも速く、確実に距離を徐々に詰める。
- シールドはついにストライクイージスに追いつき、その牙は右腕を捉えて砕く。
- 爆発した右腕の衝撃で仰け反るストライクイージス。
- その隙にすかさず距離を詰めたザイオンはビームサーベルを振り下ろした。
- グリムは必死の形相を浮かべながら何とか機体の体勢を反らせて、コックピットへの直撃を避けた。
- しかし左足は腰部の下からバッサリと切り落とされる。
- 同時にコックピット内にエネルギー切れのアラームが鳴り響き、ストライクイージスのフェイズシフトがダウンする。
-
- 今なら止めを刺すことは容易い。
- だがここで相手を殺すことが目的では無い。
- 戦闘継続が不可能と判断すると、ザイオンはストライクイージスの背中に蹴りを入れて、その反動を利用して本部目掛けて勢いよくアルティメットフリーダムの後を追った。
- グリムは死を覚悟したが、フリーズは自分に止めを刺さずに飛び去っていた。
- つまりは相手に見逃されたと言うことだ。
- それはグリムにとっては理解し難い行動だ。
- 彼はいつも攻撃は相手の息の根を確実に仕留めるように訓練を受けていた。
- 自分にとって敗北すると言うことはそうゆうことだと教わっていた。
- それなのに相手はそれをせず、自分をその場に残していった。
- グリムには生き残ったことを喜ぶよりも、むしろ苦々しい思いでいっぱいだった。
- 相手に見下されているような気がして、彼にしては珍しく悔しさを隠そうともせず、表情にありありとその感情を浮かべていた。
- 今グリムは産まれて初めて、屈辱的な敗北感を味わっていた。
-
- 先を行くミライは既に総崩れになっている防衛網も突破した。
- 正確にはそこに防衛網はもう存在していない。
- あるのはただの鉄屑と化した、先ほどまでMSと呼ばれたものの残骸ばかりだ。
- 最後までラクスを守るために戦い抜いた心ある者達の跡。
- 胸が締め付けられるような苦しみがそこには漂っている。
- ミライはその光景を歯を食い縛って通り抜けると、月面まで辿り着いた。
- ESPEM本部は目の前だ。
-
- だがその本部には最後まで抵抗を続ける数機のグロウズをなぶり殺しにするように、数十のマラサイが取り囲んで入り口に迫ろうとしている。
- 1機、また1機と凶弾に撃たれて炎に包まれる。
- ついに最後の1機となったグロウズにもビームが命中し、真っ赤な炎と黒煙を吹き上げて倒れた。
-
- それを見たミライは雄叫びを上げて機体を月面すれすれまで降下させると、そこから砂煙を上げて一直線に数十機のマラサイの集団に突っ込んでいく。
- まず前にいるマラサイ2機の頭と手足をライフルで撃ち抜き突破口を作ると、両手にビームサーベルを構えて集団の真ん中を突っ切る。
- 通り抜けたアルティメットフリーダムは急制動をかけて着地するが、突進した勢いで月面を両足で滑る。
- ようやく停止するとその動作に呼応するように、全てのマラサイが頭部と四肢をバラバラにされてその場に崩れ落ちる。
- 1機たりとも戦闘可能なものは無かった。
- だが1機もコックピットに攻撃を当てていない。
- 今戦っている相手がこの光景を作り出したということは分かっている。
- それに対して憤りを感じていないわけでは無い。
- それでもミライは不殺を貫いた。
- 憎しみによる復讐は何を生み出すことも無いということを、地球で散々学んできた。
- 今の目的は復讐することでも相手を倒すことでもない。
- だからその連鎖を自分のところで断ち切るのだと言い聞かせて、ミライの攻撃はパイロットにダメージのほとんどない箇所に正確に当てていた。
-
- さらにまだ本部に取り付こうと上空から迫るMS部隊に、ミライはドラグーンをパージして光の弾幕を張る。
- 同時に手にしたライフルを連射し、取り囲んでいたMSを次々に行動不能にしていく。
- もちろんそれらも1機もコックピットに当てずにだ。
- そうして本部を取り囲んでいたMSが全て活動を停止したのを確認すると、ミライは目の前に口を開けている通路から中に入った。
- その奥にある壁の向こうにはMSでは入れない、人間用の小さな扉がある。
- ミライは機体から降りて、そこからラクスが居ると思われる司令室を目指した。
-
- その頃別の通路には、バンのアポカリプスが侵入していた。
- バンは立ちはだかろうとした全てのMSを容赦なく破壊して突き進む。
- 通路の突き当たりと思われるところに出ると、バンも機体を降りて司令室へと向かう。
-
- ラクスはまるでそんな2人が来ることが分かっているかのように、司令室でじっと佇んでいる。
- これまでの攻撃で正面モニタもブラックアウトしており、衝撃による揺れは何度も襲っている。
- それでもラクスはその場所を動こうとしなかった。
- 死を覚悟しているのか、助けが来ることを信じているのか、その淡々とした表情からは読み取れない。
- ただ分かっているのは、彼女は自分の命よりも世界の行く末を、人類が進もうとしている道を心配していることだけだ。
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- 果たしてミライとバンのどちらが先にラクスの元に辿り着くのか。
- それが世界の、人類の命運を握っていた。
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