- ESPEM施設内は戦闘の衝撃で発電施設が壊れたのか、薄暗い非常灯だけが足元を照らしている。
- そのほの暗い闇の中の通路を、ミライは臆することなく進む。
- 幼少から暗いところは少し苦手だった。
- その真っ黒な中から自分をどこかに引きずり込んでしまう何かが、突然襲ってくるような気がして。
- 震えて泣いてしまったこともある。
- だがそんな時はいつも大好きな父と母が傍にいてくれたので、すぐに平気になった。
- その大きな温かい優しさで包んでくれるので、怖いということを感じる暇が無かったから。
- 今その両親が傍にいない。
- そのことが心許なさを抱かせるが、今はそんなことを言っている場合ではないことと、母を助けたいという必死な思いが恐怖を忘れさせている。
- 慎重とは言い難い歩調で、ミライはただ脇目も振らずにラクスの元を目指す。
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- 未だ外で続く戦闘の流れ弾が時折振動となって伝わる以外はしんと静まり返った場所に、それすらも戦争による犠牲者の嘆きの様に思えてくる。
- それがミライの心に影を射す。
- 何としても母を助けて、共に世界から戦争を無くしたい。
- いつしかミライの母を助けたいと思う気持ちは、キラやラクス達の夢、ひいては人類誰もが本来持っている筈の理想の世界に向かってのものへと変化していた。
- 自分自身でも気付かないうちに。
- もうアルティメットフリーダムに乗る前の、道を見失って進めなくなっていた彼女はどこにもいなかった。
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- 母と一緒にここを脱出したら、手助けをしながら世界中に戦争を止めるように呼び掛けていこう。
- それが自分が傷付けてきた相手への償いにもなる。
- そんなことを頭の片隅で考えながら、実際にはほんの数分だったが、感覚的にはとてつもなく長く思えた道のりの末に、ようやくラクスがいると思われる司令室と思しき扉の前に辿り着いた。
- これまではさすがのミライと言えども入ることを許されなかった、軍の作戦司令室。
- 普段のミライであればそこに入ることにワクワクした気持ちになるのだが、今はとてもそんな気持ちになれない緊張感が体の中を駆け巡る。
- ひょっとしたらという最悪のイメージが頭を過ぎり一瞬中に入ることを躊躇ったが、ミライは大きく深呼吸をしてネガティブな感情を吐き出すと、意を決して電子ロックのキーを解除した。
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PHASE-43 「対峙する運命」
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- 果たしてそこには、ミライが想像したような状況は無かった。
- 通路と同じような暗がりの中、静かに佇んでいるラクスの後姿がぼうっと浮かんでいる。
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- 「母様!」
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- ミライは扉を開けてラクスの姿を認めると思わず声を上げた。
- 母が無事かどうかという不安に今まで押し潰されそうになっていたのだが、ラクスの姿を見てその緊張から解放されたことによる安堵と、とても久し振りに会ったような気がして甘えたい気持ちも込み上げ、それが声となって表れたのだ。
- 心からの笑顔を浮かべてラクスに駆け寄る。
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- 胸に飛び込んでくる娘を受け止めながらラクスは尋ねる。
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- 「ミライ!?どうして貴方が此処に?」
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- 扉が開かれたと同時にラクスは静かにそちらを振り返った。
- てっきり本部を襲った相手が来たのだと思ったが、扉の向こうから現れたのは娘であることに驚いた。
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- 襲撃を受ける前、ミライは何とかケルビム共々オーブに辿り着き無事保護されたと聞いた。
- その後はヤマト派のファクトリーに向かい、そこでしばらく身を潜めることになるだろうことも分かっていた。
- そしてもし無事にファクトリーに辿り着いたなら、後は戦いから逃れて戦争とは離れたところで幸せに暮らしてくれればと願っていた。
- 自分達がいなくても、優しさを失わずに、自分と同じようにお互いに愛せる人と出会い、人並みの幸福を経験して生きていてくれればと。
- 心の奥底ではそれを望んでいた。
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- しかし現実はミライに戦うための手段を与えている。
- 戦うことに嘆き、傷つき、悲しんできた愛娘に、キラが乗る筈だったアルティメットフリーダムを託したのは替えられない事実。
- 申し訳ないと思いつつ、ラクスはミライに託すしかなかった。
- 世界に本当の自由を与えることが出来る剣を。
- 理想を唱えるだけでは思いを貫くことも叶えることも出来ないことを知っているから。
- それを持てるだけの力と心を備えているのは、ミライ以外には考えられなかったのだ。
- 相反する矛盾した葛藤の中でラクスが悩みぬいた末出した答えなのだ。
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- だがどちらにしても、二度とは会えないことは覚悟していた。
- 最後に母としてもう一度抱きしめたいと思っても、それも叶わないひどい母親だと非難されても仕方が無いと。
- それが突然目の前に現れて、会えたことを喜ぶよりも、自分の今の置かれた状況とその経緯から複雑な心境だった。
- 愛する人との間に産まれた大切な娘を巻き込んでしまうかも知れないという不安と恐怖。
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- 「貴方には私達の想いを託した筈ですわ。さあ早く逃げなさい。ここは私が引き受けます。ですから貴方はこの後のことを」
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- 随分と勝手な言い分だなと自分で自嘲しながら、ラクスはミライだけ逃げるように告げる。
- ラクスの頭にはまだここを動く、逃げるという選択肢が無かった。
- 世界のためにと思って活動してきたことが、今新たな争いの種になろうとしていることに責任を痛感しているのだ。
- もし生きてここを逃れても、自分の存在がまた争いの火種になるのであれば存在しない方が良いのではないかとも思う。
- そしてキラのいない世界で生きていくその辛さに、ラクス自身の心は折れそうになっていた。
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- 「何を仰るのですか。母様も一緒に脱出してください」
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- ミライはそんなラクスに首を何度も横に振り、必死にここを生きて出ることを考え、ラクスを連れ出そうとする。
- ここに来るまでにMSをいくつも戦闘不能にしてきた。
- だから少しは本部が襲われないように時間は稼げた。
- だがまだ安心は出来ない。
- 外には本部を襲う相手がまだまだいるのだ。
- 現に戦闘の影響と思われる振動は断続的に続いている。
- さらにはここを脱出するということは、その真っ只中を突っ切らなければならないのだ。
- むしろそれが一番危険で困難なことをミライは分かっている。
- 時間が経てば経つほど、また本部の周辺に襲撃部隊が集結している可能性もある。
- もちろん外で戦っているザイオンも心配だ。
- だから出来るだけ早くここを脱出して、生きて一緒に明日を迎えたい。
- 世界の人のために、そして自分や兄姉のために。
-
- 「母様、ここで貴女が倒れるようなことがあっても、世界は何も変わりません。世界にも、そして私や兄様姉様にも母様は必要なのです。そう教えてくださったのは母様ではありませんか」
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- ミライはじっとラクスの目を覗き込むようにそう訴える。
- その瞳はキラを思わせる同じ色で、強さを秘めた輝きを持っていた。
- まだ呆けていたラクスはその言葉と手から伝わる温もり、ミライの瞳に、忘れそうになっていたことを思い出す。
- キラとはお互いにかけがえの無いたった1人の存在だったが、そんなキラとの間に同じくらい大切な子供達が居る。
- 彼女達にとってもまた自分は大切な家族なのだということを。
- そしてこんな自分を助けるために、ミライが命懸けでここに来たのだと思うと涙が出そうになる。
- ここで死ぬ覚悟は出来ていた、死ぬつもりだったのだが、それは困難から逃げ出すことでもあることに気が付く。
- それを思い起こさせてくれたミライに、ようやくラクスの表情にも笑顔が戻った。
- しばらく離れている間に、こんなにも成長して大人びた娘に母としての喜びを感じずにはいられない。
- それは何事にも変え難い感動だ。
- この感動をもっと味わいたい、最後まで見届けてあの世でキラに会った時にキラに伝えたい、伝えなければキラにも申し訳ない。
- ラクスはようやく娘のためにも、キラのためにも生き延びようと決心が動いた。
- 大きく頷いて、ミライと一緒に司令室を後にしようとする。
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- しかし銃声が数回鳴り響き、1発は目の前の扉の前で、1発はラクスの頭を掠めて壁に火花を散らせる。
- ミライは即座に反応し、咄嗟にラクスを押し倒すようにしてテーブルの下に身を滑らせる。
- その直後、再び銃声が響くと同時に自分が立っていた床の上に火花が飛び散る。
- ラクスは襲撃者がここに向かっていることを失念していたことを悔やみ、ミライはここまで入り込んでいる者がいることに驚きと失望感を隠せない。
- しかも相手は銃を持っているがこっちは丸腰だ。
- 一気に圧倒的不利な状況に追い込まれた。
-
- ミライとは反対側の通路から進入したバンは、間一髪ラクスが司令室を出る前に辿り着き、別の入り口から部屋に入り込んだ。
- 暗がりで咄嗟に発砲したため命中はしなかったが、司令室から脱出を許さなかった。
- 一緒にいるのが誰かは確認出来なかったが、彼女らは袋の鼠も同然。
- バンは銃口を2人が隠れた方を向けたまま、勝ち誇ったように喉の奥を鳴らす。
- ラクスがどれだけ大層なことを言おうが、彼女自身が武器を扱えず、大した戦闘能力を持っていない以上指を掛けている引金を引いて、放たれた銃弾が捉えればそれで終わる。
- 実に簡単な作業だ。
-
- 「隠れても無駄だ、ラクス=ヤマト。お前はここで死ぬんだ、新しい世界のためにな。潔く出て来い」
-
- 机の影に身を潜めながら、キラにそっくりな声で喋り、しかしキラではありえない男に、ラクスは嫌悪感を滲ませた表情を浮かべる。
- 分かっていても、その声にどうしてもキラとの思い出がラクスの脳裏に甦り、自己嫌悪する。
-
- ミライは父と同じ声を出す相手に戸惑いを隠せず、そんなラクスの横顔を覗き込む。
- どうやら母の表情から父では無いことは間違いないようだが、それにしても声の質は本当によく似ている。
- 一瞬本当に父が話しているのかと思ったくらいだ。
- しかし暫く様子を伺っていると、纏った雰囲気は明らかに父のそれとは違うことがミライにも分かる。
- そしてMSパイロットの感だろうか、それがストライクフリーダムを討ったMSのパイロットだとも直感的に感じた。
- またふつふつと湧き上がる怒り、憎しみといった感情を何とか飲み込んで、一体どんな人間なのかとテーブルの影からそっと覗き込む。
- 非常灯の灯りしかないのでよくは見えないが、男は奇妙なマスクを付けており、それが光を怪しく反射させている。
- そのため表情や顔を見ることは叶わない。
- しかし父とは似つかない、世界の全てを憎んでいるような禍々しい気配を撒き散らして、銃を構えたままゆっくりとこちらに近づいてくることだけは分かる。
- ミライはその佇まいに漠然とした恐怖を感じる。
- だがそこで怯むミライでは無い。
-
- 「一体貴方は何者ですか?」
-
- ミライは恐怖心を振り払いながら、この状況を何とか打破できないかと周囲を見渡しながらバンに問い掛ける。
- 追い詰められた状況だがまだ諦めてはいない。
- そんなに簡単に諦められるほどの思いでここに来た訳ではない。
- 視線は周囲に配られながら、頭では必死にバンから逃れる術を考えていた。
-
- 問われたバンは、ミライの声がラクスそっくりだったためラクスが尋ねてきたのだと思った。
- 小ばかにしたように息を吐き出してから答える。
-
- 「言った筈だ。俺はキラ=ヤマトだと。世界が人間が愚かな夢の果てに産み出した最高傑作、それと全く同じもの」
-
- そう言うとバンは演説を聞かせるような口調で嘯く。
-
- 「最高のコーディネータ、キラ=ヤマト。それだけの力を秘めながらその力を生かせず、結局世界は混沌としたものになった。だが俺は違う。最高の力でもって世界に君臨して、世界を統治する。ラクス=ヤマトのような甘い理想論ではなく、キラ=ヤマトを作り出した愚か者の望んだとおりにな」
-
- 自分という存在が一体どれほどの価値があるのか、バンは分かっているつもりだった。
- その気になれば世界の全てを変えることが出来る、あらゆる力を授けられた、人の手によって作り出された唯一の命。
- それが最高の幸せでそれを叶えられるようにと授けられたのがこの力だと言うのなら、望みどおりに成してやる。
- 人類がどれほど愚かな存在かを、自らが作り出したものによって思い知るがいい。
- それがバンをここまで駆り立てた思いだった。
-
- そのバンの演説を黙って聴いていたミライは、自分が信じる父親のイメージとは全く異なる講釈を語るバンに、ラクスと同じような嫌悪感を抱く。
- 自分を助けるために命を落とした父。
- その父を憎んでいるという事実への悲しみと、父を軽蔑するようなその物言いにミライの胸にはふつふつと怒りが込み上げる。
- このまま隠れていることは負けを認めているようなものだと思えてきた。
- いよいよ我慢出来なくなったミライは、ラクスが止める間もなくテーブルの影から勢いよく飛び出した。
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- 「父様はそんなことは言いません。それをすることもありません。貴方は父様ではありません。名を語るのを止めなさい」
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- そう言ってバンを睨みつける。
-
- バンは飛び出してきたのが少女であることに軽い驚きを覚えるが、見覚えがあるその容姿に誰なのかすぐにピンときた。
-
- 「そうか。お前がキラの娘か。ふふふ、ははは、あはははははっ」
-
- バンは笑いが止まらない。
- キラの存在とそれと深く関わりのある者は、バンにとって全て忌むべき対象だ。
- ここでラクスばかりか、その娘をも始末出来るとなれば目的もまとめて達成出来る。
- 何もかもが自分の思い通りに進んでいるような錯覚を覚えて、バンは優越感に浸る。
- このまま消すことは簡単だがそれでは少しつまらない。
- もう少しこの何も知らない少女を精神的に追い詰めてからという、サディスティックな感情が芽生える。
- 特にキラと容姿の似ている目の前の少女をいたぶることは、バンに歪んだ興奮を与えた。
-
- 「お前は俺の娘も同然なのだ」
-
- バンの言葉にミライは眉を顰めて、その意味を図りかねる。
- 自分はキラとラクスの娘以外ありえない。
- それなのに目の前の奇妙な男は何を言うのだろうと戸惑うばかりだ。
-
- 「キラ=ヤマトの娘であるということはそういうことだ。お前も人の業によって産まれた、血塗られた命か」
-
- キラの出生の秘密を知らないミライにとっては理解の出来ない話が続く。
- それはまるで父が普通の人間ではないと言われているようにも聞こえて、自分自身もそうだと言われているようにも思えた。
- もしかしたら両親の本当の子供では無いのかという疑いさえ、頭をもたげてくる。
- 信用していない訳ではないのに、そんな考えが浮かんだ自分に戸惑い、悲しくもなる。
-
- 「ミライ、その男の言うことを聞いてはなりません」
-
- ラクスはミライを守ろうと背中に守るようにバンとの間に割って入る。
- キラばかりかミライまでも誑かし貶めようとするバンを、ラクスは妻として母として許せなかった。
- 自分の命が狙われていることも忘れて、バンの前に立ちはだかった。
- そしてきっと睨みつけると、強い口調で告げる。
-
- 「貴方はキラではありませんわ。どうあっても私が愛したキラは、ミライの父親であるキラはこの世界に1人だけ。それは何者にも真似をすることも取って代わることも出来ません。貴方はキラでは無い」
-
- ラクスの言葉にバンは持ち上げていた口の端をすっと元に戻すと、苦痛を堪えるように歯を見せる。
- またもキラの紛い物だと自分を拒絶するラクスに眩暈がしそうなほど怒りが込み上げる。
- 同じDNAから産まれたというのに、この扱いの差は何だ。
- 遺伝子的にはキラと何も変わらないのに、何故こうまでキラと自分を区別するのか、キラでは無い自分を認めようとしないことが理解も出来ない。
- むしろ物心がつく前から厳しい訓練を受けてきた自分の方がキラよりも優れている、その能力を充分に引き出せるという自負が、バンの中の憎しみをより一層引き出す。
-
- 「キラ=ヤマトに代わるつもりは無い。俺はそれを越える存在だ。それが分からない無能な貴様らにもう用は無い」
-
- バンは怒りを込めてラクスの言葉を否定する。
- これ以上ラクスと対峙しているのはたまらなく苦痛だった。
- さっさと片付けてこの胸の溜飲を下げなければ気が済まない。
- もう躊躇わずに引金を引いた。
- ラクスは撃たれることを予想しぎゅっと目を瞑り、バンは銃弾が命中したことを信じて疑わなかった。
- しかしミライは2人の予想を上回る動きを見せた。
-
- ミライはバンとラクスのやり取りを半分も理解出来なかったが、自分は間違いなく両親の娘だということだけはラクスの行為で信じられた。
- やはり間違ったことを言っているのは目の前の、顔を晒すことが出来ない男の方だと。
- 一瞬でも両親を疑った自分を恥ずかしく思い、母を目の前で撃たれることをミライは心の底から嫌だと願った。
- するとバンが銃の引金を引くと同時に、ミライは再び体の中で何かが弾ける音を聞く。
- 次の瞬間、ミライは反射的にラクスを突き飛ばして銃弾の軌道から体を逸らせた。
- 同時にその反動を使って自分は反対側へ飛ぶ。
- あまりに俊敏な動きにバンは驚き、床に倒れこんだラクスよりも先にミライに銃口を向けて次の銃弾を放った。
- しかしミライはその銃弾を掻い潜って、弧を描くようにバンの周囲を駆ける。
- そして床に頭から飛び込むとそこに落ちていた何かの機器の破片を手にする。
- そのまま流れるような動作で一回転して素早く状態を起こし、手にした破片を投げつける。
- それはバンの手に見事に命中して、バンは銃を落とす。
- 続けてミライはもう片方の手に掴んでいた同じような破片を投げつけ、今度はバンの仮面に命中する。
- バンは衝撃にくぐもった声を上げると、頭に手を当ててよろけた。
- その隙をミライは見逃さない。
-
- 「母様、走ってください!」
-
- ミライの叫びにラクスはハッとして立ち上がり、伸ばしたミライの手を取る。
- そしてバンの方を振り返らずに全力で走って司令室を飛び出し、アルティメットフリーダムを置いた場所を目指す。
-
- バンは2人が司令室を出て行く気配に慌て銃を拾ってもう一度引金を引くが、銃弾は扉を出ようとする母娘の影しか捉えなかった。
- しかも今の1発で弾切れになる。
- バンは舌打ちして銃を床に叩きつけると、2人を追いかけずに自分のMSへと来た道を戻る。
-
- まさかキラの娘にあそまで邪魔されるとも思わなかった。
- あの動きは最高のコーディネータの血を引く者だということか、と頭の片隅で評価しながらも苛立ちは隠せない。
- 冷静さを保とうと務めれば務めるほど怒りは込み上げてくる。
- どこまでも自分の邪魔をするキラの血縁者に、腸が煮えくり返ってマスクの隙間から覗く口元は憤怒に赤く染まっている。
- 予想外の失敗に歯軋りしながら、バンはアポカリプスに乗り込むと乱暴な手つきで起動させる。
- 情報では自分達が襲撃した時はミライはここにいなかったことは分かっている。
- おそらくMSに乗ってここまで来ただろうことは予想出来た。
- ラクスを連れてそのMSで脱出を試みるはず。
- そう当たりを付けたバンは、ならば何があってもこの月の上で親子共々宇宙の藻屑に変えてやる。
- その胸の内を凶暴な感情にだけ染め上げて、アポカリプスは飛び出した。
-
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