- 司令室を脱出してアルティメットフリーダムの所に辿り着いたミライとラクスは、急いでコックピットの中へとその身を滑らせた。
- 飛び込んできた2人に反応して、置いていかれた2体のハロが待ちくたびれたと言わんばかりに騒ぎ出す。
- ミライは苦笑を浮かべてハロ達に謝罪すると、バンが追ってきていないかを確認する。
- 人影が見えないことから、どうやら追ってきてはいないらしいことに安堵の息を零す。
- それからラクスに積んであった予備のパイロットスーツを渡してシートの後ろに座らせる。
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- 「少し狭いですが、我慢してください」
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- そう言いながらラクスがパイロットスーツに着替えるのを手伝い、終わるとハロを手渡した。
- ラクスは大丈夫ですわと微笑んで、ミライの言葉に従いハロを抱きかかえるようにしてシートの後ろに体を沈める。
- それを確認するとミライは正面を向いて座り直し、アルティメットフリーダムを起動させる。
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- キラを髣髴とさせるミライの手捌きを見つめながら、ラクスは自分の知らぬ間に強く逞しくなった娘に目を細めた。
- 戦うための力を授けたことが母としては胸が痛いが、ミライならば自分達の思いや考えを理解し、未来に繋げてくれるだろう。
- そう確信するにはミライの言動は充分なものがある。
- まるでフリーダムを預けた時のキラのように。
- それだけ自分も年を取り、時代は次の世代へ移りつつあるのだということを実感する。
- 嬉しいような少し寂しいような、切なげな笑みを浮かべてミライの作業を見守った。
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- 「では行きます」
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- 準備を終えたミライは少し緊張した面持ちでレバーに手を添える。
- 外の状況がどうなっているのか分からない。
- ただ司令室でバンと遭遇したのは予想外だったが、ここからは先は否応にも厳しい状況の中に飛び出すことになる。
- 万が一自分が討たれるようなことがある、それはすなわち母も討たれることになるのだ。
- それがミライに緊張感をもたらす。
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- 「はいどうぞ」
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- しかしラクスは微塵の不安も感じさせない声色で返事をする。
- どのような結果になってもそれを受け入れる覚悟が出来たことと、ミライのことを心から信用しているから何も恐れるものはなかった。
- 根拠は無いが、ミライと一緒にいると大丈夫と思えるのだ。
- 不思議と昔からそういう気持ちにさせてくれる子供だった。
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- ラクスの響く声が、自分のことを心から信頼してくれているという思いと共にミライにも伝わる。
- それがミライの気持ちを落ち着けた。
- 何としても脱出するという強い気持ちと、理屈ではなく脱出できると思う気持ちが湧いてくる。
- ミライは後ろにちらりと視線を送って頷くと、力強くレバーを引いてフットペダルを踏み込んだ。
- そのミライの思いに応えるように、アルティメットフリーダムは希望を携えて月の中から飛び出した。
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PHASE-44 「明日への脱出」
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- ザイオンは何機目になるか分からないMSの頭部を切り裂いて、肩で息を吐いた。
- ミライは無事に本部に辿り着いただろうか、ラクスを助け出せただろうかと心配をするが、自分もあまり他人を気にしている余裕は無い。
- 戦闘をずっと続けてきたことによる疲労を感じ始めている。
- フリーズのエネルギー残量を示すメモリも、イエローゾーンの後半に突入している。
- もうそれほど長くは戦闘を続けられないだろう。
- だが弱音は吐くわけにはいかない。
- その無茶を承知でここまでやって来たのだから。
- 新しいMSの接近にも、大きく息を吸い込むと果敢に立ち向かっていく。
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- 本部を飛び出したバンはミライ達がどのMSで来たのか、それらしい機影を探していたが、戦闘を続けるフリーズを発見すると迷わずに狙いを定めた。
- これまで何度も苦渋を舐めされられた、奪い損ねたMS。
- 自分の部隊がこれだけ展開している中で、それを突破してあそこまで辿り着けるMSがそう何機もあるとは思えない。
- 今もここでただ1機奮闘している実力から言っても、それが一番可能性が高いと思われた。
- またあれにミライとラクスが乗っているのかと思うと、これまでも親子揃って自分の前に立ちはだかり邪魔をし続けてきたことになるのだから、腹立たしさは余計に募る。
- 積もり積もった怒りが頂点に達したバンはフリーズ以外のものが視界に入らなくなり、雄叫びを上げてまっしぐらに襲い掛かる。
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- ビームサーベルを振るうマラサイの攻撃をかわしながら、さらに新しいMSの接近にザイオンは舌打ちした。
- それはレーダーのデータベースが示す、MSの機種が原因だ。
- 一度ケルビムを襲撃され、その時にキラの駆るシャイニングフリーダムを撃ち落したMSだということを覚えていた。
- キラですら敵わなかった相手に、自分が勝ち目などある筈も無い。
- いよいよ進退窮まったと思った。
- だがミライが出てくるまでは自分が敵の目を引き付けておかなくては、最悪自分の身を盾にしてでもミライを生き延びさせなくてはと気持ちを奮い立たせると、パージしたシールドでマラサイの頭部をもぎ取り、アポカリプスに向かっていく。
- とは言えまともにやっては勝ち目が無いことは分かっているため、アポカリプスの死角へ回るように動きながら遠距離での攻撃を試みる。
- しかしアポカリプスはフリーズの攻撃を難なく掻い潜って近づいてくる。
- ザイオンはこれまでのMSとは明らかに一線を画す性能とパイロットの技量に、改めて強敵であることを認識する。
- 苦し紛れにシールドをパージするが、それもあっさりビームサーベルで切り払われ、反撃のビームを機体の上半身を捻って辛うじてかわので精一杯だ。
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- 「ええいっ、ちょこまかと」
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- バンはライフルの連射を紙一重でかわして粘るフリーズに苛立ちを募らせる。
- 相手の高い実力を認めざるを得ないことと認めたくない気持ちの狭間で揺れながら、普段ならゲーム感覚で自分の力に酔い痴れるようなところを見せるが、今は完全にその余裕も失せ、一気にケリをつけようと背中のドラグーンをフリーズを取り囲むように飛ばす。
- そして光が覆う包むように、フリーズ目掛けて一斉に発射する。
- ザイオンは歯を食い縛って回避を試みるが避けきれず、その内の幾つかがフリーズの下半身を捉えた。
- 腰から下が激しい爆発で吹き飛ばされる。
- 幸いにもコックピットは振動に揺れただけだったが、そのダメージにより残り僅かだったエネルギーも一気に流出し、フェイズシフトがダウンしてしまう。
- 推進力も奪われて方向転換もままならない。
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- そのフリーズに対して、バンは容赦なくライフルの狙いを定めて引金を引いた。
- ミライとラクスが本当に乗っているかも確認していないが、フリーズを討つことに頭が一杯でそれどころではない。
- とにかく今度こそという思いでフリーズに目掛けて伸びる光を見送る。
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- 何とか最後の一瞬まで抵抗しようと無茶苦茶に操縦桿を引いたりスイッチを操作していたザイオンだが、辛うじて移るモニタで動かなくなったフリーズに対してアポカリプスがとどめの射撃を撃ったのが見えた。
- まだまだやりたいこと、やらなければならないことはたくさんある。
- だがそれもここまでかと思うと、不思議と恐怖は無かった。
- 後のことをミライと幼馴染の双子に託す思いで、眼前に迫る光に自分の死を静かに覚悟した。
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- しかし目の前に張られた光の膜が、フリーズを襲ったビームを弾き飛ばす。
- バンばかりかザイオンも驚き、レーダーに現れたMSの反応がある方へ目を向ける。
- そこにはドラグーンをパージしたアルティメットフリーダムの姿が、悠然とあった。
- 背中のスラスターから翼のような光を零している様は、さしずめ鋼鉄の天使と言ったところか。
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- 「大丈夫ですか、ザイオンさん」
- 「ああ、何とか大丈夫だ」
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- ザイオンはミライが無事であったことに思わず笑みを零す。
- モニタにはシートの後ろにラクスの姿も確認出来た。
- これで当初の目的は果たせた。
- 後は2人がここを無事に離脱さえしてくれれば良い。
- とても満ち足りたような感覚で、急に疲労による脱力感に襲われてシートにどさっと体を預けた。
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- ミライはザイオンが無事であることに安堵の息を吐く。
- しかしフリーズは大破して満足に動くことも出来ないため、このままでは宇宙を漂流するか、他の襲撃者に撃ち落されてしまう。
- 目の前に立ちはだかるMSは、キラを討った相手だということは分かっている。
- 発せられる雰囲気からパイロットもあの奇妙な仮面を付けた男だということももちろん分かっている。
- 父ばかりか母の命も狙った許し難い相手。
- それでも憎しみの心に支配されないミライは、冷静に今何をすべきか考え、とにかくこの宙域をザイオンを連れて離脱することを最優先に考える。
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- その頃バンは示された表示はUNNKOWNとなっているが、フリーダムとそっくりな機影のMSに驚く。
- 確かに先の地球降下すれすれの戦闘で、自分はキラの駆るシャイニングフリーダムを討ち取った筈だった。
- それが何故また目の前に立ちはだかるのか。
- 狐につままれたような感覚で、次の行動に移ることを一瞬忘れた。
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- その一瞬の隙を逃さず、ミライはフリーズを守っていた膜を解除すると、ドラグーンをそのままアポカリプス目掛けて飛ばす。
- 攻撃に気がついたバンも慌ててドラグーンを展開すると、2機から放たれたそれらはビームを交錯させ光が乱舞する。
- それは漆黒の宇宙を眩く照らし、バンはその光に目を眩ませる。
- その隙にミライはボロボロのフリーズを抱えて、宙域からの脱出を試みる。
-
- 目の眩みが治まるとバンはアルティメットフリーダムが離脱しようとしていることに気が付き、逃がしてなるものかと、仮面の上からでも分かるほど、口をへの字に歪めて鬼のような表情ですぐに後を追う。
- 直感的にフリーズではなくアルティメットフリーダムにミライとラクスが乗っているのだと確信を持った。
- それはパイロットから伝わる感覚が、フリーズからは感じられなかった、キラでは無いがキラと似た雰囲気がアルティメットフリーダムからは感じられるからだ。
- その奇妙な感覚がキラの娘であったとしたら、これ以上納得のいく理由は無い。
- まして最強のMSと言われているフリーダムを継承した筈の機体に乗っているのだ。
- バンで無くともそう思って然るべき判断材料は揃っていた。
- そしてそれは間違いではない。
- バンは妄執的にただアルティメットフリーダムの背中だけを視界に入れて、それを追い掛けた。
-
- ミライはしつこく追い縋るアポカリプスを尻目にバーニアの出力を最大まで上げる。
- しかしいくらアルティメットフリーダムが最新鋭の機体で機動力がずば抜けていようと、フリーズを抱えたままではスピードが上がりきらない。
- アポカリプスも同等の性能、機動力を持っているため、少しずつ距離を詰められついにライフルによる射撃が届くところまで追いつかれた。
- 背後から連射するアポカリプスの攻撃を機体を錐揉みさせながらかわし、歯を食い縛って必死に逃げるミライ。
- だがフリーズを両手で抱えているため、ライフルによる牽制も反撃もままならないため、少しずつ追い込まれていく。
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- 「俺を捨てろ、ミライ。ここで揃って命を落とすことは無い。君とラクス様だけでも逃げるんだ」
-
- ザイオンは見かねて叫ぶ。
- 肝心な所で何も出来ない自分が足枷になっている状況が情けなかった。
- 今大事なのはミライとラクスがここを無事に切り抜けること。
- フリーズさえ抱えていなければ、アルティメットフリーダムならば何とか振り切ることが出来る筈だ。
- だから自分のことは気にするなと言うのだ。
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- 「嫌です。皆で生きなければ意味がありません。大丈夫です、必ず振り切ってみせます」
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- だがミライは頼もしくもザイオンの言い分を即座に突っぱねる。
- その胸には強い決意が漲っている。
- ただこのままではやがて追い詰められることは目に見えている。
- 何とか状況を打開しようと、ミライは視線を前方を見据えスピードを全く殺さないまま、意識をドラグーンへと集中し追ってくるアポカリプス目掛けてビームを放つ。
- ドラグーンのビームはアポカリプスに命中しなかったが、バンは機体を左右に大きく振って回避した。
- その分アルティメットフリーダムとの距離は僅かに開いた。
- それを見たミライはフットペダルを目一杯踏み込んで振り切りにかかる。
-
- 尚もしぶとく自分から逃れようとするアルティメットフリーダムにバンは舌打ちをして、さらに追い掛けようとフットペダルを踏み込んだ。
- そこに通信が割り込んでくる。
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- 「バン深追いし過ぎだ。残りの作戦に支障が出る。遊んでいないでいい加減戻って来い」
-
- ザイオンとの戦いで機体を大破したグリムは、何とかセントルーズまで辿り着くと、アポカリプスがこの宙域をどんどん離れていくことに気が付いた。
- 今回の作戦はESPEM本部を完全に抑えることにある。
- その作戦もまだ遂行中なのだ。
- 追っているUNNOKWNが何者かは知らないが、部隊の指揮者であるバンが離れてしまっては、作戦そのものが立ち行かなくなると判断した。
- 普段は冷静に大局を見据えて的確な判断を下すバンらしからぬ行動に、グリムは注意を促した。
-
- 「煩い。ラクス=ヤマトがあのMSに乗っているんだ。ここで仕留められなければ何のためにやってきのか分からん」
-
- バンからの返答に、まさかラクス暗殺が失敗するとは思っていなかったグリムは一瞬言葉に詰まる。
- キラ=ヤマトがいない今、それに対する執念の塊であったバンからラクスを守りきれるだけの相手はいないと思っていた。
- 逆を言えばバンの手をそこまで煩わせる相手がまだ残っていたということになる。
- そしてその相手に思い当たる節もあった。
- 感が当たっているとすれば、バンが敗れるとは思わないが一筋縄ではいかない強敵であることも事実。
- ますますバンをこのまま深追いさせるわけにはいかない。
-
- 「冷静になれ。ラクス=ヤマトを殺る機会はまた訪れる。それよりも今後のために今は本来の作戦を成功させることを考えろ」
-
- グリムの言うことは正論だ。
- まずはESPEM本部を完全に制圧することが作戦の第1歩で本命の仕事だ。
- ラクス暗殺はそれを果たした上での、次の作戦の筈だった。
- だが頭に血が上っているバンには、その正論がとても癇に障る。
-
- 「指揮官は俺だ。貴様が俺に命令するんじゃない」
- 「だったら指揮官らしく、個人的な感情で行動するのは止めろ」
-
- 尤もな、だが強引な言い分でグリムの意見に耳を貸さない。
- グリムも冷静ながらも負けじと言い返し、2人は互いを罵り合うように自分の意見を主張する。
- そのグリムとの言い合いに意識が強く移ったバンは、アルティメットフリーダムを狙う攻撃の手が緩んだ。
-
- アポカリプスからの攻撃に集中していたミライは、一瞬だが攻撃が止んだ隙を逃さない。
- 両腕のシールドをパージしてアポカリプス目掛けて飛ばす。
- そしてその先端を大きく開いてドラグーンと併せて内臓されたキャノン砲と一点集中した攻撃を浴びせる。
- 気が逸れていたバンは攻撃に気が付いて慌てて回避行動を取ろうとするが、とても間に合わない。
- 避けそこなったバンは、ビームシールドで防御するしか無かった。
- 歯を食い縛り、襲ってくる光と衝撃に耐える。
- 機体への大きなダメージは防げたが、直撃による衝撃で完全にスピードは殺され、むしろ後方へ弾き飛ばされた。
-
- それを見たミライは機体の体勢を戻すと、駄目押しとばかりにもう一度シールドキャノン砲を発射してから一気にアポカリプスを引き離した。
- ヤマト派の秘密基地までにあるデブリ帯に入れば、その中に紛れて振り切れる。
- ミライは後ろを振り返らずに真っ直ぐにそのデブリ帯の中に飛び込んだ。
-
- ビームの光が治まる頃には、アルティメットフリーダムは遠く光の点、デブリ帯の中に吸い込まれていった。
- まさか相手に討ち取られるとは思ってもいないし機体のエネルギー切れの心配も無いが、万一デブリの中で撒かれてしまうと宇宙の漂流者となってしまう。
- さすがのバンも何の準備も無しに漂流しては長く生き延びることは出来ない。
- それが分からないほど愚かでも無いバンだ。
- これでは追撃は諦めざるをえない。
- まんまと逃がしてしまったその許し難い状況に、怒りにワナワナと震えてコンソールを拳で思い切り叩きつけた。
-
- 「グリムゥ!貴様の邪魔のせいで奴らを逃した。何を考えている!」
-
- グリムが通信して集中力を妨げなければ仕留められる自信があった。
- それだけにバンはミライとラクスを仕留め切れなかったことをグリムのせいにして怒鳴り散らす。
- だがグリムは冷静に受け答える。
-
- 「お前ほどの男が何を熱くなっている。これはまだ世界を変革させるための1歩に過ぎないんだぞ。それに今更ラクス=ヤマト1人逃したところで俺達に抗う力は無い。敗者の言葉には誰も耳を貸さない。愚かな人類とはそういうものだ。今誰の言葉に最も耳を傾けるかと言うと、それは最も優れた力を持つバン、お前じゃないのか」
-
- バンはグリムの言うことに自らの自尊心をくすぐられ、まだ怒りが納まりきらない様子だったが、何とかまともに会話が出来る程度には冷静さを取り戻す。
- 一瞬返答に詰まった後、少しだけ声のトーンを落として唸るように呟く。
-
- 「ああ、そうだ。キラ=ヤマトのいないラクス=ヤマトなど恐るるに足らずだ」
-
- そうだキラ=ヤマトがいない今、自分こそが最高のコーディネータ。
- 人類で最も優れた才能と力を持った人間だ。
- ラクス=ヤマトなど足元にも及ばない、俺こそが人類を導く担い手に相応しい者だ。
-
- バンは自分自身に言い聞かせて気持ちを落ち着ける。
- 後は感情を押し殺した様子で、帰艦する、とだけ零してアポカリプスをセントルーズに向けて移動させた。
-
- そのバン様子にグリムは小さく溜息を吐いた。
- 感情を抑制し切れないようでは所詮奴も”紛い物”ということだな、と心の中では酷評する。
- バンのMSパイロットとしての能力は評価できるものの、感情の起伏によってこれほどムラがあるようでは、完璧とは言い難い。
- これでよく最高のコーディネータだとか言えると呆れる。
-
- しかし、とグリムは思考をバンのことから切り替える。
- グリムにとってもラクスにここを逃れられたのは予定外だが、生きているのならそれを利用する手もあると内心では考える。
- ESPEMが事実上崩壊したことで、とにかく自分達の目的を達成するために障害となるものが一つ消えたのは間違いない。
- 自分が次の一手を打つ時が近づきつつあるのを感じる。
- 後はどこでどうやってそのカードを切るかということが重要だ。
- あっちは自分を利用しているつもりだろうが、こっちも利用しているのだ。
- バンにも自分の手の内は知られていない、知られるわけにはいかない。
- そのためにも、あんな無様な感情は一切表に出すことはしない。
- 自分の”今の”任務はバンの命令に従って作戦を遂行すること。
- 戦場に立つ兵士に主義や主張、ましてや自分を抑しきれなくなる感情などは必要ない。
- ただ淡々と任務を遂行していればいいのだ。
- グリムはそう心に誓いながら、まだ怒りが治まり切らないバンを冷めた様子で見つめていた。
-
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