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介護福祉士
地球から見上げる月の裏側、その地下に密かに建設された基地に潜むブルーコスモス。
元々地球軍がまだブルーコスモスの手の中にあった時に、プラント強襲用に建設されたもの。
月表面からは巧妙に隠され、簡単にはそこに基地があるとは認知できない。
そこに続々と運び込まれる物資、MS。
それらを大声を出しながら運び出し、所定の場所に積み上げていく作業員達。
そしてその中には、禍々しき光を放つ禁断の兵器も。
これで今度こそ宇宙(そら)の化け物どもを消し去る。
そんな恐ろしい決意が基地内には満ち溢れていた。
強烈なリーダーシップで指揮を取る者もなく、また地球軍からも追われる身となり、母体が解体された今資金援助もままならぬまま、それでも盲目的な信者のごとく彼らの合言葉は誤った勇気を与えた。
青き清浄なる世界のために。
全てはコーディネータがいるからだ。
コーディネータさえいなければ自分達はこんな目に合わずに済んだんだ。
コーディネータを排除できるなら多少の犠牲など。
コーディネータが・・・。
出てくるのはコーディネータに対する不満、怒り、憎しみばかり。
その暴走した狂気だけが彼らの結束力を高めていた。
その感情がやがては自分達を滅ぼすことになることにも気付かずに・・・。
PHASE-03 「青き清浄なる世界、再び」
月面を低空飛行で移動するザフト軍MSザクウォーリア。
装備されたカメラを最大限に使用し、月に怪しい影がないかパイロットが入念に確認している。
しかしそれらしいものは何も発見できず、大きく息を吐いて命令の下されたポイント内を全て捜索し終えると、報告のために方向転換し、所属する艦へと帰還する。
ザフト軍月監視探索部隊。
その中の一艦、ナスカ級<ヴェルトール>艦長、アーサー=トラインは帰還した部下からの報告を受けていた。
「ポイントX-337にはそれらしい影は見当たりません」
「わかった、ではポイントX-382の捜索を引き続き行ってくれ」
報告を受けたアーサーは次のポイントの捜索を指示した。
モニター越しに敬礼するとMSのパイロットは通信を切り、再び新たな捜索ポイントへとバーニアをふかす。
モニタでその光が遠くなっていくのを、アーサーは複雑な心境で見つめていた。
「しかし、本当にあるんですかね」
もう何度目かになる同じ内容の報告に、ヴェルトールのオペレータ、ボブ=ネルソンはそう愚痴を零す。
同意するように周りのオペレータ達も頷いたり溜息を吐く。
捜索しているのは、月裏側に潜伏していると見られているブルーコスモスの秘密基地。
プラントはもちろん、地球でも”ロゴス狩り”の余波でブルーコスモスには居場所がなくなっていた。
地球軍では主だったブルーコスモス派の幹部が更迭され、地球の市民間でもブルーコスモスの排除を訴える声が噴出。
結果様々なところで衝突が起き、過激派組織として地球軍や政府に追われる格好となっていた。
そうした中手に入れた様々な情報を整理する上で、月の裏側に潜伏しているという情報を入手、これを放置できないと捜索隊が組まれたわけだが。
捜索を始めて1週間、簡単に見つかるとは思っていなかったが一向に見つからないブルーコスモスの所在に、不安と苛立ちが募るのも無理はなかった。
「不安になるのはわかるが焦るな。ブルーコスモスは今や地球でもテロリストとして追われる組織だ。巧妙に隠れているようだが必ずある」
レクイエムでの戦闘でミネルバは撃墜されたが、それまでの功績を認められクルー達はそれぞれ新たな部隊に転属。
その中でアーサーはヴェルトールの艦長に就任した。
タリア=グラディス、ミネルバ艦長より後を任されたことは、少なからず彼を成長させたこともある。
今では艦長職も板についてきており、ヴェルトール乗組員からの信頼も厚い。
アーサーも実際先の見えない捜索活動に不安を抱いていたのは事実だ。
それを艦長である自分が見せるわけにはいかない。
部下が漏らしてくれたことにホッとしたというのが本音だ。
「それに我々コーディネータにとっては大きな脅威だ。野放しにはできないだろう」
これまでのブルーコスモスの行動を見ればそれはアーサーでなくとも誰もが思い、理解できることだった。
-”血のバレンタイン”や”レクイエムの悲劇”のような思いは二度とはしたくない。-
それはプラントの全ての人々に共通した思いだ。
アーサーは自分自身にも言い聞かせる様に命令を飛ばす。
「とにかく見つけることが我々の任務だ。捜索を続行する!」
*
プラント内、議長室。
備え付けられた通信機に向かって座るバルトフェルドは、月捜索部隊からの定時報告を受けていた。
「そうか、分かった。すまんが捜索は続行させてくれ」
そう応えを返し通信を終えると、バルトフェルドはわざとらしく大きな溜息をついて肩をすくめた。
その仕草にわずかに落胆の色を浮かべて、ダコスタはラクスに状況を報告、次の指示を仰いだ。
捜索を続けるか中断するかの判断を、だ。
しかし見つからないからといって簡単に捜索を止めるわけにはいかない。
今やブルーコスモスは過激なテロ集団である。
それもコーディネータに対する異常とも言える憎悪を持った。
そんな彼らの動向をただ野放しにすることはできない。
ラクスも今は見つかるまで捜索を続けてくださいとしか指示を出すことができない。
ザフト軍が得た情報、それにアークエンジェルからもたらされた情報からブルーコスモスが月で何らかの動きをするのは間違いなかった。
それはつい10日前のこと。
地球でザフト軍、そして地球軍の宇宙へ上がるための施設やマスドラーバーがブルーコスモスのテロ攻撃を受け、輸送機等が強奪、宇宙へと上がったという情報が入った。
アークエンジェルでもその動きを察知。
月に部隊や物資を集結させているようだと確認を取り、狙いはプラントだと推測、エターナルへと情報を送ってきていた。
それを受けてバルトフェルドが密かにザフト軍の情報の中に折り込み、捜索を行っているのが今の状況だ。
今ここにいるのは、ラクス、バルトフェルド、ダコスタ、そしてキラの4人。
アークエンジェルとの秘密回線を知る主要なメンバーのみ。
全ての情報を確認するために、ラクスが他の評議会メンバーや軍幹部を退席させていた。
概ね平和になったとはいえ、まだまだ情勢が不安定なところもある。
何が起こるか判らない今、不測の事態に備えるため、アークエンジェルとの回線の存在を知られるわけにはいかないからである。
そうやって様々な手を打ちながら、成果が得られていないことに落胆と焦りをそれぞれが感じながら、ザフト軍の情報、そしてアークエンジェルの情報を整理、捜索範囲はだいぶ絞られてきたことからも発見されるのはそう遠くないだろうことを確認し合った。
しかし発見されるまでは今と状況は変わらない事実が、だだっ広く感じられる部屋に重い沈黙をもたらす。
4人はただ静かに行動を起こされる前に見つかることを願うしかなかった。
けど発見したらどうするのか。
相手が取るであろう行動を予想すると、キラはそのことについて複雑な思いを抱いていた。
崩壊寸前のメサイアでデュランダル前議長と対峙した時に、キラは言った。
覚悟はある。
僕は戦う、と。
戦闘になり、必要とあればまた戦場に出て戦うことに躊躇いはない。
それは確かで揺ぎ無いものだ。
想いだけでも、力だけでも駄目なのだと、心から守りたいと願う愛しい存在が教えてくれて、気付かせてくれたから。
しかし自ら戦いたいと思ったことは、ただの一度もないのも事実。
それは初めてMSに乗った時から、ラクスを守るためでさえも、変わらない思いだ。
戦い敵を撃つことは、その相手を傷つけることに他ならず、そのことは少なからずキラの心を傷つけてきた。
できることなら戦わずに終わらせたい。
それがキラの正直な気持ちだった。
「戦いになる前に、まずお話ができれば良いですわね」
ラクスはキラに微笑みながら声を掛ける。
キラの思いはわずかに顔に出てしまっていたようだ。
ラクスにだけ判るほどの微妙な変化が。
ラクスはそれに気付き、またできることであればキラが戦わずに済むように、傷つかずに済むようにラクス自身も願い、キラを気遣った。
その声が、行動がキラの傷をこれまでもどれほど癒しただろうか。
だからこそキラは戦う覚悟ができ、そして躊躇うこともない。
声を掛けられたキラは一瞬ハッとした表情を浮かべたが、すぐに同意し柔らかい笑みで応える。
最初に出会った頃のような儚い悲しい笑顔ではなく、優しさと愛しさが含まれた穏やかな笑みで。
それはまた自分のせいでキラが傷つくという自責の念にかられるラクスの心を軽くし、傷を癒すのだ。
自然と二人は互いを見つめ合い、暖かな穏やかな気持ちになっていく。
そんな二人の甘い空気を茶化すように、しかし真面目な顔でバルトフェルドは実際にどうするのかと尋ねた。
バルトフェルドの声に二人は少し頬を赤くしてあわてて互いの顔から視線をそらし、少しだけ互いを確認して小さく笑うと、すぐに決意を込めた真剣な表情で応える。
ラクスもキラもまずは説得を試みたい、そしてできることなら戦うことなくこの騒動を静めたいというのが共通の思いで、それを素直に話す。
2人の話を聞いてバルトフェルドは難しい表情を作って腕組みをする。
2人の思いは理解できるし、バルトフェルドとてそれができればと思う。
しかし今や暴徒とも呼べるブルーコスモスの過激な行動を見れば、現実的には難しいことは予想できた。
希望の未来を求め、その優しい心故に敢えて辛い道を歩むことを決めた二人。
だからこそそれを支え、近づけるように現実的な道や方法を模索する。
ラクスが躊躇った場合は、自分が躊躇わずに攻撃命令を出す。
それがラクスに従った時からの決意であり、この話し合いでのバルトフェルドの意思だった。
「捜索隊もただ的にさせるわけにもいかんしな。イザークには万一の場合に備えて準備はさせておく」
一応ラクスの同意を確認してから、バルトフェルドはイザークへと通信機のスイッチを入れた。
*
月捜索部隊、そしてプラントとの軌道上最終防衛ラインに位置するザフト軍の旗艦、ナスカ級<ヴェルスパー>。
司令官として艦に乗るイザークは艦長室でバルトフェルドからの通信を受け取った。
内容は自分としては納得のいくものではなかったが、ラクス様からすればそれでも譲歩されたのだろうと反論はしなかった。
了解と敬礼して通信を終了すると、少し不機嫌そうに椅子の背もたれに体を預けた。
その様子を横で見ていたディアッカも何も言わない。
苦笑しながら相変わらず甘い考えだなと、内心イザークに同情した。
最も彼らとて無用に戦いたいわけではないし、らしいと言えばらしいその命令に忠義心というか、その意思に従って行動したいとも思っている。
だが相手は言葉を聞かない、自分達の気に入らない相手には問答無用で攻撃を仕掛けてくる連中だ。
特にコーディネータに対して。
そんな相手に投降と武装解除を求めても無駄だと思う。
「で、どうすんの、イザーク」
正直自分の中では腹は決まっている。
理想への旗振りは彼女達、ラクスとキラに任せておけばいい。
彼らほどの業も覚悟もないが、目指す未来は同じなのだから。
自分はその道を開くため、できることをするだけだ。
だからこそデュランダル派と呼ばれた同僚達に裏切り者と後ろ指を差されても尚、軍に残ったのだから。
それは自分の上官であり、親友でもある彼もまた同じだと確信して、敢えて疑問口調でディアッカは尋ねる。
そう尋ねた方が本音を引き出しやすくなることも知っているから。
彼は素直ではないが、いちいち律儀な男だ。
「それを俺に聞くのか、ディアッカ」
やや間を置いて、イザークは含みをもたせた笑みを浮かべてディアッカに返す。
さもお前の考えなどお見通しだと言わんばかりに。
これはディアッカにとっても意外だった。
いつものようにヒステリックに怒鳴るものだと予想し、そう覚悟しただけに、逆に面食らったような表情を浮かべた。
イザークはそんなディアッカの様子に満足そうな笑みを一瞬浮かべると、そのまま全軍に伝えろと言いくるりと背中を向けた。
驚いたままのディアッカだがいいのかよ、とは聞かなかった。
親友の新しい一面を発見したという嬉しさと、思った通りだった喜びとに笑顔を浮かべ、了解と部屋を後にした。
その気配を感じてイザークは、俺も甘いなと少し嬉しそうに呟いた。
それからしばらくして、艦及び全軍に命令がオペレータより通達された。
「総員第2戦闘配備。
各員所定の持ち場にて待機。
捜索部隊より発見の報を受けたらまずは投降を呼びかける。
それまで攻撃は控えよ。
繰り返す、・・・」
*
ブルーコスモスの基地内。
その中を慌しく人が行き交いする。
先ほどからザフト軍のMSが付近の上空を通過しており、発見されるのも時間の問題だと思われた。
ならば発見される前に撃って出ようと、MSの緊急発進の準備を進める。
戦艦も起動を開始し、ラクスやキラの思いとは裏腹に戦闘は避けられない状況になっていた。
まだこのことはザフト軍は知る由もない。
ブルーコスモスにすればしてやったりの先制攻撃となるのは間違いなかった。
この戦闘で宇宙(そら)の化け物どもの排除を。
青き清浄なる世界のために。
その合言葉が彼らの気分を高揚させ、憎しみを増幅させる。
全ての準備が整うと、陽電子砲台を発射口付近に設置、エネルギーチャージを開始する。
そして砲撃口付近に光が収束、エネルギー量100%の表示が出た瞬間、また悲しみを生み出す一撃が放たれる。
放たれたビームはまだ閉じられたままの発射口の壁を爆破して外に飛び出した。
時を同じくして月の上空では、陽電子砲が発射口の壁にあたったことで発生した地表の熱を、ヴェルトールが感知した。
場所はわずか数100の距離しかはなれていない。
それに気がついたアーサーが緊急回避を叫ぶと同時に、赤い光が月の表面から飛び出し、艦のすぐ横をかすめて宇宙へと上る。
ヴェルトールは間一髪砲撃を回避した。
しかし付近を飛んでいたMSや他の艦は、赤い光に飲み込まれ、激しい爆音に飲み込まれる。
そしてゆっくりと爆煙と砂埃が薄れるのと同化するように、元はMSや戦艦だったものの破片が星空の中に消えていった。
光が収まるとヴェルトールのクルー達は映し出されたモニターの外の光景に驚愕する。
信じられない悪夢を見たかのように。
見たくはない、信じたくない光景でありながら、誰もがそこから目を背けることができない。
ヴェルスパーからの命令を受けていたザフト軍は虚をつかれた格好になり、完全に浮き足立ってしまった。
ザフト軍のそんな状況に、ブルーコスモスは間髪いれずに、陽電子砲で爆破した発射口からMS部隊、そして戦艦を発進させる。
飛び出したMS部隊は先の攻撃の残存の部隊に次々と攻撃を仕掛け、未だ戸惑うザフト軍は反撃もままならず、次々と撃墜されていく。
そんな中1機のウインダムがヴェルトールに気がついて、ライフルの照準を合わせたところでアーサーはハッとして、また緊急回避を叫び、ヴェルトールは再び大きく方向転換する。
MSのライフルから放たれたビームはかろうじて左舷のミサイル発射口をかすめただけで、撃墜を免れる。
とはいえ、艦内を軽くはない衝撃が襲い、クルー達の悲鳴が駆け巡る。
その衝撃で状況をようやく把握したアーサーは、反撃に転じなければこちらがやられると判断。
すぐさま戦闘配備の通達と、緊急に先ほどビームを放ったMSに向けてミサイルの発射を指示する。
間を置かずに右舷の発射口からミサイルが連続で発射される。
1発、2発、と迫るミサイルを打ち落としていくウィンダム。
だがそれ以上打ち落とすには時間も艦との距離も、そしてパイロットの技術も足りなかった。
かろうじて4発目のミサイルをかわすも、5発目のミサイルが左の脚部にあたりウィンダムは左足を失う。
そのままバランスを崩したところへ、次のミサイルがコックピットを直撃、パイロットの悲鳴をも飲み込んでウィンダムは爆煙の中に光と共に消え去った。
ひとまずの危機を脱したことにとりあえずホッとするヴェルトールのクルー。
しかしこれは戦闘の開始を告げたに過ぎなかった。
先ほどの発射口からは未だ次々とMS、戦艦が飛び出してくる。
再び数機のウインダムがこちらをターゲットに接近し、MS接近のアラームが艦内に鳴り響く。
アーサーは気を引き締め直すとすぐさま本隊へ、起こった事態と応援要請を打電させる。
そして主砲発射を叫び、他のザフト軍同様、ヴェルトールも戦闘の光の中へと飲み込まれていった。
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