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介護福祉士
ウィンダムの攻撃を避けきれず、ビームライフルを失ったことに呻き声を漏らしながら、必死に地球軍の攻撃をかわしていたムウは、突然止まった攻撃に戸惑う。
それはマリューやシン、ルナマリアも同じだ。
思わず動きを止め周囲を見渡したりしばし呆然とする。
アスランもナイトメアの追撃を続けながら、状況の変化に何が起こったのかと首を傾げる。
そこへアークエンジェルとMSにジェフからの通信が届く。
ジェフは言いにくそうに口をもごもごと動かすが、その表情はどこかスッキリしている。
「オーブのアスハ代表に諭された。今討たねばならないのは誰か見えているかと言われた。確かに私は過去に拘りすぎてそれが見えていなかった」
今や曖昧になった過去の罪状や利己的なプライドはどうでもいい。
先ず今必要なのは基地に攻めてきた武装組織を抑えることだ。
平和への道を模索し始めた今にあって、戦乱を引き起こす行為は断じて許してはならない。
友好的ではなくとも、カガリやラクスのその思想は理解できるからこそジェフはブルーコスモスの排除を実行し、今また決断を下した。
それにこのまま部下達を失うことはジェフとて望むところではない。
「勝手な言い分なのはわかっているが、貴官の要請を受け入れ、こちらからも共闘を申し入れたい」
ジェフからの通信にも一同は驚いたが、カガリが説得に当たったという事実にも驚いていた。
何故そこでカガリの名前が出てくるのか。
できる状態ではなかったというのはあるが、マリューはカガリにこのことはまだ報告していないため、本来カガリが説得に当たることは考えられない。
つまり自分達以外に事情を知る誰かがカガリに連絡したとしか考えられない。
そこで事情を知る人物がたった一人居ることを思い出し、ミリアリアが動いてくれたということがピンときた。
先ほどのアークエンジェルへの連絡といい、カガリへの連絡といい、自分達だけでは状況を覆すことはできなかっただろう。
それが例えその場所に一緒に居なくても共に同じ未来に向かって戦っているんだと感じられる。
その仲間との絆を改めて力強く感じながら、マリューはきびきびとジェフに答える。
自分達の行動が理解されたことでその表情も明るい。
「こちらこそ本艦の提案を了承いただきありがとうございます」
そう答える声はどこか嬉しそうだ。
そのやり取りをホッと息を吐いて聞きながら、ムウはインフィニットジャスティスの姿を探す。
乱戦状態でナイトメアはおろか、味方のMSの位置も把握できない状態になっていたのだ。
一刻も早く仲間と合流して、先に進んだナイトメアに追いかけなければならない。
ムウは何度も周囲を見渡して、ようやくバビと交戦中のインフィニットジャスティスを見つける。
すぐにムウはインフィニットジャスティスに向かって加速すると、対峙していたバビを背後から切り裂き援護する。
だがここまでにアカツキはだいぶエネルギーを消費してしまっているのを、ムウは認識する。
これではナイトメアと対峙しても先の戦闘の二の舞だ。
自分自身を情けなくも思うが、自分が援護できるのもここまでで、今頼れるのはアスランとインフィニットジャスティスだけなのだ。
「アスラン、お前はマスドライバー施設に急げ。ここは俺達に任せろ」
あの黒いジャスティスはお前でなきゃ無理だろう、とムウは自らの思いを託してアスランにそう告げる。
その思いはアスランにも伝わる。
互いに助け合える仲間が居るからこそ、自分達は戦い続けられるのだということを、彼らもわかっているのだ。
ムウの指示にアスランは同意を示すと、インフィニットジャスティスのバーニアは勢い良く熱を帯び、ナイトメアを追って加速する。
ムウはその後姿を頼もしく見つめていたが、レーダに現れた反応に向き直ると気合を入れて自らも機体を加速させた。
PHASE-23 「仲間の意味」
マスドライバーまで後一歩というところまで迫った所で、カイトは異変に気が付いた。
それまで狙いが分散していた地球軍の攻撃が急に厚くなったのだ。
反撃をしながら何が起こったのか周囲を見渡すと、望遠カメラの遠くに地球軍の攻撃を全く受けずにこちらにむかってくるインフィニットジャスティスを確認する。
ジェフの通信を知らないカイトは突然の状況の変化に、さすがに戸惑いを隠せない。
だがそのまま何も手を打たない、準備をしていないカイトではない。
地球軍の攻撃を舌打ちをしてかわしながら通信回線を開く。
その通信はマスドライバーの制御施設の管制オペレータを襲撃した十数人の男達が受け取った。
実はカイトはロールフットのクルー達とは別の部隊に密かに通信を送り、APSの襲撃に乗じて基地への潜入と、マスドライバー施設の占拠を指示していた。
男達は先ほど銃を持ってこの管制室に押し入り、作業をしていたオペレータ達を次々に射殺、目論見どおりに管制室を乗っ取った。
今もその時に飛び散った血の後が、床や壁をベッタリと嫌な色に染めている。
そんな惨劇を余所に黙々とシャトルを発進位置へと移動させ、発射角度、コースなどの調整を行う男達。
今やマスドライバーの制御は完全に"FOKA'S"の手中にあった。
それらの報告を受けたカイトはニヤリと笑みを浮かべて発進準備を急がせるように指示を出すと通信を切り、今度はロールフットとの回線を繋いで別の指示を飛ばす。
「ルッテ、ロールフットを浮上させろ。港に着けるんだ」
「何を馬鹿な、そんなことをしたら艦は狙い撃ちにされる。この艦にはもうMSがないんだぞ」
カイトの指示にルッテは反論する。
ロールフットでも状況の変化を確認し、事態の悪化を危惧していた。
ルッテは援護すべきかどうかを考えた。
だが艦の戦闘力では地球軍の猛攻には5分と耐えられない。
艦を預かる者としては、クルー達の命を守ることも視野に入れて考え、行動する必要があるのだ。
そこにカイトから自殺行為にも等しい行動を指示されては、ルッテも了承できるはずもない。
撤退するのであれば、ロールフットは自分達の命を運ぶ足でもあるのだ。
だがカイトは落ち着いた様子で、作戦の内容を説明する。
「岸に着いたら艦を放棄しろ。マスドライバーまでのルートは潜入した仲間が確保することになっている。貴様らはそのルートを辿って来ればいい」
つまり艦の姿を見せることを囮にしてクルー達は脱出、マスドライバーへ向かえというのだ。
既にメンバーが潜入して施設を抑えたということには、それについて何も知らされていたなかったルッテは驚くが、カイトの作戦は理に適っておりしばし考える。
艦長にとって艦を放棄するということは責任問題以上に自尊心を傷つけるものだが、自分と部下の命には代えられない。
ルッテは諦めた様子で艦内にその命令を飛ばす。
その様子を聞きながら、カイトは悪魔の様に口元をにやりと歪めて通信機を切ったことに、誰も気付かなかった。
*
地球軍からの攻撃が止んだことに、アークエンジェル内にはホッとした空気が流れていた。>/FONT>
艦はあちこち焼け焦げた跡や装甲の剥がれた後が見られるが、ともかくクルーは全員無事だ。
マリューはその間の苦労と緊張を労うと共に、気を引き締め直すように促す。
まだ戦闘が完全に終結したわけではない。
オペレータ達は威勢良く返事をすると、これまでよりも随分見易くなった計器やモニタをチェックする。
その時メイリンはレーダーに映った反応を見逃さなかった。
「艦長、8時の方向に艦の機影があります。機種特定、オーブ近海で発見したローラシア級と一致しました」
その報告を聞いたマリューはようやく好転の兆しが見えた状況に気分も高揚してくる。
クルー達もその雰囲気を感じ取り、艦内の士気も自然と上がる。
「アークエンジェルは転進、母艦を抑える」
マリューの掛け声と同時にアークエンジェルはくるりと旋回してその艦首をロールフットに向ける姿はとても勇ましく見えた。
その頃アスランは立ちはだかるバビの砲撃を物ともせずに一直線に突っ込むと、すれ違い様にビームサーベルを横に一閃、上下2つに切り裂いてさらに進んでいた。
そしてようやくマスドライバー制御施設が目視できるところまで近づいた。
だがそこに見えた異様な光景に、アスランは眉をひそめて我が目を疑う。
そこでは地球軍のウィンダム同士が銃撃戦を行っていたのだ。
カイトは密かに地球軍内部にもメンバーを潜ませていた。
それが今回の作戦を決行するに至った理由でもあったのだ。
一兵卒に成りすましたメンバーはウィンダムを操縦し、地球軍に攻撃を仕掛けていた。
敵が紛れ込んでいることを想定していない地球軍は混乱する。
相手は自らが与えたMSで攻撃を仕掛けてくるため、識別コードでも見分けがつかない。
アスランも思わず機体の動きを止め、その光景を見つめながらどうしたものかと悩んでしまう。
その時、マスドライバーのスタート地点から1機の大型シャトルが飛び出してくる。
それに気がついたアスランは素早く周囲を見渡し、既に姿の見えないナイトメアがシャトルに積まれていると当たりをつけると、即座に方向転換してシャトルを追いかける。
アスランの中には今回の一連の騒動の首謀者が黒いジャスティスのパイロットだという、勘ではあるが確信めいたものがある。
その人物をこのまま宇宙へ逃がすことは、真相を知る機会が失われることを意味する。
だが2機のウィンダムが突如目の前に現れ、インフィニットジャスティスにタックルを仕掛けてそのまま地面へ叩きつける。
潜入した"FOKA'S"メンバーの乗るウィンダムがシャトルの追撃を阻止したのだ。
衝撃に呻き声を上げるアスランだが、押さえつけているウィンダムの1機がビームサーベルを突き立てようとしているのを見ると、機体のパワーで2機のウィンダムごと強引に起き上がり何とか片腕を自由にすると、振り上げられたウィンダムの手を寸でのところで受け止める。
アスランは雄たけびを上げるとそのままウィンダムの腕を引きちぎって突き飛ばし、もう1機のウィンダムも背負い投げの要領で投げ飛ばし、シャトルの行方を目で追いかける。
ムウ達もマスドライバーからシャトルが発射したのを確認し、すぐにシャトルを追いかけ、威嚇射撃を行う。
だがマスドライバーを傷つけまいとするために攻撃は精度を欠き、シャトルを操縦するパイロットもそれをわかってスピードを緩めない。
「追い抜いてシャトルの頭を抑えるんだ」
このままでは埒があかないと踏んだムウは、先回りして機体でシャトルの飛行コースを遮るように指示する。
ルナマリアはそれを受けてムラクモをMA形態に変形してシャトルを追い抜こうと加速する。
だがまだ生き残っていたAPSバビがムラクモに下から接近。
放たれたビームは右翼に直撃し、ムラクモはバランスを崩して失速、煙を上げながら地面に向かって突き進む。
シンはルナマリアの名前を叫んで墜落するムラクモを目で追いながら、続けて向かってきたバビとの対峙を余儀なくされる。
バビの射撃をかわすのにシャトルを真っ直ぐ追うコースからは大きく逸れたことに、シンは苛立ちを隠せない。
その怒りのままに、シンはシャトルを追いかけることを一瞬忘れて背中の斬艦刀を手に持ち、その切先をバビに向けて構えると、シャトルの進行方向とは逆向きに加速してバビを貫く。
ソードに刺し貫かれたバビは、赤い炎に包まれながら細かな鉄の破片へと姿を変えて、地上へと降り注ぐ。
それからシンはチラリとムラクモの方に目をやって機体が無事なのを確認してから、思い出したようにシャトルの行方を見上げる。
ムウもこちらは上から迫るバビに邪魔をされてシャトルからは引き離される一方だ。
だがとにかく目の前のバビを倒さなければ先へは進めない。
ビームサーベルも既に失っているアカツキでは厳しい戦いだが、損傷したムラクモと別の1機と対峙しているイザヨイに援護を求めるのは無理だ。
何か手はないかと必死に思考を張り巡らせるムウに、やがて一つの妙案が浮かぶ。
多少危険が伴うがそれしか方法は無い。
意を決すると、ムウはアカツキを加速させてバビに接近する。
振り切ろうと逃げるバビに何とか追いつくと、ライフルを持つ右腕を捕まえて左脇にしっかり抱え込み、肩のビーム砲を胸部に押し当てる。
そしてそのまま零距離での射撃を行う。
さしものAPSもこれでは避けようが無い。
押し当てた砲身は爆発の熱で変形してしまったが、放たれたビームは確実にバビを貫き、アカツキが掴んでいた腕を放すと力なく落下しながら空中で爆散する。
バビの爆破と機体の損傷具合を確認してから息を一つ吐き、ムウはシャトルの方を振り返る。
ルナマリアは推力が上がらない機体に舌打ちをしながら必死に操縦桿や計器を操作する。
だが一向に機体が浮上する気配はない。
地面まで後数十メートルというところまできて、ようやくルナマリアはMA形態での姿勢制御を諦め、MS形態に変形すると何とか着地に成功して事なきを得る。
だがスラスターをやられているため、今のままでは空を飛ぶことはできない。
ルナマリアは表情に悔しさを滲ませるが、せめてシャトルを狙い撃ちできないかと銃口を上に向けながら空を仰ぎ見る。
アークエンジェルでもメイリンがマスドライバーからシャトルが発射されたことを報告する。
浮上したロールフットは既に無人であり、そこでようやく艦そのものが囮であることにマリューは気が付く。
だが今更気が付いたとて遅い。
拿捕すべきクルー達は既にシャトルに乗り込んでいるかも知れない、とマリューはすぐにシャトルを追いかけるように指示を飛ばす。
だがここからでは距離が有り過ぎ、今から転進してもアークエンジェルは追い縋ることもできない。
ノイマンとて気持ちは同じだが、アークエンジェルのスピードを一番よく知る彼はその事実をマリューに告げる。
その報告にマリューは歯噛みして、ならばムウ達はと自軍のMSの動きを確認しながら、マスドライバーのレールを走る光を目で追いかける。
しかしどの視線も遥か彼方、マスドライバーから飛び立つシャトルを見つめるのが精一杯だ。
それらの悔しさの滲むいくつもの視線を浴びながら、白い煙を残してシャトルは空の彼方へと消えていった。
カイトは貨物室にナイトメアを無理矢理収容し、そのコックピット内でじっと目を閉じている。
ただその口元には薄っすらと笑みを浮かべていた。
アークエンジェルとの決着を着けられなかったことだけは心残りだが、また機会はいくらでもあり、何より自らが宇宙へ上がることを優先すべきだと、カイトは考えていた。
その宇宙へ上がることが成功したのと同時に、自らが不要だと判断したメンバーの切捨てに成功したことに、カイトは笑みを零さずにはいられなかった。
カイトにとってロールフットのクルー達は皆役立たずだった。
分かりきったことでも十言わなければ動けないクルーに、ただその様子を見守るだけの艦長、それだけでしかなかったのだ。
ルッテも見えなくなったシャトルの方角を呆然と見つめていたが、やがてマスドライバー施設で起こった爆発に意識を取り戻すと、そこで事態にようやく気が付く。
地球軍にすぐに後を終われないように、カイトは爆薬を仕掛け、マスドライバーの制御施設を破壊したのだ。
それは暗に、まだビクトリアに残っている"FOKA'S"メンバーの退路を断つことも意味している。
そこには利用できるものは利用して、用の無いものは容赦なく切捨てるカイトの意図がルッテにもわかる。
カイトは初めからルッテ達を宇宙に連れて行くつもりなど無かったのだ。
この作戦はカイトにとって自分が宇宙に上がるのと同時に、自分が役立たず、用無しだと判断したメンバーを切捨てるための作戦でもあったのだということをおぼろげに理解する。
-仲間とは自分のために利用するものだ-
以前カイトがそう漏らしたのをルッテは今更ながらに思い出し、自分達が彼に利用されて捨てられたのだということを悟った時には既に後の祭りだ。
ルッテはやり場にない怒りに絶叫し、虚しい怨み節の叫び声だけがその場に響いた。
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