-
- 今プラントの市民の間ではある話題でもちきりだった。
- それはラクスが結婚して妊娠したということ。
- 突然のことだったので喜びと驚きとが入り混じってひどく不安定な状態だが、少なくともキラへの不信感だとかそんなものを忘れるには十分なものだった。
- バルトフェルド達クライン派も直後は驚きに佇むばかりだったが、ラクスが柔らかに微笑む姿を見ると何故かホッとして、一様に祝福の言葉を述べる。
- 同時にラクスが胸に秘めているであろう切なさを思うと自分達は努めて明るく振舞おうと心に誓う。
- ラクスにとっても、今までにない緊張感とキラへの切なさで苦しかっただけに、仲間からの祝福はとても心に染みて、またその気遣いに感謝した。
-
- 数日後、ようやく気を持ち直した評議会議員達はすぐに臨時の評議会を開き、その場で質問をされたラクスはまずは身勝手な行動を謝罪する。
-
- 「ですが、私の言ったことは真実です」
-
- そこでラクスは改めて妊娠が事実であることを強調し、ヤマトを名乗ることで自らの覚悟を表明したと説明する。
- 評議員達も妊娠したことについては喜ばしいと思っている。
- だが相手がキラであるということに心境は複雑だ。
- リディアだけは祝福の言葉を述べ、ラクスはそれにありがとうございますとはにかんだ表情で応える。
- だがすぐに今後の協議へと入るべく真面目な表情になり、メンデルでキラを襲っていた無人MSを扱う組織についてラクスなりの意見を述べる。
- 詳しいことはまだ何も分からず言えないが、無人MSの調査データから出てきた単語はキラの過去に関わることだった。
- ならば相手はキラの過去を良く知る者だと考えられる。
- キラの過去については言葉を濁すことしか今はできないが、相手の狙いだけはラクスにははっきりとわかった。
-
- 「理由はよくわかりませんがこれだけは確実に言えます。相手はキラを狙っています。プラントをその渦中に巻き込みながら」
-
- そうである以上先のような事件はまた起こるでしょう、とラクスはキラが生きているとした上でそう断言する。
- そこでまたざわめきが起こる。
- 評議会としてはキラは死んでくれていた方がこの後の対応は楽なのだ。
- だが今の状況ではどちらがいいのか検討もつかないというのが本音にある。
-
- その喧騒を余所に、ラクスはキラの捜索を引き続き指示する。
- ひょっとしたらメンデルの爆発でどこかへ流されたかもしれない。
- メンデルからさらに広範囲を対象にするように付け加える。
- ラクスの意見に評議会議員が驚きで言葉を無くす中、セイだけは声を大きくして反論する。
- メンデルの捜索だけでも大変なものなのにさらに広範囲を捜索する人員など、今のザフト軍には割けるだけの余裕は無い。
- それにこれ以上ラクスの私的な感情でザフト軍を動かされるのは、いかにプラントの最高責任者であるとはいえ認められない。
- 反論は軍のトップとなる国防委員長であるセイにとっては当然のことであり、間違ったことではない。
- だがラクスはピシャリと言い放つ。
-
- 「これはプラント最高評議会の議長としての命令です」
-
- キラは唯一彼らと接触した人物でもある。
- 相手の目的が分からない今、キラの話を聞くことは情報収集においても重要だとラクスは諭す。
- そしてかつてメンデルにはキラの過去に関する情報があった。
- 再度調査した時にはほとんどの情報が整理されていたということだったが、今はまた秘密基地として利用していたのなら相手に関する何らかの情報が得られるはずである。
- その他にも核に関する情報も得なければならない。
- ラクスの頭にはストライクフリーダム以外に核が存在したことは確定なのだ。
- そのためにもキラの捜索は絶対必要なのだ。
-
- 「これは私の個人的な感情ではなく、プラントを守るために重要なことなのです」
-
- そのラクスの言葉に嘘偽りはない。
- キラのことは心配でそれを思うと全てを放り出してキラを探しに飛び出してしまいそうだが、それがどれだけの人に迷惑をかけるかラクスも分かっている。
- それを堪えて、キラが生きて帰ってくるのを待てるだけの覚悟をする。
- 先の演説じゃそのためのものだったのだから。
- 今の自分の役割をしっかり果たさなければキラに合わせる顔が無いと、ラクスは2年前にプラントへと戻った時の気持ちを思い出す。
- それに生きているなら必ず自分の元に帰ってくる。
- 自惚れかもしれないが、今のラクスにはその確信があった。
- だから自分のためにキラを探す必要はないと思っている。
- 必要なのはキラが戻ってこれる場所を守ること。
- そして自分の職務を全うすることをキラは望んでいると信じている。
- だからそのために出来る限りの情報を集めて備える必要があるのだ。
- ラクスは珍しく感情を露にして立ち上がると、評議会の面々を見渡す。
- その今までにない威圧感のある瞳で睨まれて、セイもそれ以上何も言えず不満げな表情を押し殺すように腰を下ろし、続くラクスの言葉を聞いていた。
-
-
PHASE-26 「正しき道は」
-
-
-
-
- 「ラクス=クラインを始末する」
-
- 暗がりに映るモニタの向こうで、男は怒りを押し殺して努めて平静であることを装ってそう告げる。
- デブリベルトにある"FOKA'S"の秘密基地の一つに、メンバーである二人の男が潜んでいる。
- ラクスの放送は"FOKA'S"でも見ていた。
- 歌声にぐっと来るものはあったが、それでキラへの憎しみが消えるほど彼らの心の傷は簡単なものではない。
- 存在を否定されたという思いは、その否定の原因となっている存在を消し去るしかないという狂気へと次第に変わっている。
- その狂気はラクスの歌でむしろ一層増していた。
-
- そんな中でキラがメンデルの消失後見つかっていないことを、"FOKA'S"でも死んだとはみなしていなかった。
- 当初はキラを仕留められたかも知れない事態に喜んだものの、その数日後からデータにハッキングされた後があり、それはキラの仕業だと踏んでいた。
- キラを抹殺することが最終目標の一つである"FOKA'S"にとっては、キラを探し出すことは重要だ。
- しかもこれまで秘密裏に準備を行ってきた内部を探っているのだ。
- そうそうに手を打たねばこれまでの苦労が水泡に帰してしまう。
- だがその消息は一向に掴めない。
- "FOKA'S"もそれほど大人数の組織ではない。
- "FOKA'S"はキラと同じく人工子宮実験の果てに失敗作とされた者達と、キラに私怨を抱く同調者達が集まった組織だ。
- だがキラの存在がこれまで公にされていなかった事実から、必然的に少人数の組織になり、プラントとぶつかるには戦力不足であることは始めからわかっていた。
- だからこそAPSを開発して、その主戦力としている事情がある。
- そのため捜索には限界があるのだ。
-
- 一方キラの味方である者も抹殺の対象としてきた。
- キラ=ヤマトとは"FOKA'S"にとっては、自分達の存在を掻き消してしまう存在。
- 故にキラ=ヤマトという存在を認めない彼らにとっては、彼を認めるもの、擁護するものはただの障害であり自分達を否定するものに感じられる。
- 尤もモニタの男にはそれ以外の私怨も感じられるが。
-
- 「そこで作ったAPSを総動員してプラント本国を直接攻めろ」
-
- そしてモニタの男はプラントに"FOKA'S"の存在を知らしめるというのだ。
- 受けた方は組織の存在がバレても良いのかと驚くが、モニタの男は予定を少し早めるだけだと威圧的な物腰で告げる。
- それより本当はお前らだけでこの作戦が達成できるかの方が心配だと皮肉を言う。
- だがキラ=ヤマトがいなければお前らにもできるだろうと吐き棄てると、モニタの向こうの男は一方的に通信を終了する。
- そのモニタの前で、一人の男が呆れたように肩を竦める。
-
- 「要はあんな放送をしたラクス=クラインを狙って、キラ=ヤマトを誘き出せってことか?」
-
- そしてそのままプラントごと葬り去れって、と通信を受けた男の一人、真っ赤な坊主頭のテツ=ソウマはそう言って、珍しく怒りを露にする通信相手の言葉を要約する。
- 相手の皮肉はいつもの事なので一々相手にしていられないと、意に介すことなくもう一人の男に同意を求める。
- 傍らで車椅子に座っているホドス=メッシーナは表情一つ変えず、渋い表情のままでそうゆうことだろうと興味なさげに返す。
- ホドスにとってはモニタの男の意図などどうでもよかった。
- ただキラにこの憎しみをぶつけられるなら何でも構わない。
-
- ホドスは左腕が無く、残った左の半身も自分の意志では動かすことができない体で産まれてきた。
- そのため研究の材料にもならないと、彼を産み出した研究者達に壊れた玩具を棄てる様に施設の外に放り出された。
- それから何とかここまで生き延び出来たホドスだが、左半身の動かない体では生きることすら血の滲むような思いだった。
- 左半身が不自由の理由も知らず、産まれついたこの体をいつも呪ってきた。
- それがキラという存在を産み出すための道具であると知らされた時、ホドスはキラへの復讐を誓い、それを糧に今まで生き抜いてきた。
- その苦しかった過去を思い出し、思わず口元を歪めて血が出るほど拳を強く握り締める。
-
- その様子に気が付いたテツはホドスの肩をポンと叩くと、心配すんなよと少し切なげに笑いかける。
- ホドスもテツに少しだけ笑いかけると、右手で車椅子を操作して部屋を後にする。
- テツもその後に続き指示通りに準備に取り掛かる。
- だが今のテツにはキラへの復讐の機会よりも、自分達が戦えるチャンスを与えられたことが緊張感を高ぶらせ、そして嬉しかった。
-
-
*
-
- ラクスの演説から1週間経ったが、未だにプラントではその話題で賑わっている。
- キラへの不信感は忘れ去られ、子供が先に出来たことへの驚きや、結婚式は何時になるのか、その時のラクスは綺麗だろう等と、市民の間には完全に祝賀ムードが漂いつつある。
-
- だがプラントの外では、また不穏な動きが広がりつつあった。
- プラント宙域の臨界線を監視する監視部隊からの信号が突然途絶えたのだ。
- 部隊から最後に送られた映像は何者かの攻撃を受けてモニタが消えるものだった。
- その事実はすぐに評議会議員の所に知らされ、評議会議員達は緊急に議長室に集まる。
- セイだけは国防委員長として戦況の確認と指揮を取るためと、防衛要塞である小惑星<テンパシー>に移動しここには来ていない。
- 調査に向かった部隊との交信も途絶え、プラントの有事に備えるためにメンデルの捜索部隊も直ちに呼び戻され、防衛部隊には緊張が走る。
-
- ゴンドワナで前線の指揮を任されたイザークはいつになく苛立っていた。
- 相手はあの無人MSの可能性があることがラクスの口から伝えられている。
- この状況でキラがいないことに心の中は不安で膨れ上がっているが、居ない者を当てにしてもどうにもならない。
- 今いる者で何とかしなければならないのだ。
-
- 「くっ、俺は何を考えている」
-
- 知らず知らずにキラに頼っていた自分を叱責する。
- キラに頼りすぎた結果がこれだ、とイザークは嘆き、また自分自身に腹が立つ。
- イザークは拳を強く握り締めると、自分にも言い聞かせるように警戒を怠るな、と指示を飛ばす。
- するとゴンドワナのレーダが所属不明の戦艦の信号をキャッチする。
- モニタを確認すればそこにはナスカ級戦艦が3艦確認できる。
- 映像は議長室にも転送され、確認できたラクスはすぐさまその艦に通信で呼びかける。
- 戦闘行為を直ちに中止するように。
- その目的を示すように。
-
- 何度かラクスが呼びかけが行われた後、その呼びかけに苛立ちを覚えたホドスは唐突にプラントに向けて、全回線で通信を行う。
-
- 「俺達は"FOKA'S"。キラ=ヤマトのできそこないにして、キラ=ヤマトを憎む者」
-
- そしてホドスは苦々しげな表情で衝撃の事実を告げる。
- 自らを含め、キラ=ヤマトは人工子宮から産まれたこと。
- 最高のコーディネータ、キラ=ヤマトを産み出す研究の果てに、自分達は失敗作として処分され、或いは研究の道具として苦痛の日々を送ったこと。
- この憎しみはキラ=ヤマトを討つことでしか晴らすことは出来ない、と。
- 評議会議員はその内容に驚きを隠せない。
- 最高のコーディネータという存在など俄かには信じがたい話だ。
- しかも人工子宮から産まれたなど、聞いたことも無い単語に思考がついていかない。
-
- 一方のラクスも驚きの表情を隠せない。
- キラの出生の秘密はカリダに聞いてある程度は知っていたことだ。
- 産まれてくる命に成功作、失敗作というレッテルが貼られるなど本来は許されてはならない行為だとラクスも思う。
- それでもキラ自身には何の罪もないとも思っている。
- キラがそれを望んだわけではないのだから。
- そして相手はキラの出生に関わる者達だと思っていたが、まさか人工子宮から産まれたキラの兄弟とも呼べる人間だとは思わなかった。
- その様な人物は悲しいが全て死んだものと思っていた。
- だがその失敗作と呼ばれる者達がこうして目の前でキラへの憎しみを語っている。
- 彼らは人類の夢とやらの犠牲者なのだ。
- ラクスはそんな彼らにどう対応すればいいのか悩む。
-
- この通信は議長室のみならず、プラント内のあらゆる場所に聞こえていた。
- ホドスが同時にプラントの通信網に電波ジャックを行ったためだ。
- その通信が聞こえたプラントの市民達は、ラクスの結婚の相手であるキラは特別な生まれであったことに再び混乱する。
- コーディネータと言えど嫉妬という感情を持つことがある。
- 最高のコーディネータという言葉に少なからず戸惑いと、嫉妬感を覚え祝賀ムードは一変する。
- 再びプラント市民の間にはキラに対する不信感が甦り、伝染病のように広がっていく。
-
- ラクスの戸惑いは通信機の向こうにも伝わっているのだ、ホドスは全く気にすることなく怒りを込めて言葉を続ける。
-
- 「キラ=ヤマトをこちらに差し出せ、ラクス=クライン。そうすればプラントには危害は加えない」
-
- ホドスの言葉に評議会の議員達は動揺する。
- だがラクスは毅然とした態度で即答する。
-
- 「キラは今こちらには居ません。仮にもし居たとしても、貴方々に差し出すつもりはありません」
-
- ホドスの言葉にラクスは気を取り直した。
- 例え彼らが犠牲者であっても、プラントを守るためにキラの命を引き換えにすることはできない。
- それはラクスにとって譲れない絶対的な真理だ。
- それにそれでは彼らを救うことはできないことをラクスはわかっている。
- ただキラを憎いと討たせては、彼らもまた憎しみの連鎖の輪から抜け出すことはできない。
-
- 「ならばそのまま宇宙の藻屑となるがいい」
-
- ラクスの返事にホドスは声を低くして、宣戦布告とも取れる言葉を残して通信を切る。
- ラクスは思い止まるように再び呼びかけるが、向こうは一向に通信回線を開く様子はない。
- そうしている間に戦艦からはザクやグフといったMSが少なくとも50機は出てくる。
- ホドスの通信を自身のMSのコックピットで聞いていたテツは発進の光景を眺めながら、ホドスの合図を受けて最後にX3-002R-"poison"で宇宙に飛び出す。
- その表情は戦場には似つかわしく無い、嬉々とした表情で、ホドスはそんなテツに苦笑を漏らす。
-
- 「テツ=ソウマ、ポイズン、出るぜ!」
-
- ラクスはそれらを哀しげな表情を浮かべて見つめるが、やっとの思いで<テンパシー>のセイに迎撃の命令を搾り出す。
- その命を受けてザフト軍は迎撃体制を取るべく準備に入るが、相手は先日キラをも苦しめた無人MSであると考えられる。
- このような事態を想定したため、拿捕した無人MSの解析を優先事項としたのだが、キラがいなくなったことでその解析作業はあれから一向に進んでいない。
- そのため苦戦は必至だ。
-
- ヒルダ達も"FOKA'S"の通信は聞いていた。
- だが彼女達にとってキラの産まれがどうだとかはどうでもよかった。
- ラクスがキラの子を身ごもった以上、キラがラクスを幸せにできるかどうか、それだけだ。
-
- このままラクス様を悲しませるようなことがあったらただじゃおかないからね。
-
- ヒルダはそう呟きながらキラの無事を祈る。
- だが発進カタパルトで息を呑んで出撃命令を待つヒルダ、ヘルベルト、マーズには緊張感ばかりが高まり、キラのことを考えている余裕は次第になくなる。
- ヒルダ達も直接戦闘はしていないが見せられたモニタの映像、そこでキラがたった5機に苦戦する様子からして相当な強敵であること認識はできた。
- そんな相手では否が応でも緊張し、恐怖すら覚えてしまう。
- 知らず知らずに操縦桿を握り締める拳に力が入り、汗をべっとりとかいている。
-
- しばらく睨み合った両軍だが、先に仕掛けたのは"FOKA'S"の方だ。
- 一斉にザフト軍に向かってAPSが射撃を始める。
- その攻撃に展開していたMSは大部分が撃墜、あるいは損傷を負う。
-
- その様子をモニタで見ていたヒルダは舌打ちするとすぐさま発進を要求して、マーズ、ヘルベルトともに出撃する。
- 3機は飛び出すとすぐに陣形を組み、迫っていたザクを3機の時間差攻撃で1機撃墜する。
- これにはヒルダ達も気を良くしてこの調子で行くよ、と戦闘の真っ只中へと突っ込んでいく。
-
- ザクが1機落とされたのをブリッジで確認したホドスはそこそこやれる奴はまだいるようだ、と呟くと右手を上げてクルーへ入力を変更するように指示を出す。
- 通常の戦闘配備では少なすぎるクルーの数だが、その指示でクルー達は素早くキーボードを叩く。
- すると今度はAPSザク3機が連なって1個の生き物のように一直線にザフト軍の中に飛び込み、3機が時間差でライフルを撃ち次々とザフト軍のMSを落としていく。
-
- 「あたしらの真似をしようなんざ、いい度胸じゃないか!」
-
- その連携を見たヒルダは叫ぶと、そのザクらに向かって加速し攻撃を仕掛ける。
- だが3機のザクはそれぞれの攻撃をあらかじめ決められた役割通りに連携を取るようにかわし、あるいは攻撃を切り払う、それも驚異的な速さで。
- ヒルダ達は想像以上の相手の動きに驚愕し、そして自分達の攻撃が通用しない事実に悔しさと焦りがこみ上げてくる。
- 逆に3機のザクの攻撃を防ぐのが精一杯で、どんどん追い込まれていく。
-
- そんなドムの様子も含めて数では勝るザフト軍が次々に撃墜されて、追い込まれていく様子をモニタで見ながら、評議会議員達は皮肉にも改めてキラの能力の高さ、キラの必要性を思い知らされる。
- 最高のコーディネータなどということは信憑性がないはことだと思ったが、今のザフト軍の不甲斐なさを見ると改めてキラの凄さが際立って見える。
- 実際あれほど様々な能力に抜きん出たことを思うと、"FOKA'S"と名乗る組織の言うことが正しいのではと思ってしまう。
- ますますキラに対する扱いに困惑し、動揺ばかりが胸中を駆け巡り、指示を待つザフト兵に何も答えられない。
-
- ラクスはしばらくザフト兵が次々に落とされていく様を痛ましく思い苦渋の表情でモニタを見ていたが、つわりに僅かに吐き気を催す。
- だがそれでラクスは改めて自分が母親になる自覚と、キラの妻を名乗った覚悟を思い出す。
- 自分は戦いから目を背けて、平和の歌を暢気に歌っているわけにはいかないのだということを。
- そこでラクスはお腹に手を当ててキッとモニタを睨むように表情を引き締めると、バルトフェルドに指示を出す。
-
- 「バルトフェルド隊長、準備を!」
-
- そう言うとラクスは踵を返し部屋の扉へと向かう。
- その背中を追いかけながら主語の無いラクスの言葉を理解しかねて、バルトフェルドが何の準備をするのか尋ねる。
- ラクスは振り返らずに歩は向かうべき場所へ速度を緩めないまま答える。
-
- 「エターナルで私も出ます」
-
- 戦場に出てもっと近くで呼びかけます、と。
- 周囲は一様に驚愕するが、ラクスの意志も表情もその輝きは変わらない。
- ラクスは以前と変わらない凛と宣言する。
-
- 「それが私の選んだ道ですから」
-
- その切ないほどの決意に、バルトフェルドもまた腹を括って立ち上るしかなかった。
-
-
-
― SHINEトップへ ― |
― 戻る ― |
― NEXT ―