-
- セイはザフト軍に潜り込んでいた"FOKA'S"メンバーと合流すると、密かに準備させていたナスカ級戦艦<グリニード>に乗り込む。
- そして艦長席に座りながらなかなか思うようにはいかないな、と渋い表情で呟く。
- セイの頭では準備が整い次第プラントの評議会を制圧して、ラクスを抹殺、それから次の行動に移る予定だったのだ。
- キラが"FOKA'S"のデータベースにハッキングしていることは想像していたが、よもや自分の正体がバレる程情報が漏れているとは思っていなかった。
-
- "FOKA'S"は全てセイの指示の元に動いていた。
- セイが時間をかけて人工子宮で産まれたその他の”兄弟”を探し出し、またキラに強い恨み、憎しみを持つ人間を説得して作り上げた組織だ。
- ここまで長い時間をかけて慎重に秘密裏に物事を運び、ようやくプラント内部にも深く入り込み、全ての作戦の準備が整いつつあっただけに、キラが最高のコーディネータだと認知してながらその力を侮ったセイのミスだ。
- さらにラクスを守るためにプラントに戻った時にすぐに始末しておくんだった、そうすれば情報がプラントに漏れることはなかった、と後悔しても遅い。
- とにかく今はプラントを出て体制を立て直すことが先決だ。
-
- 「グリニード、最終命令発動だ。速やかに行動に移れ」
-
- セイは低い声で艦内に命令を出す。
- その放送に戸惑い顔を見合わせるザフト兵だが、突然頭の後ろから熱い衝撃が体を駆け巡る。
- 銃で頭を撃ち抜かれたのだ。
- そのザフト兵何が起こったかも理解できないまま、赤い雫を撒き散らして昏倒する。
- グリニードの整備を行っていたザフト兵もほとんどが"FOKA'S"に所属していた。
- 所属していないザフト兵も何人かいるが、もちろん作戦のことなど知らない、"FOKA'S"にとっては邪魔な存在だ。
- 彼らは何も知らないままに、だが異分子として処分されてしまったのだ。
-
- ただ宙に浮かぶだけとなってしまった、かつて人であったものを船外へと出しながら、セイの命令でグリニードはエンジンを点火してアームを壊しながら動き始める。
-
- 「グリニード、貴艦に発進命令は出ていない。グリニード応答せよ」
-
- 突然発進したグリニードに気が付いた管制オペレータの慌てた通信が届くが、セイはそれらを無視して艦を進めさせる。
だがセイもすぐに主砲発射を指示して扉を吹き飛ばし宇宙へと飛び出す。
- 港口には警報が鳴り響き、管制室でザフト兵達のあたふたする様子がセイには何とも滑稽に見えた。
- そして笑いを堪えながら冷たい声で、プラントにとっては残酷な言葉を告げる。
-
- 「置き土産だ。APSを出したら最大船速、プラント圏内を抜ける」
-
- セイの指示と同時に周辺の岩などからグフが飛び出してくる。
- "FOKA'S"は逃走と襲撃のために、20機ものAPSグフを周辺に潜ませていた。
- グフはグリニードの周囲を旋回した後、そのモノアイを怪しく光らせるとプラントに向けて加速した。
-
-
PHASE-31 「反撃」
-
-
-
-
- ヒルダ、ヘルベルト、マーズは自分達のコックピットの中で緊張しながら待っていた。
- 今クライン派はラクスの作戦に従ってそれぞれの任務を行っている。
- バルトフェルドとイザークはセイの正体を暴く。
- ディアッカとダコスタはセイの正体が暴かれたことによって襲撃があると思われる人物、場所の保護。
- そしてヒルダ達はセイの逃走時に仕掛けられると予想される無人MSとの戦闘に備える。
- そのために今こうしてコックピットの中で待機しているのだ。
-
- ヒルダ達もバルトフェルド達同様に、最初はラクスの作戦に戸惑いを隠せなかった。
- セイが"FOKA'S"ということも信じがたいことだったが、それよりも自分達に課せられた使命に不安が過ぎった。
- キラが作った、APSの動きを補正してMSをコントロールするというOSシステム。
- これをMSに入れて対応しろというものだ。
- ハッキリ言って3人はこの前の戦闘ではAPS相手にほとんど歯が立たなかった。
- 特にラクスの前で受けたというその屈辱は、彼らの中にしこりとなって残っている。
- その悔しさを晴らす機会が訪れたのはありがたいことではある。
- と同時に命のやり取りをする戦場に不確かなシステムで出るということには不安を払拭しきれない。
- ラクスやキラのことを信用していないわけではない。
- だが準備期間のなさもあって、こうしてぶっつけ本番でどこまで通用するのかと、そんなことが頭の中を駆け巡りヒルダは思わず頭を振る。
-
- そこへバルトフェルドから通信が入る。
- 予定通りセイが逃走し、ナスカ級戦艦<グリニード>を奪って逃走したというのだ。
- さらにプラント周辺の岩石やデブリの中から無人MSと思われるグフが確認されたという連絡も受ける。
- また背中を冷たいものが流れる感覚を覚えるが、このままここでじっとしていても、またプラントの犠牲が増えるだけだ。
- もうこうなったらやるしかない。
- ヒルダは迷いを振り切るように強く操縦桿を握り締めると、2人に激を飛ばす。
-
- 「お前達、それじゃ行くよ。今度こそラクス様の期待に応えてみせるよ!」
-
- ヘルベルトとマーズもおうと力強く応えると、3機のドムは勢いよく宇宙へと飛び出す。
- 戦艦の熱源を捉えると同時に、その周囲にMSの反応も確認する。
- ヒルダ達が飛び出すと固まっていたMSの一団が散開し、ドム目掛けてライフルを撃つ。
- その攻撃をかわし、あるいはシールドで防ぎながら、ヒルダはその内の一つに狙いを定めてロックし、トリガーを引く。
- だがその一つ一つの動作はひどくぎこちない。
- モニタに映る映像も操縦している感覚も今までと変わらないのだが、どこか新しいOSのことを気にして操縦しているためだ。
- これまでの戦闘では目標をロックしたとしても必ず紙一重でかわされ、それがザフト軍を追い込んできた大きな要因だ。
- この攻撃もまたかわされるのではないかと危惧してしまう。
- だがトリガーを引いた瞬間、それは杞憂に終わる。
- ドムの放ったライフルは確実に捉えて貫き、激しい爆発の中にグフは消えていく。
- これまでの戦闘と違い、しっかりロックした目標にその攻撃は命中したのだ。
- 実際に使うまで不安だったヒルダだがその感触にこれなら行けると確信を持った。
- キラの作ったOSはAPSの動きを解析して、その予想行動を反映して攻撃のロックをするシステムになっている。
- またAPSの反応速度に対応できるように、回避行動にもその解析データを取り込み機動力は飛躍的に向上していた。
- ヒルダの攻撃を見ていたヘルベルト、マーズも不安があっと言う間に洗い流されていく。
- 迷いのなくなったドムの動きは先ほどのぎこちなさがなくなり、一段と連携が冴え渡る。
- そして1機、2機とAPSの攻撃をかわしながら確実に撃ち落していく。
- 明らかに今までは異なり、3機のドムがAPSを押している。
-
- グリニードでも3機のドムに次々と落とされるAPSを見て、セイもさすがに驚愕する。
- APSは所詮機械だ。
- 機体能力の限界まで引き出せるというメリットはあるが、人間の予想外の動きや、データにない攻撃などがあれば全く対応できない。
- それは最初からわかっていたことであり、だから人間が操縦するMSとして最高評議会で破棄された4th-Xプロジェクトの機体の開発も"FOKA'S"で行ってきたのだ。
- それがオッディスのプリテンダーであり、テツのポイズンだ。
- セイは拳を握り締めながらグリニードの速度を上げるように指示する。
- ここで討たれるつもりなど彼の頭には微塵も無い。
- 未だキラが健在となれば、それを抹殺するまでは死んでも死に切れないと思っている。
- ここにはプラントから難なく脱出するための兵力しか用意していない。
- さすがに国防委員長になっていただけザフト軍の戦力は熟知している。
- その上での脱出用のAPS20機という計算だった。
- だが3機のドムは明らかにセイの頭にある戦力以上の力を発揮している。
- そして今の状況を把握できないほどAPSに過信しているわけでも、セイ自身無能なわけではない。
- だからここは予想外のAPSの敗北という屈辱に耐えながら、セイはプラントを後にするしかなかった。
-
- ヒルダ達もグリニードがプラント圏内からどんどん離れていくのを知り、追いかけようとする。
- しかしAPS20機に対して、いくら優秀な兵士であるヒルダ達でAPSの動きに対応したMSを使っているといっても、APSが常人ではありえない動きをしなくなったわけではない。
- まだ慣れないシステムでは、また3機だけではそれらに対抗するのがやっとだ。
- ヒルダ達が行く手を阻むAPSを全滅させた頃には、グリニードは遥か彼方の宙域だった。
- ヒルダはコックピットのコンソールを拳で叩いて悔しがったが、バルトフェルドから労をねぎらう通信が入る。
- セイを追っていたバルトフェルドとイザーク、それにディアッカとダコスタも国防委員会の司令室に集まり、戦闘の様子をモニタで見ていた。
- 彼らもどこまでヒルダ達がやれるのか心配だっただけに、その結果には大いに安心している。
-
- 「逃がしたものは仕方ないさ。だがキラの作ったそのOSは奴らの無人MSに対して有効だということが証明された。これで今後奴らに対抗する策がいくらでも練れるってものだ」
-
- 確かにこのOSを全てのザフト軍MSに導入すれば、APSの攻撃はそれほど脅威ではなくなるだろう。
- バルトフェルドの言葉に気を取り直した3人は苦笑を零すと、プラントへと引き返す。
- その様子を見ながらバルトフェルドも決意を新たにする。
- "FOKA'S"との戦いはこれからだと。
-
-
*
-
- 時は遡って3日前。
- ラクスはプラント市民の前に立って"FOKA'S"襲撃事件に関する会見や、評議会の仕事を再開していた。
- その忙しい合間を縫ってラクスに密かに集められた、バルトフェルド、イザーク、ディアッカ、ダコスタ、ヒルダ、ヘルベルト、マーズの面々。
- そこでラクスの口を吐いて出た言葉。
- その言葉に誰もが驚愕の表情を浮かべ、次に言うべき言葉が見つからないでいた。
- やっとの思いでバルトフェルドがもう一度尋ねる。
- ラクスの言ったことを聞き間違ったのではないのかと思ったのだ。
- だがラクスは先ほどと同じことを、微塵の戸惑いも見せずに告げる。
-
- 「ミヤマ国防委員長は、"FOKA'S"のメンバーなのです」
-
- その言葉に、一同の間に激震が走る。
- それは当然だろう。
- 自分達を束ねる役割を持ったプラント最高評議会、そのメンバーの一人が実はプラントを襲撃した犯人グループだというのだから。
- セイに疑問を抱いていたバルトフェルドでさえ、予想もしないところからの答えに戸惑いを隠せない。
- 誰もが信じられないといった表情でラクスを見つめる。
- だがラクスに見せられたメンデルで行われていた研究データやその関係者が載っているという古いノートの中にしっかりとその名が刻まれていた。
-
- − 被験体 041 CE51.8.27 セイ=ミヤマ ---- 失敗
-
- それが示すのはセイもキラと同じく人工子宮から産まれた者であるということ。
- "FOKA'S"は自らをキラのできそこないと名乗った。
- それはセイもまたその研究の果てに失敗作として産まれたという悲しい出来事だ。
- キラが人工子宮から産まれたということ自体も未だ信じられない状況なのに、命を弄ぶような、そんな研究が既に何十年も前に行われていた事実に誰もが戸惑いを隠せない。
- だがノートにはキラやセイ同様人工子宮から産まれたと思われる人物の名前、他に研究者達の名前も乗っていて、そこにはデュランダルの名前もあることからその信憑性は高いことがわかる。
- またディスクには"FOKA'S"の通信データや人物のデータ、MSのデータ等が収められていた。
- ノートに書かれている名前と同じ名前も多く、少しずつだがバルトフェルドらもキラのデータを信用し始める。
- その上でメンバーがわかった以上彼らに対して先に手を打つ必要があります、とラクスは説く。
- 確かに相手の正体がわかった今なら先手を打つことは可能だ。
-
- 「だがあの無人MSはどうする。ミヤマ国防委員長の正体を暴けたとして、あれを出されたら厄介だぞ」
-
- バルトフェルドは尤もなことを言う。
- セイが"FOKA'S"のメンバーであるならば、その身に危険が迫ったならばAPSというカードを切ってくる可能性が高い。
- そうなればこれまで全くといっていいほど歯が立たなかったザフト軍の戦力では、いくら正体を暴いたとしても返り討ちにあってやぶ蛇になりかねない。
- 十分に対抗するだけの力や策がなければ実際に行動を起こすことは不可能だ。
- だがそれについても大丈夫ですとラクスは自信ありげに言うと、もう一枚のディスクを取り出す。
-
- 「これは無人MSに対応する補正がかけられた新しいOSのデータです」
-
- OSがAPSの動きを予想データとして反映し、そのデータが操縦のサポートを自動的にする対APS用のシステムだ。
- 実はストライクフリーダムにも同じデータが入れられていたことを、ラクスは独自の調査で確認している。
- だからストライクフリーダムはAPSに対してあれだけの戦闘力を見せたのだ。
- これをMSに設定してください、とラクスはヒルダに手渡す。
- 戸惑うヒルダだがはいと返事をしてディスクをとりあえず受け取る。
- そして一同を見渡したラクスは強い決意を秘めた表情で自らが考えた作戦を全員に告げた。
-
-
*
-
- 未だ眠ったままのキラは自宅へと運ばれていた。
- 庭の真ん中に設けられたガラス張りのサンルームで静かに眠っている。
- その横にはラクスが歌を静かに口ずさみながら付き添い、バルトフェルドからの報告を待っている。
- セイの正体を暴けば必ずキラを狙うだろうと読んだラクスが、作戦実行の前にキラをここへと運ぶように指示した。
- 密かに病室から運び出すことで、"FOKA'S"の襲撃からキラを守るためだ。
- そしてラクス自身も狙われる可能性もあるため、念のため屋敷の周囲を今はクライン派の兵士達が警護している。
-
- ラクスはキラの横に置いた椅子に腰掛けながらあの時のことを思い出す。
- マルキオが傷だらけのキラを運んできたことを。
- あの時目覚めたキラは体だけでなく心も傷だらけで、今にも消えてしまいそうなほど悩みを抱えていた。
- 初対面から変わらない悲しい瞳にラクスは強く胸を打たれた。
- そしてラクスは自分の想いを、力を託すことができる唯一の人物だと直感的に感じたのだ。
- だからキラが自らの道を決めるのをただ待っていた。
- 剣を託すことが出来る日がくることを。
-
- だが今は違う。
- 目が覚めればキラは自ら剣を持って立ち上がるだろう、再び傷つくことも厭わずに、ラクスの静止さえも聞かずに。
- キラはそうゆう人間だということを、ラクスが一番良くわかっている、優しくて強い人なのだと。
- ならばその意志を止めることはできない、それが望みであるなら。
- それを思うととても胸が痛くなる。
- キラが傷つかない世界を望んでいるのに世界はそれを許さず、また自分もその世界に近づけることができないことに。
- それでもキラを想うこの気持ちは止めることはできない。
- ラクスにとってキラがどんな生まれでどんなものを背負っていようが関係ない。
- ただラクスには伝えたいことが、伝えねばならないことがあった。
-
- そこにバルトフェルドから連絡があり、セイがプラントから逃走したと知らされる。
- 結局セイは捕まえられなかったことで今後も"FOKA'S"から何らかの攻撃があるだろう。
- それを防げなかったことを思うと目を伏せて残念そうな表情でそうですかと応えるが、一先ずキラが脅威に晒されることは回避できた。
- それについては心から安堵する。
- 通信を終えるとラクスはまた切ない表情でキラの寝顔を見つめる。
- キラが行方不明になってからもう何日も声を聞いていない。
- 早くキラの声が聞きたい、キラと話がしたいという気持ちは日に日に募るばかりだ。
- ラクスは早く目覚めてくださいとキラの髪をそっと撫でながら呟き、一滴の涙を零した。
-
-
-
-
― SHINEトップへ ― |
― 戻る ― |
― NEXT ―