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- ザフト軍のMS整備工場。
- ここでは全てのMSへのAPS対応OSのインストール作業がピークを迎え、作業員達は忙殺されている。
- そこにはかつてミネルバのクルーであった、ヴィーノとヨウランの姿がある。
- 2人は並んでインストール後のシステムチェックを行いながら、キラとラクスの噂話をしている。
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- 「分かっちゃいたけど、やっぱショックだよね、ファンとしては」
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- ヨウランは溜息を吐きながら愚痴を零す。
- 昔からヨウランはラクスの熱狂的なファンだった。
- それが妊娠したというのだから、ショックの一つもあろう。
- 以前には偽者のラクスの話にも衝撃を受けたが、プラントに戻ってきたというラクスが恋人を連れて戻ったという話にも心底ショックを受けていた。
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- ヨウランの溜息にヴィーノは呆れた様子で何言ってんだお前は、と突っ込むが、ヴィーノもヨウランほどではないにしてもファンの一人だ。
- ラクスが結婚したというのにも驚いたが、それよりも先に妊娠したというのにはやはりショックは大きかった。
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- 2人とも元々高嶺の花であるということはわかっているので自分がその相手にとは思ってもいないが、やはり気になるのはそのラクスの心を射止めた相手のことだ。
- 噂ではあるがプラント中にその存在は知れ渡っており、あの伝説のフリーダムのパイロットだとは知っているのだが、公に出てこないこともあり実際にどんな人物なのかは2人も知らない。
- また先の"FOKA'S"襲撃の話は2人の耳にも届いていた。
- もちろん傷だらけのキラが戻ってきて、危機を救ったことも。
- このOSを作ったのもかの人物だと聞かされて、やっぱりラクス様の愛する人は優秀なんだな、とまた憶測が広がり、それから2人はだんだんと仕事そっちのけでキラとはどんな人物かについての議論が展開され今に至る。
- そんな中で飛び出した言葉。
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- 「アスランとは幼馴染らしいな」
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- あることないこと言い合っていた2人だが、ヴィーノが最近仕入れた情報だぜと少し自慢げに話す。
- ヨウランはへぇと感嘆の声を漏らすが、アスランの話が出たところで同じようにかつての同僚であった友人のことがふと気になった。
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- 「そう言えばシン達はどうしてっかな」
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- かつてミネルバに乗りメサイアで戦った時の事を思い出す。
- 死んだと思ったアスランとメイリンが生きていて、エターナルのクルーとなって敵味方に分かれて戦っていたことには少なからず衝撃を受けた。
- 自分達はミネルバ撃沈後、脱出邸でプラントに戻ったが、シンとルナマリアはメサイアの攻防後、ジャスティスを駆るアスランに保護されたと聞いていた。
- それからメイリンと共にオーブへ渡り、今はオーブで平和のために尽力していると聞いている。
- シンは特にプラントのアカデミーに来る前に戦争で家族を亡くしたと聞いていたから、ミネルバに乗っていた時にはエースパイロットとして頼りにしていたけど、やっぱり軍人とかよりはいいかもなと心の中でエールを送る。
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- その時突然作業場に警報が鳴り響き、作業長が大声で指示を飛ばす。
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- 「総員作業を急げ、"FOKA'S"の戦艦がプラントに接近中、MSは作業完了しだい発進させる」
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- その指示にヴィーノとヨウランは慌ててお留守になっていた手を動かして作業を再会した。
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PHASE-33 「新たなる戦い」
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- 「最初からプラントを総攻撃していれば話は早かったな」
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- カイトは未だ釈然としない様子で吐き捨てるように言う。
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- 地球から何とか宇宙へと上がったカイトは、"FOKA'S"の部隊と合流した直後、セイが本部に戻っていることに驚いた。
- そしてよくよく話を聞くと、セイの正体がバレてプラントから追われたといいうことで、それまで蓄積されていた怒りが頂点に達した。
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- 元々セイとは意見の食い違いが堪えないカイトである。
- セイも怒りを堪えたような顔で2人は言い合いを始める。
- 熱くなりやすいカイトが声を荒げるのはよく見ていたが、セイがあれほど怒りを露にしたのを誰もが見たことなく驚いていた。
- かなりお互いにヒートアップして言い争っていたが、結局カイトが部隊を率いてプラントを再度襲撃する作戦をセイが了承する形で決着を見た。
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- グリニードのブリッジで怒りを露にするカイトの傍らには、カイトの言葉を腕を組んで苦笑しながら聞いている銀髪の男、シュウ=アズマ、顔を包帯で多いその瞳以外は表情も伺い知れない、身に着けた服装と体のラインから女性であることが辛うじてわかる、フリン=アシューノ、黒い肌に癖のある黒髪を首の辺りに靡かせている男、クランプ=カルツが立っている。
- カイトは地球で受けた屈辱をプラントにぶつけようと息巻いていた。
- それに同調するのはクランプだ。
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- 「セイは七面倒くさいことを考えすぎなんだよな」
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- 言いながら無重力のブリッジでくるりと空中バク転をしてみせる。
- 実際にはプラントと戦争をするにはそれなりの戦力が必要であり、そのための資材なども用意しなければならない。
- セイはその辺りを緻密に計算して自らプラント内で時間稼ぎや、資材集めに奔走していた。
- その行動を理解できないでもないカイトとクランプだが、特にクランプは短絡的な思考で物事を考えるきらいがある。
- そんな彼らにはセイの行動には無駄が多くあるいように映るのだ。
- 冷静なシュウはそんな2人に小さく溜息を吐きながら諭す。
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- 「セイの報告ではAPSに対抗するシステムをザフト軍は構築したという話だ。APSはもう戦力にならないぞ」
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- 今回の作戦は、苦戦は必至だと告げる。
- "F\OKA'S"でも発言力の強いカイトの作戦にすぐに賛成したクランプ、何も言わなかったが勝手に戦艦とAPSの発進準備を始めたフリンを見て、シュウが溜息をついてセイに目配せし、彼らのお目付け役として今回は同行していた。
- シュウはいつも冷静に物事を客観的に評価し、それがセイに一目置かれ、"FOKA'S"でも信頼の高い人物だ。
- だがシュウの言葉にカイトとクランプは揃って関係ないと吠える。
- あんな機械人形なんかに頼らなくても俺達が全部やればいいんだ、と。
- そんな2人にシュウはまた溜息をついて説くのを諦める。
- 今の2人に何を言っても無駄だと思うし、実際シュウもこの4人で出ればさほど問題はないと頭の隅では思っている。
- ここにいる4人は"FOKA'S"でも特に戦闘能力の優れた者達だ。
- キラと比較しても遜色ないシミュレータの結果を出せるほどの。
- だが運命は時に残酷だ。
- それ以外の面で僅かに研究者達が想定していた結果を得られないことが、結果失敗作として彼らに生を授けた。
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- ちなみにこの会話にフリンが加わることはない。
- いつもそうだがフリンは必要最低限な事以外言葉を発しない。
- 今も話には興味無さげにモニタを黙って見つめている。
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- そうして宇宙を進むグリニードはやがてプラントからの宙域侵犯の通告を受ける。
- 通告を受けるとすぐさまカイトはAPSの発進を指示する。
- グリニードを含めたナスカ級戦艦3隻、及び戦艦が引っ張ってきたコンテナから併せて100機ものAPSが出撃し、プラントへと向かって加速する。
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- 一方"FOKA'S"の戦艦が近づいているのをキャッチした国防委員会では、イザークがセイに代わって国防委員長代理として指揮を取っている。
- まだ作業途中ではあったが、APS対応システムを組み込んだMSの準備は予定通りには進んでおり、取りあえずの防衛には問題ない。
- ナスカ級戦艦から複数のMSの信号が発進するのを捉えると、イザークはプラント防衛部隊へ出撃を命令する。
- ザフト軍も宇宙へと飛び出すとすぐに両軍は激しくぶつかり合う。
- だがAPSのザクやグフはザフト軍にとって脅威ではなくなっていた。
- 驚異的な機動力は相変わらずだが、ザフト軍の攻撃は当たるようになり、回避も以前とは比べ物にならないくらい容易にできる。
- 戦況は圧倒的にザフト軍有利で進む。
- その状況を見てカイトはポツリと呟く。
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- 「やっぱり、所詮はプログラムだな」
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- 地球でもそうだったがAPSは想定外のことが起こると、どうにも脆くて仕方が無い。
- 驚異的な動きをするといっても、入力されたプログラム以外の動きをすることは決してなく、その行動パターンは限られたものしかないのだ。
- 尤も何万通りものニューラルネットワークと乱数を扱って、そう簡単に予測ができないように行動パターンは決定されているが。
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- しばらくモニタを見つめたカイトだが、やがてAPSに戦闘させてもこれ以上は無駄だと踵を返すと、他の3人も同様にモニタに背を向けブリッジの扉を開け、4人はそれぞれ自分の専用機へと向かう。
- グリニード格納庫には4機のMSが並んでいる。
- 1機はカイトのナイトメア、その横に並ぶのはX3-002S-"Malice"でシュウの専用機、ナイトメアの向かいはX3-004S-"Abhorrence"でフリンの専用機、その横はX3-005S-"Slaugther"でクランプの専用機だ。
- 4人はそれぞれの機体に乗り込むと素早く発進シークエンスを実行し、機体の目に光が宿る。
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- 「カイト=イブキ、ナイトメア、発進する」
- 「シュウ=アズマ、マリス、行くぞ」
- 「フリン=アシューノ、アヴホレンス、出る」
- 「クランプ=カルツ、スロータ、出るぞ」
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- 発進の掛け声と共に4機のMSは次々に光の交錯する宇宙へと飛び出した。
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- キラとラクスは、自分達の屋敷でそれぞれできることをしていた。
- キラの傷は大分癒えたがまだ歩き回れるほどではないため、ベッドに横になったままラクスに自分が持ち帰ったデータの説明をしたり、自分がいない間にプラントで起こったことを聞き、それらをパソコンに打ち込んでいる。
- ラクスはキラからデータの説明を受ける他に、評議会に必要な書類へのサインをキラのベッドの横に用意した机で行っている。
- そしてそれ以外はラクスがキラの世話を甲斐甲斐しく行っている。
- 緊迫した情勢ではあるが、お互いに2人一緒に居られることは嬉しく思っている。
- それは恋人達の安らかで愛しい時間だ。
- 後はこの世界から争いが無くなってくれれば言うことはないのだが。
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- そこへバルトフェルドから"FOKA'S"襲撃の連絡が入る。
- ラクスは眉をひそめるが分かりましたと言って通信を切ると、キラにお仕事に言って参りますと少しだけ残念そうな表情で告げる。
- それを聞いたキラはラクスの言葉に反応せずに何かを考え込む。
- キラの態度に訝しげにキラの名を呼ぶラクスだが、突然キラは呻き声を上げながらベッドから上半身を起こす。
- ラクスは慌ててそれを静止する。
- だいぶ傷はよくなったとは言え、キラ自身もまだ体のあちこちは痛み起き上がれる状態にはない。
- ラクスはまだ横になっていてくださいな、と嘆願するがキラは少し肩で息をしながら体を起こし真剣な表情でラクスに向き直り訴える。
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- 「僕も連れって行って」
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- ラクスは驚愕の表情を浮かべ、すぐに首を横に振ってキラの申し出を拒否する。
- キラは怪我人だということもあるが、必要以上に傷ついて欲しくないというラクスの配慮だ。
- 戦闘を見ているだけでもキラは傷つくことをラクスは知っている。
- そして責任感の強いキラのことだから、また無茶をしてMSに乗っていかないか心配なのだ。
- だが今日のキラは尚も食い下がる。
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- 「君は行ったよね?僕らはいつも一緒だって。一人で背負わず、共に支えあって行こうって。あれは嘘じゃないよね?だったら君が背負ったものは僕は代わりに背負うことはできないけど、そんな君を僕は支えることは必要だよね」
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- キラにそう言われてラクスは言葉に詰まる。
- キラに言った言葉は嘘ではないが、ここでキラの願いを拒否することは嘘だと言っていることになってしまう気がする、あれはそうゆう意味でいったのではないのだが。
- ラクスの心の中で小さな葛藤が始まる。
- そんなラクスの心情に気が付いたキラはラクスの手を取って、君を困らせたいわけじゃないんだと謝ると、自らの思いの丈を語る。
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- 「僕は今MSに乗ることはできないけれど、だからできることはないのかも知れないけれど、それでも君と一緒にできることをしたいんだ」
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- キラは静かにしかし強い決意を秘めた瞳でラクスを見つめる。
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- 「僕は彼らから逃げるわけにはいかない。僕は彼らを救いたいんだ」
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- ラクスはじっと悩んだが、最後のキラの言葉に拒否することはできなくなっていた。
- それはラクスも同じ願いを持っているから。
- 彼らとてキラと同じ、いやキラ以上にその命を弄ばれ、運命に翻弄されている被害者なのだ。
- ラクスが頷くとキラは優しく微笑んでありがとうと告げ、痛みに堪えながらベッドから体を起こす。
- そんなキラをラクスは支えながら一緒に迎えの車に乗り込む。
- そして車の中で二人は寄り添いながら、争いのない平和な世界を強く祈っていた。
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*
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- その頃司令室ではナスカ級から新たなMSの発進を確認する。
- シグナルはいずれもUNKOWNを示し、"FOKA'S"の新型であることがわかる。
- バルトフェルド達はすぐにモニタに映る機影からそのMSの形状を分析し、キラがもたらしたデータから4機のスペックを確認する。
- 結果いずれもニュートロンジャマーキャンセラーを搭載した機体であることがわかった。
- メンデルで自爆したプリテンダーも核エネルギーで動く機体だったことがわかっている。
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- −ニュートロンジャマーキャンセラー−
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- それは禁断とされる核反応を無効にしたニュートロンジャマーを解除する仕組みで、核エネルギーの使用を可能にしたものだ。
- 現在ではニュートロンジャマーキャンセラーを搭載した機体はストライクフリーダムとインフィニットジャスティス以外にその存在はないとされ、またどの国家でもその所有も認められていない。
- 機体の管理も、それぞれキラとアスランにのみ許可されているはずなのだ。
- それが密かに利用されたことに、"FOKA'S"の周到さが感じられる。
- だがバルトフェルドはそれ以上にそのMSの性能に恐怖と不安を覚える。
- 操縦するパイロット腕前あってのところはあるが、その圧倒的なパワーは味方として傍でよく見て、何より頼りにしてきたバルトフェルドだからこそよくわかる。
- そしてその危惧は現実のものとなり、4機の登場で形勢は一気に逆転する。
- APSに勝るとも劣らない機動力と、APSとは比べ物にもならない火力とパワーでザフト軍のMSは次々に落とされていく。
- イザークらはその様子を歯軋りしながら見つめる。
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- そこへ傷ついたキラを支えながらラクスが司令室に到着する。
- 一同は痛々しいキラの姿もさることながら、キラがこの場に無理をして現れたことに驚く。
- ラクスが事情を簡単に一同に説明している間、キラは通信機に向かいそのマイクを掴むと、通信機のスイッチを入れ、必死に"FOKA'S"へ説得を試みる。
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- 「もう止めるんだ。これ以上周りの人達を巻き込んでも、何にもならない」
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- だが"FOKA'S"はキラの説得には全く応じようとしない。
- 彼らの頭の中にはキラの言葉を聞くという意識は全く無い。
- あるのはキラへの歪んだ憎悪だけだ。
- キラの声を聞くだけで、それは増幅される。
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- 何度も呼びかけるキラに苛立ちが募ったカイトが、一言だけ応える。
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- 「キラ=ヤマト、心配しなくてもすぐに終わる。お前とこの目障りな連中がこの世界から消えてなくなればな!」
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- そう語尾を荒げると、カイトは一方的に通信を切る。
- その言葉に打ちのめされたように通信機を握りしめ、キラはその場で俯き佇む。
- 何故彼らは自らの破滅すら厭わずに自分の命を狙うのか、キラには理解できなかった。
- 彼らがキラの思いなど知る由もないように。
- そんなキラにラクスはそっと寄り添い心配そうにキラの名を呼ぶ。
- キラは痛々しい表情だが笑って、大丈夫と応える。
- とても大丈夫な顔には見えないが、ラクスはあえて何も言わずにキラの手にそっと自分の手を添えて、ラクスも"FOKA'S"へ呼びかける。
- 答えが返ってくることはないとわかっていながら。
- イザーク達国防委員のメンバーはそんな2人の行動に胸を痛めながら、今はザフト軍が彼らを止めてくれるのをただ祈るしかなかった。
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- 戦場ではディアッカがジュール隊を率いてAPSを撃ち落していく。
- 目の前のAPSを落として辺りを確認すると、ほとんどのAPSは行動不能になったようだ。
- 爆発の光も数が随分減っている。
- と新たなMSをレーダーが捉えたかと思うと、UNKOWNと示された真っ黒のMS、ナイトメアが目の前に現れる。
- カイトは獲物を見つけた獣のように舌なめずりをして、その一団をターゲットに捉える。
- ナイトメアは5つの砲火を同時に放ったかと思うと、ディアッカの部下に一瞬にして壊滅的なダメージを与える。
- 辛うじてその攻撃をかわしたディアッカだが、驚異的な攻撃力に驚くと同時に湧き上がる怒りに反撃を試みる。
- だがその攻撃はかわされナイトメアは素早い動きでゲルググの攻撃をかわすとライフルを連射する。
- 避けきれずにライフルの攻撃を何発か被弾したゲルググは右手、右足を失い反撃する術を無くす。
- ダメージを受けたディアッカは、相手のMSはAPSとは違うことを直感的に感じた。
そして相手のパイロットは強いと。
- 自分との実力差をその肌で感じ取る。
- そうこう考えている間にディアッカのゲルググにカイトのナイトメアが迫り、ディアッカはやられると小さな悲鳴を上げる。
- その時2機の間をビームが通過し、ナイトメアを牽制する。
- 2人が驚いてビームの飛んできた方角を見ると、そこにはインフィニットジャスティスがライフルを構えていた。
- そのコックピット内、アスランは決意を秘めた表情でナイトメアを見据えていた。
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