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- 司令室でも突然現れたインフィニットジャスティスの姿を捉え、驚いていた。
- その後方からはアークエンジェルの姿も確認できる。
- オーブにあるはずのかの戦艦と機体が何故ここにいるのかと誰もが考え、ざわめきが起こる。
- そして誰もが戸惑っているところへアークエンジェルより通信が入る。
- そこに映った人物は、キラ達にとって見間違うことのない懐かしい顔だ。
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- 「オーブ軍独立機動部隊、アークエンジェル艦長のマリュー=ラミアスです」
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- マリューはモニタに映ったキラの痛々しい姿に一瞬顔をしかめるが、お久しぶりキラ君、と少しだけ口元に笑みを浮かべる。
- 戸惑うキラはそうですねと思わず返し、そんなキラの反応にマリューは相変わらずだなと苦笑を浮かべるが、すぐに真剣な表情でアークエンジェルの目的を話し始める。
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- 「本艦はオーブ代表首長暗殺未遂の首謀者を追跡してここまで来ました。彼らは我々にとって捕えなければならない相手です」
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- その言葉にキラとラクスも驚きを隠せない。
- "FOKA'S"はオーブにも攻撃を仕掛けていたことは初めて知ったことだ。
- バルドフェルドが彼らのことを慮って報告していないためだ。
- だがそれは、事態は自分達が思うよりももっと深刻で、キラというたった一人の存在を産み出すために犠牲になった者達の憎悪は、大きく世界を巻き込もうとしていることを示している。
- そのことには胸を痛めるばかりだ。
- その心境を知ってか、マリューはさらに言葉を続ける。
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- 「また我々は友好関係にあるプラントの危機を見過ごすことはできません。援護致します」
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- 司令官殿はご決断を、とマリューは凛とした表情でそう告げる。
- そこにはキラやラクスを助けたいという思いも含まれている。
- だがイザーク、バルトフェルドはもちろん、キラとラクスもその申し出に即答することができない。
- 援護の申し出はありがたいのだが、特にキラとラクスは彼らを戦いに巻き込むことに強い抵抗を覚えてしまう。
- 既にプラントを巻き込む事態には発展してしまっているが、できればこれ以上周囲の人間に迷惑を掛けたくないという思いがある。
- 彼らが深く信頼する仲間であれば尚更だ。
- 何よりこれはプラントに対して出された宣戦布告であり、プラントが解決しなければならない問題だ。
- オーブも巻き込んだ外交問題に発展すれば、また政治的には話がややこしくなってしまう。
- 和平条約は結ばれたとはいえ、地球とプラントはまだ微妙な情勢にある。
- 未だ「ナチュラル」と「コーディネータ」との間には火種が燻っている。
- 下手にオーブだけがプラントに協力すれば、またオーブは地上において孤立していまう恐れもある。
- 彼らが危惧するのはそこから、また以前のような戦争に発展することだ。
- バルドフェルド達もそのことを危惧し、答えあぐねているのだ。
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- だがその危惧は今ここにいるアークエンジェルに乗る彼らも、いや彼らだからこそ重々承知している。
- それでも仲間を、恩人を助けるために覚悟を決めてここに来た者達ばかりなのだ。
- それが世界を悲しみの螺旋から解き放つ、平和へ繋がる唯一の道だと信じて。
- その皆の気持ちを代弁するように通信に割って入るのはカガリだ。
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- 「気持ちはわかるが今は何に対してどう対処しなければならない?本当に大事なことは今あいつらを止めることじゃないのか?」
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- キラ達が即答できない理由が理解できるカガリは、それは今ここを切り抜けられたらの話だろ、と目の前の問題を解決することが先決であると諭す。
- カガリが通信に出たことにさらに驚く司令室の一同だが、その間もザフト軍の劣勢は続き、次々光の中にかけがえの無い命が消えていく状況にキラ達はさらに深く悩む。
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- その頃、カイトはインフィニットジャスティスの介入には驚いたが、気を取り直すと地球での決着を着けてやると、インフィニットジャスティスをターゲットに捉えてライフルを放つ。
- インフィニットジャスティスに助けられたディアッカも驚きの表情で、言葉にならないままアスランに通信を送る。
- そんなディアッカに下がれと鋭く告げると、アークエンジェルの通信も傍受していたアスランはキラに話しかける。
- 既にインフィニットジャスティスとナイトメアは交戦状態に入っている。
- アスランはナイトメアの攻撃をシールドで受け止めがら、意識を戦闘に集中させて周囲の状況をクリアに捉える。
- それでも通信モニタをオンにしたまま、アスランはキラに言葉をかけ続ける。
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- 「変わったな、お前は」
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- 昔は何かある度に俺のところに泣きついて来てたのにな、とアスランは攻撃を受け止めた拍子にイントネーションを変なところで強めながら苦笑を浮かべて呟く。
- まだ戦争を知らない子供だった頃はキラは何かにつけて直ぐにアスランに頼っていた。
- しかし一度悲しくも敵味方に分かれてしまった時から、キラは全てを自分の中に溜め込むようになってしまった。
- それが人に迷惑を掛けない唯一の方法だと思ったキラは、その本音を語ることはなくなった。
- 語る者があるとすれば、それは隣に寄り添う愛する人だけだということだ。
- だが今、アスランは友人としてキラの思いは痛いほどわかる。
- アスランにとって、キラの頑固さと優しさは昔から少しも変わっていないのだから。
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- 「俺はお前にそう言われたからって簡単に退くほど諦めはよくないぞ。それにいくら友達の頼みでも、その友達の危機をこのまま見過ごせるほど話のわかる男でもない」
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- それはキラにもわかっている。
- アスランにキラが今どんな心境かわかるように、キラにはアスランがどんな行動を取るか、それこそ手に取るようにわかった。
- 彼が最も信頼する友であるから。
- 自分を叱責して無理矢理でもこの戦いに介入するに決まっている。
- ならばキラが何を言ってもここは無駄だろう。
- キラと同様、アスランもまた頑固なのだ。
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- 「アスラン、僕はまた、君に頼るよ」
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- キラが悩んだ末苦しげに応えたのを見て、アスランは任せろと薄っすら笑みを浮かべて力強く頷くと、ナイトメアに接近しビームサーベルを打ち合う。
- マリューも意志の強い瞳で、では援護致しますと敬礼して通信は切れた。
- 直後にアークエンジェル艦内に流れた放送に、クルーは歓声を上げ士気は一気に高まる。
- 司令室では俯くキラの手にラクスが自分の手を重ねて、今はこれでいいのですと微笑んで頷いた。
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PHASE-34 「再び集う意志」
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- 援護を受けるとの通信が入ると、コックピットで待機していたムウ、シン、ルナマリアは表情を引き締めすぐに宇宙へと飛び出す。
- モニタで戦闘の様子を見ていたが、ザクとグフの他に地球で戦ったナイトメア以外に新型が3機確認できる。
- いずれもナイトメアに勝るとも劣らない動きでザフト軍のMSをあっと言う間に落としていく。
- ザフト軍がAPSを何の苦もなく落としているのには正直驚いたが、新型達はそんなザフト軍を圧倒的に翻弄している。
- とにかくあの4機をどうにかすることが必要だ。
- ムウはカタパルトから飛び出しながら頭の中でそんなことを考える。
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- 「あの黒い奴はこのままアスランに任せる。俺達は他のザフト軍の援護をするぞ」
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- ちらりと既にナイトメアとライフルを打ち合っているインフィニットジャスティスを横目に見て、ムウは2人にそう指示を出しながら何か不穏な気配を感じ取る。
- そして避けろと絶叫すると、ムウは機体を急旋回させる。
- シンとルナマリアは突然のことに戸惑いながらも、アカツキに倣うように機体を緊急に方向転換させる。
- とその瞬間に、それまで彼らがいた空間に四方からビームが飛び交う。
- ムウの言葉がなければシンもルナマリアも被弾していただろう。
- 突然の攻撃に何が起こったのかわからず驚く2人だが、そのビームを放ったのは小型の機械で、ビームを放ち終わると1箇所に集まっていくが確認できる。
- それがドラグーンによる攻撃だと理解するのに時間は掛からなかった。
- そしてその先にはグレーの装甲に円形のリフレクターを背負った機体、スローターが彼らの行く手を阻むように佇んでいる。
- クランプは逸早くアークエンジェルとそこから飛び出したMSに気が付くと彼らに狙いを定めた。
- ドラグーンを呼び戻すとよく避けたなと一人ごちて、再びドラグーンを背中から放つ。
- それを見たムウはアカツキを他の2機の前に出すと、同じくドラグーンを起動しスローターから放たれたビームに向かって寸分違わずビームをぶつけて攻撃を防ぐ。
- クランプは自分のドラグーンの攻撃を全て防がれたことに驚愕の表情を浮かべ、それから怒りに顔を赤くする。
- クランプの記憶が正しければアカツキにはナチュラルが乗っているはずなのだ。
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- 「この俺がナチュラル如きにやられるか!」
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- クランプには歪んだプライドとはいえ、"FOKA'S"でも扱える者がほとんどいないドラグーンを使える能力を持っているという自負がある。
- これは空間把握能力に長けた者でなければ扱えない、操縦者を選ぶ代物なのだ。
- それをナチュラルが使えるだけでも耐え難い屈辱なのに、自分よりもうまく扱う者がいることなど認められるはずもなかった。
- クランプは怒りを露にしながら再びスロータの背中からドラグーンを飛ばす。
- それを見たムウもアカツキのドラグーンを起動し、ドラグーン同士で牽制しあう。
- だがドラグーンのコントロールに関してはムウの方に一日の長がある。
- スローターのグレーのドラグーンは、アカツキの金のドラグーンの攻撃を防ぐのがやっとだ。
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- 「ここは俺が抑える。お前達は他の援護を」
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- ムウはそう言いながらスローターに近づき、ビームサーベルで切りかかる。
- その攻撃を辛うじて避けたクランプは、劣勢に苛立ちながらアカツキに向けてライフルを放つ。
- ムウはそれを回避しながらその間もドラグーンを巧みに操り、スローターはビームシールドで防御しながら後退していく。
- 苛立ちが募るクランプは雄叫びを上げながらアカツキに掴みかかるようにビームサーベルを振り下ろす。
- それを受け止めたアカツキと鍔迫り合いから離れて、2機はお互いのみに意識を集中してドラグーンの打ち合いを繰り広げる。
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- その様子を後ろに見ながら、ムウの言葉を受けてシンとルナマリアはビームの光が激しく交錯する宙域へと飛び込む。
- それからルナマリアはムラクモをMS形態に変形すると背中のインパルス砲を構えて、ザフト軍を立続けに3機撃ち落した薄い赤とオレンジのMS、アヴホレンスに向かって放つ。
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- 「いつまでも調子に乗ってるんじゃないわよ!」
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- 砲撃を放ちながらルナマリアはザフト軍をしっかりしなさいと叱咤する。
- 突然襲ってきたビームを回避しながらフリンは目を見開いて振り返る。
- その先に映る機影はシグナルはカイトからもたらされた情報によりオーブの新型MSを示している。
- そしてそのMSから聞こえてくる声は女性の声だ。
- その声を聞いた途端フリンの形相は包帯の下からでも分かるほど怒りの表情を浮かべ、ムラクモの方にくるりと機体の正面を向ける。
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- 「お前は何だ!」
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- フリンは目を吊り上げて叫ぶ。
- 通信機から零れてくる声に今度はルナマリアが目を見開く。
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- 「女!?」
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- "FOKA'S"はキラの過去に関わる人物だとは聞いていたが、女性もいるとは思っていなかった。
- 予想外の出来事にルナマリアは思わず機体の動きを止める。
- その戸惑っている間にアヴホレンスに腹部からビームを撃たれるが、ムラクモの特殊装甲によりビームは無効となる。
- フリンはその様子に舌打ちすると、MSに乗る前とはまるで別人になったように目を血走らせてビームサーベルを振りかり、雄叫びを上げながらムラクモに迫る。
- ルナマリアは攻撃をされたことで我に返ると、自分に喝を入れてインパルス砲とレールガンを同時に発射し反撃する。
- アヴホレンスはその攻撃をかわして尚もスピードを上げて突っ込み、ムラクモはビームサーベルでその攻撃を受け止める。
- だがビームサーベルが交錯したアヴホレンスは加速を緩めずその勢いのままムラクモを押し込みルナマリアはぐぅと顔を歪めて小さく呻き声を上げる。
- しかし負けん気の強いルナマリアもこのまま黙って押し込まれるはずもない。
- ムラクモの腕の角度を変えてうまくいなし機体を入れ替えるように背後に回ると、アヴホレンスの背中に蹴りをお見舞いしてその勢いで距離を取る。
- フリンはその衝撃に呻き声を上げるが直ぐに機体を立て直すと、執拗にムラクモに切りかかる。
- ルナマリアも受けて立つとばかりに背中のスラスターを広げるとアヴホレンスに向かって加速し、2機はビームサーベルを交えては離れ、その度に光の輪が宇宙に開く。
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- 「ルナ!」
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- アヴホレンスとムラクモが交戦状態に入ったのを確認したシンはルナマリアの名を叫び、援護しようとアヴホレンスに向かってライフルを構える。
- だがそれをシュウの深い青色に染められた機体のマリスがイザヨイの横からライフルを放ち阻止する。
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- 「君の相手は俺だ」
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- シュウはアークエンジェルから発進した4機の機体の内、3機が他のメンバーと戦闘に入ったのを少し観察していた。
- そしてそれぞれが相当な技量のパイロットであることがわかった。
- インフィニットジャスティスのアスラン、アカツキのムウと言えば前の大戦でも有名な英雄でその実力は周知のことだが、新型については詳しい情報は得ていない。
- だが目の前で繰り広げられている様なアヴホレンスと互角の戦いができるMS、あるいはパイロットなどそうは居ない。
- 英雄と呼ばれる彼らと同等以上の力の持ち主のはずだ。
- ならばもう1機も同等以上のレベルにあると予測を立て、この2機相手ではフリンでもきついなと冷静に分析して、シュウはイザヨイをターゲットに捉えた。
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- マリスの攻撃にシンは舌打ちしながら回避行動を取ると、背中の斬艦刀を抜いてその切っ先をマリスに向ける。
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- 「くっ、邪魔するな!」
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- 俺はルナを助けに行かなきゃならないんだ、とシンは叫びながら斬艦刀を振りかぶり機体を加速してマリスに切りかかる。
- その攻撃をマリスはスラスターの残光に機影が二重三重に見える程の残像を残して素早く避けると、ビームライフルを構えて連射する。
- シンはマリスの機動力に一瞬驚愕の表情を浮かべる。
- だがイザヨイの機動力も伊達ではない。
- すぐにマリスを睨みつけると6枚のスラスターから光を噴出して、複数の機体に分かれたように錯覚するスピードでライフルの連射をかわしながらマリスに近づき、また機体を掴もうと加速するイザヨイの高速の接近攻撃をマリスは紙一重でかわし、2機は周囲のMSのモニタでは追いきれない程のスピードで宇宙空間に光の尾を引いて交錯する。
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- そうしてオーブ軍所属のMSが現れたことにより、再び戦況は一変する。
- "FOKA'S"の4機がそれぞれ1対1で抑えられる格好になったためだ。
- イザークから4機はジャスティス達に任せろと命令が伝わったため、ザフト軍はAPSのみを目標にして防衛戦を展開する。
- 結果としてその間にザフト軍はAPSを全滅させることに成功した。
- ザフト軍も被害は小さくないが、ともかくMSはアークエンジェルの4機が相手をしているものだけになった。
- それを確認し、残ったザフト軍は相手母艦を叩くべくグリニードにも近づく。
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- シンと戦闘しながらシュウはその状況を確認し、舌打ちする。
- アークエンジェルの登場、何よりインフィニットジャスティスを含めたオーブのMSの戦闘力は予想外だった。
- このまま自分が負けるとは思わないが、他のメンバーの状況を見ても1対1の戦闘を強いられるほど彼らの能力は高い。
- アスラン以外にこれだけの戦闘が可能なパイロットと機体の存在は、正直全くデータに入っていなかった。
- シュウは少し考えた末、決断する。
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- 「カイト、クランプ、フリン、撤退するぞ。このままではグリニードも落とされる」
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- その通信にカイトとクランプはあからさまに不服そうな声を上げるが、彼らもアークエンジェルの戦力は計算していなかった。
- さすがに自分達も、インフィニットジャスティスらに加えてザフト軍の総攻撃を無傷で切り抜けらるとは思っていない。
- シュウがグリニードに指示を送ると撤退の信号弾が打ち上がり、4機は踵を返してグリニードへと帰艦していく。
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- 撤退に気が付いたアスランとムウは再び逃げられたことに歯痒い思いを抱えるが、自分達はナイトメア以外は詳しい情報が何も無い。
- 下手に深追いすることは危険だ。
- シンの方はムキになって追いかけようとするが、ルナマリアに止められて周囲を見渡す。
- 周りにはMSや戦艦の残骸がかなり浮かんでおり、コンロトールを失った機体が多数ある等ザフト軍は思ったよりも酷い状態だ。
- ルナマリアに諭されてそれに気が付いたシンも悔しさを滲ませながらも"FOKA'S"を追うのを諦め、マリューの指示でザフト軍の撤収作業の手伝いをする。
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- 4機が撤退していくのを見た司令室では一様に安堵の溜息が漏れる。
- その一方でキラは必死に考えていた。
- どうすれば"FOKA'S"を救うことができるのか。
- そしてアスラン達にどこまで何を話すのか。
- 目を閉じじっと思考を巡らせるキラを心配そうに見つめるラクスだが、キラは一人で納得したように頷くと、ラクスに向かって微笑む。
- その瞳には切なさと決意の色が浮かんでおり、ラクスにもキラの考えが伝わる。
- そんなキラを見てラクスも表情を引き締め頷くと、アークエンジェルに援護の感謝を述べた後、皆さんにお話しなければならないことがあります、とプラントへの寄航許可を出した。
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