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- アークエンジェルの格納庫内。
- ここでかつての友が再会した。
- シン、ルナマリア、メイリンとヴィーノ、ヨウランのプラントアカデミー出身の同期達。
- 卒業後は共にミネルバに配属され、一度はアークエンジェルとも戦った彼らが時が経て、互いの立場を変えて、そのアークエンジェルで再会したのは何かの縁か。
- 5人ともが複雑な心境を抱きながら、再会したことには純粋に喜び合う。
- 今はどうしているか、お互いの近況を報告しながらこれからのことについて、シンは本音を漏らす。
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- 「あの時は何が真実がよくわからなかったけど、今ならわかるから。俺達は二度とあんな戦争を繰り返しちゃいけないんだ」
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- シンの言葉にヴィーノとヨウランは戸惑う。
- 2人の知るシンとは印象がかなり違うからだ。
- 昔のシンは上官だろうがいちいち人の言う事に反発し突っかかる印象ばかりが残っているが、今目の前に居るシンは随分と落ち着いた雰囲気で大人びて見える。
- だがシンの言うことは2人にも心に響く者があり、正しいことだと思え、そうだなと同意を示す。
- それからまたよろしくと互いに握手を交わす。
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- 同じ頃ブリッジではマリュー達アークエンジェルの士官達に混じってディアッカが今後の対応についての打ち合わせを行っている。
- アークエンジェルの横にはヴェルトールが並んで宇宙を駆ける。
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- 評議会の命令により、今アークエンジェルとザフト軍のヴェルトールは共に行動している。
- ヴェルトールはディアッカが率いる部隊の旗艦として編成され、回線モニタに映るのは艦長のアーサーだ。
- アーサーもかつての搭乗艦を沈められたアークエンジェルと行動を共にすることには複雑な心境だが、今は少なくとも心強い味方だという認識はある。
- ヴィーノとヨウランもエルスマン隊の編成に伴い、ヴェルトールの整備スタッフとして搭乗することになったのだ。
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- その少し前、ディアッカは今後の打ち合わせのためアークエンジェルへと移動してきた。
- ディアッカはアークエンジェルに乗り込んできた時、懐かしそうに辺りを見渡していた。
- 彼もかつてこの艦に乗り込んでともに戦争を終わらせる戦いへと身を投じた。
- その時のことを思い出したのだ。
- そしてミリアリアに気が付くと以前と変わらぬ明るい表情でお久と声をかける。
- アークエンジェルでまた顔を合わせることになるとは思わなかったが、ミリアリアもかつて共に戦争を止めるために戦った記憶が甦る。
- 声をかけられたミリアリアは溜息をついて、不機嫌そうな顔でディアッカに挨拶をする。
- ミリアリアに睨まれて少し引きつった笑顔を浮かべるディアッカだが、相変わらずだなと、元気そうなミリアリアを見てどこかホッとしていた。
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- ディアッカやマリューが打ち合わせを行っているブリッジの後ろでは、ミリアリアが少し不機嫌そうな表情で、彼らの打ち合わせを遠巻きに眺めている。
- 彼女はアークエンジェルの正式クルーでないためだ。
- そんなミリアリアは顔を合わせた時には以前と変わらぬ明るい表情でお久とか言っていたくせに、と心の中で文句を言っている。
- だがマリュー達と話をしているディアッカは以前とは別人にも見える。
- 真剣な表情で部下であるザフト兵に指示を送る姿は、彼の成長を表している。
- 横目でちらちらディアッカの方を見ながら、彼を気にしている自分の感情に戸惑う。
- アークエンジェルで共に戦った時は確かに気になる存在だったが、ディアッカがプラントに戻った時点で縁は切れたとミリアリア自身思っていた。
- そんなミリアリアの心境など知らぬまま話し合いは進み、今後の対応が決まると、ディアッカはそれじゃよろしくと言ってヴェルトールへ戻ろうとする。
- そしてミリアリアの脇を通り抜ける時、この戦いが終わったらもう一度じっくり話をしようぜ、と耳元で囁きそのまま振り返らずにブリッジを後にする。
- ミリアリアは何なのよあいつはと、顔を赤くしながらディアッカが出て行った扉を睨みつける。
- その様子をマリュー達は苦笑しながら見守っていた。
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PHASE-35 「夢の形」
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- 臨時に開催されたプラント最高評議会。
- だがいつもの評議会室ではない。
- 別の会議室で今回は行われている。
- というのは、オーブ代表首長のカガリ、アークエンジェルの主要クルーも同席の上で開催されることになったからである。
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- 戦闘終了後、プラントに入港したアークエンジェルはバルトフェルド達の出迎えを受けた。
- 久方振りの再会にクルー達は懐かしさに顔を綻ばせるが、バルトフェルドは笑顔で出迎えた後、すぐに真面目な表情でどこまで彼らの事を知っていると尋ねる。
- 少し面食らったような顔で質問の意味を考えたマリューはやがて何も、と答える。
- しかし、ただと続けて、彼らが何者であろうとも私達はキラ君や貴方達に手を貸すためにここにいます、と意志の込もった瞳で微笑み言葉を紡ぐ。
- バルトフェルドはマリューの言葉と気迫に少し驚いて、それから思っていた通りの返事ににやりと笑みを零すと、ラクスとキラから話がしたいと、評議会への参加要請があることを伝える。
- マリューとムウはまた驚いた表情で目配せをするが互いに頷いて、要請を受ける返事をした。
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- そういった経緯があり、ここにはリディア達最高評議会のメンバー、国防委員長代理のイザーク、彼らをサポートするバルトフェルド、ディアッカ、オーブ代表首長でありキラの双子の兄弟であるカガリ、アークエンジェルクルーからマリュー、ムウ、アスラン、シン、ルナマリア、メイリン、ミリアリア、ノイマンが座っている。
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- しばらくするとキラがまだ頭や手首などに包帯を巻いた痛々しい姿で、ラクスに支えられながら会議室に入ってくる。
- キラの格好に眉をひそめる一同だが、その後の2人の仲睦まじい様子にホッとするやら呆れるやらだ。
- そんな周囲の雰囲気に気が付いた2人は顔を赤くして互いから視線を逸らす。
- それから気を取り直すようにキラは咳払いを一つすると、覚悟を決めた表情で立ち上がり、自らの過去を話し始める。
- 自分が人工子宮から産まれた唯一の成功体であること、"FOKA'S"はその実験で失敗作とされた人達のことで、そのためキラを憎んでいること、そして人工子宮実験の概要と失敗の内容、"FOKA'S"が結成された経緯について説明する。
- それらを一通り話し終わるとキラは小さく溜息をついて、一同を見渡す。
- キラの話が終わっても、誰も言葉を発することができない。
- 想像以上の話に昔話か神話でも聞かされたような感覚さえある。
- 端的には話を聞いていたムウでさえ戸惑いを隠せない。
- 誰もが人類の夢がそんな形であることを信じたくなかった。
- その重圧と苦しみを一人で背負うことになったキラを思うと、切なさも込み上げてくる。
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- その戸惑いの沈黙を破り、ラクスがキラの言葉を引き継ぐように一つの案を提示する。
- "FOKA'S"にこれ以上暴挙を起こさせないためにも、こちらからも手を打つために"FOKA'S"の基地の調査を行うと。
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- 「その調査にアークエンジェルにもご協力頂きたいのです」
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- ラクスはマリューを見つめてそう告げる。
- ラクスの問いかけにカガリとマリューは二つ返事で快諾する。
- そんなマリューにラクスはにっこり笑ってありがとうございますと頭を下げる。
- それから今度は評議会メンバーの方を向いて、プラントの問題について話をする。
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- 「私達も今一度体制を立て直さなくてはありません」
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- とりわけセイの裏切りによって空席となった国防委員長の人選、APS対応MSのザフト軍の配備は急務だ。
- それをどうすればいいか、隣の者と小声で意見を交わすメンバーに対してラクスは既に国防委員長の人選は済んでおりますと告げる。
- そしてイザークを見据えて、国防委員長への就任を要請する。
- これには周囲ばかりか本人も驚愕の表情を浮かべている。
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- 「代理として国防委員会をまとめていただいたジュール隊長なら大丈夫ですわ」
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- ラクスはこれまで国防委員長代理として仕事をしたイザークの能力を評価し、リディアら評議会のメンバーも賛同する。
- まだ戸惑うイザークだがしばらく考えた後、立ち上がって敬礼をする。
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- 「ラクス様とプラントのために全力で任務を果たします」
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- ディアッカはそんなイザークを茶化すように口笛を吹くが、今度は自分が名前を呼ばれたことに慌てて姿勢を正す。
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- 「ディアッカさんには捜索部隊の隊長に就いていただきます。エルスマン隊として現在のジュール隊の方々とバルトフェルド隊長から選抜していただいた方々を率いて、アークエンジェルと行動を共にしてください」
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- ラクスは言いながらディアッカの席に近づく。
- そしてこれを、とFAITHの徽章をディアッカに差し出しながら、FAITHへの任命を言い渡す。
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- 「私個人としてはアークエンジェルには全幅の信頼を置いています。ですが市民の方々や他のザフト兵の方々の中には残念ながらそうでな方々がいらっしゃいます。名目上はアークエンジェルの監視として行動を共にし、必要であればその場の判断で他部隊への指示もできるようにという処置です」
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- ラクスは徽章を手渡しながらそう説明する。
- 受け取ったディアッカは託されたモノの重さを感じながら、だがラクスのためにしっかりその任を果たそうと心に誓い、畏まってわかりましたとラクスとキラに敬礼した。
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- 「間もなく目的のポイントです」
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- メイリンの報告にマリューは分かりましたと応えると第二戦闘配備を発令し、艦内に緊張が走る。
- 目の前にはスペースコロニーが一基、その巨体を浮かべている。
- それがキラの報告にあった、"FOKA'S"の秘密基地の一つで今回の調査対象のポイントだ。
- "FOKA'S"は廃棄されたコロニーや小惑星内にいくつか施設を作り、そこでAPSを製造、あるいは潜んでいるということだ。
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- 緊張に息を潜めながらコロニーがモニタで確認できる程近づいた時、コロニーよりMSの熱源が出てきたのが感知される。
- 予想通り彼らはこちらに攻撃を仕掛けてきた。
- アスラン達はやるせない表情を浮かべつつ、順次カタパルトから発進していく。
- 戦いたくはないが戦わなければキラ達を助けることもできず、また"FOKA'S"を止めることもできない。
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- ヴェルトールでもディアッカがコックピットに座って発進準備を行いながら指示を出している。
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- 「話をした通り、ヴェルトールはあまり前に出るな。アークエンジェルの横につけ」
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- アークエンジェルからMSが発進したのを確認すると、部隊にMSの発進を指示する。
- そして自らもMSの発進シークエンスを起動し、発進位置へと就く。
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- 「ディアッカ=エルスマン、エボルトガイア、出るぜ」
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- 発進を叫ぶと、黄色とオレンジの装甲をしたガイアがヴェルトールから飛び出す。
- キラが行方不明になった直後からファクトリーで密かに改装されていたガイアの改良機だ。
- 元々バルトフェルド用に改装されていたが、今回の作戦行動を取るにあたりディアッカに託された。
- ディアッカは初めて乗るMSの感触を確認するようにレバーを引きながら、部下のMS部隊をアークエンジェルMS部隊の後ろに展開させる。
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- 「あれはAPS、なのか?」
- 「わからん。だがそう思っておいた方がいいだろう」
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- その先頭では、アスランがUNKNOWNのシグナルを示すカーキ色のずんぐりした形状のMSを見て呟く。
- これまでUNKNOWNのMSは"FOKA'S"メンバーが乗る特機か隊長機の様なものが確認されているが、今目の前に確認できるMSは全て同型の未確認MSだ。
- キラのデータによると"FOKA'S"は構成員の数はそれほど多くないということなので、全てにパイロットが乗っているとは考えにくい。
- ムウは同一の量産型機であることを考慮して、APSだと推測を立ててアスランに応える。
- だがその推測はプラントやアークエンジェルにとって良くない話だ。
- 量産型の新型が開発されているということは、それだけ戦力が増強されていることを示すからだ。
- アスランは渋い表情でレバーを握る手に力を入れると、MS軍に向かって加速する。
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- コロニー内、"FOKA'S"の基地ではアークエンジェルの接近をキャッチしていた。
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- 「くそっ!キラ=ヤマトはこの場所まで調べているのか?」
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- クランプは吐き捨てるように叫び、拳で机を叩きつける。
- シュウも渋い表情でアークエンジェルを映すモニタを見上げている。
- シュウとクランプはプラントでの戦闘の後、戦力の建て直しのためにこのAPS工場へとやって来た。
- そこで製造ラインの調整や別の基地への搬入作業を指示していた。
- その最中の敵襲警報だった。
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- アークエンジェルの接近に、この工場でロールアウトしたばかりのAPS用量産型MSブルを発進させる。
- だが既にインフィニットジャスティスなどにも対APS用のOSが組み込まれている。
- クランプは実戦テストだと強がって戦況を見守るものの、やはりザフト軍にとってもアークエンジェルにとっても、最早APSは有効ではないようだ。
- ザクやグフに比べて機動力と装甲を強化した分善戦はしているが、優勢なのはアークエンジェルとザフトの連合軍だ。
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- シュウはその様子をモニタを見ながらしばらく何事か考え込んでいたが、無言のまま踵を返すと部屋の扉を開ける。
- クランプがどうかしたのかと尋ねると、シュウは足を止め振り返らないまま答える。
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- 「ここは俺が出て時間稼ぎをする。お前達はその間に早くこの基地の破棄の準備をしろ」
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- それはシュウがここでの戦闘に勝ち目が無いことを悟ったことを意味する。
- そして基地を破棄するということは、運べるものは運び出し、持ち出すことができないデータや物資を全て抹消、破壊することを意味する。
- クランプは驚いた表情をするが、置かれた状況を判断できないわけではない。
- すぐにシュウの言った意味を理解して低い声で、悔しさを噛み殺してわかったと応えると、他のメンバーに撤退準備の指揮を取る。
- それを横目で確認すると再び歩き出すシュウの前にエルト=ハーロンが立ち、自分も出ると嘆願する。
- シュウは険しい表情でじっとエルトを見つめるが、いいだろうとだけ呟いてMS格納庫へと歩を進める。
- エルトは一瞬嬉しそうな表情をして、シュウの後を追うように格納庫へと向かう。
- そしてそれぞれのMSに乗り込み、システムを起動させる。
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- 「シュウ=アズマ、マリス、行くぞ」
- 「エルト=ハーロン、マーダー、発進する」
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- マリスに続いて、両肩にそれぞれマウントされた2門のキャノン砲と、背中の斬艦刀が特徴的な真紅のMS、X3-004R-"MARDER"が宇宙へ飛び出す。
- エルトにとって始めてのMS戦だ。
- MS戦のシミュレーション成績が悪かったエルトは、これまで戦闘に出る機会を与えてもらえなかった。
- だからこの戦闘は自分の力を他の"FOKA'S"メンバーに示す最後のチャンスだと考えたのだ。
- 置かれた状況を悲観していないエルトに頼もしさも覚えるシュウだが、自らが考える結末を考えるとエルトを出撃させたことに後ろ髪を引かれるような思いもある。
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- 「命を無駄にするなよ、エルト」
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- そう言い残してシュウは連合軍の真っ只中へとあっと言う間に飛び込んだ。
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- すぐに何機かゲルググを撃ち落すと、光の尾を残してアークエンジェルへと接近する。
- マリスの接近に気が付いたブリッジではマリューの攻撃命令が響き渡るが、その攻撃は軽々とかわされアークエンジェルはマリスのライフルを被弾する。
- それに気が付いたムウが援護に入るが、ライフルはマリスを捉えることができない。
- その機動力に速いと唸り声を上げ、ドラグーンでビームシールドを展開、マリスの攻撃を防ぐのがやっとだ。
- そこへイザヨイが斬艦刀を振りかぶってマリスに急接近する。
- シュウはイザヨイの接近に気が付くと残像を残して後退、アークエンジェルから離れていく。
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- 「あいつは俺が。チーフは他のMSを」
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- シンはそう言いながらマリスを追う。
- シンはマリスが先の戦闘で戦った機体であることに気が付いている。
- ただまったく互角のスピードで結局決着をつけられなかったことに、シンは強敵だと認め自分が相手をすべきMSだと認識していた。
- ムウはイザヨイの背中を見送りながら、2機の機動力を見てシンに任せる方が良いと判断する。
- それからアークエンジェルに状況の確認を怒鳴る。
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- シュウの方でもイザヨイがプラント攻略戦で戦闘したMSであることに気が付いている。
- "FOKA'S"でも抜群の機動力を誇るマリスにスピードでひけを取らなかった相手を、シュウは密かにライバル視し、強敵だと認めていた。
- せめて先の戦闘で撃ち取ることができなかったこの強敵だけでも倒そうと、シュウは覚悟を決める。
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- 「いいだろう。ここで決着を付けよう」
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- シュウはそう独りごちると、両足にマウントされたヴェスバーを放つ。
- イザヨイは備えられた特殊装甲によってその攻撃を跳ね返し、シュウは目を見開いて唸り声を上げながら紙一重で跳ね返されたビームをかわす。
- ビームが跳ね返されてはビーム兵器しか持たないマリスの射撃は封じられたも同然だ。
- 一方シンも、あれをかわした相手の驚異的な反応に目を見張る。
- これでは射撃を当てることは難しい。
- 2人はそれぞれ相手機の性能を見て、接近戦でなければ倒せないと同時に判断した。
- そして両機は互いのサーベルを振りかぶると、あっと言う間に交錯しては離れ、交錯する度に打ち合うサーベルの光の衝突が宇宙に広がった。
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