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- アスランはAPSをライフルで撃ち落しながら、次々とコロニーから発進されるAPSを確認して舌打ちする。
- あちらがコントロールしている製造工場か制御システムを押さえなければ消耗戦になり、そうなればこちらが不利だ。
- APSは疲れを知らず、また材料さえあれば半無限に数を増やすことができる。
- そう判断したアスランは内部へ潜入しようと、コロニーに向かってバーニアを吹かす。
- だがその前にマーダーが立ちはだかる。
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- 「これ以上好きにはやらせないぜ、ジャスティス!」
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- エルトは雄叫びを上げながらマーダーの肩のキャノン砲を連射し、インフィニットジャスティスに迫る。
- しかしアスランはその攻撃を何なくかわし、ビームサーベルを抜いて切りかかり、同じくサーベルで攻撃を受け止めたマーダーと鍔迫り合う。
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- 「俺はアンタを倒して、俺の実力を認めさせるんだ!」
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- エルトは怨念とも言える思いを吐き出しながら、インフィニットジャスティスを押し込む。
- 接触により伝わる通信に有人機だとわかったアスランは、マーダーを押し返しながら降伏を説く。
- だが当然のことながらエルトはアスランの言葉に聞く耳など持たず、拮抗状態からキャノン砲をインフィニットジャスティスに向ける。
- アスランはくっと唸りながら、その向け先から機体をずらすとマーダーと距離を取る。
- そしてアスランもライフルを構えてビームを撃ち合う。
- その間もAPSの攻撃は止んでおらず、アスランは焦燥に駆られる。
- そこへディアッカがAPSの1機を真っ二つに切り裂いて、交戦中のアスランを援護しようと近づく。
- だがアスランはそんなディアッカを制止する。
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- 「ここは俺が抑える。ディアッカはコロニー内部に」
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- アスランの短い叫びにディアッカはアスランが何を考えているか理解する。
- ディアッカもコロニーから次々に出てくるAPSを何とかしなければと考えていた。
- そしてわかったと応えると、部下のパイロット達に内部潜入の命令を出してコロニーに向かって加速する。
- ディアッカ達がコロニーに向かって飛び去るのを見てエルトはそれを追おうとするが、今度はアスランがそんなエルトを阻止する。
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- 「ディアッカ達の邪魔はさせない」
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- 強い口調でそう言って振り下ろされたサーベルはマーダーの右腕を切り落とす。
- エルトは舌打ちしてキャノン砲を放つが、アスランはマーダーを相手にすることに意識を集中させて、シールドでその攻撃を防ぐと、素早くビームブーメランを投げて左のキャノン砲を、背後から右足を切り裂く。
- さらに間髪入れずに放ったライフルが右のキャノン砲を捕らえてマーダーは攻撃手段を失い、あっと言う間に決着は着いた。
- 意気込みとは裏腹な結果に愕然とするエルトだが、元々実力差は明白だった。
- エルトの"FOKA'S"のMS戦闘シミュレーションではいつも下位。
- 当然のごとく組織内の発言力も権限も持っていない。
- 研究所で実験体として苦痛の日々を送ったが、"FOKA'S"に属してからもあまり状況は変わらず、辛いものだった。
- それでも失敗作と呼ばれることのコンプレックスを克服できないエルトはキラに対する恨みを捨てられないため、"FOKA'S"にしがみ付いていた。
- だが敗北してしまった今、"FOKA'S"はエルトを生かしてはおかないだろう。
- 己の末路を見出してしまったエルトは涙を零しながら奇声を発して機体をインフィニットジャスティスにぶつける。
- 武装を破壊したことで油断していたアスランは予想外のマーダーの行動に驚愕の表情を浮かべるが次の瞬間機体は光を放ち、激しい爆炎と共に粉々に吹き飛ぶ。
- シールドでマーダーの体当たりを受け止めていたインフィニットジャスティスだが、近距離のMSの爆発の衝撃にダメージは大きい。
- シールドは砕かれ機体のあちこちに漏電や煙が上がっているのが見える。
- アスランに大きな怪我は無いが、操縦桿を引いてみても機体がうまく動かない。
- そんなインフィニットジャスティスに迫るAPSを砲撃で落としながらルナマリアが大丈夫ですかと盾になる。
- アスランはシステムチェックをしながら、動くこともままならないことを確認すると舌打ちをしてルナマリアに答える。
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- 「俺は大丈夫だがジャスティスは電気系統をやられたようだ。すまないがアークエンジェルへ運んでくれ」
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- アスランの答えにルナマリアは了解とインフィニットジャスティスを引っ張っていく。
- ムラクモに抱えられるようにアークエンジェルに戻りながら、アスランはマーダーが自爆した辺りの空間を悲しげな瞳で見つめ、天を仰いだ。
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PHASE-36 「マリス」
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- イザヨイとマリスは光の接触をさらに範囲を広げながら起こしている。
- 能力はほぼ互角で、並みのパイロットなら2体のMSの動きをその目で捕らえることはできないだろう。
- マリスのコックピットでは、シュウが相手の力を認めた上で舌打ちをする。
- そこへクランプから通信が入る。
- テキストでデータの破棄は終了、基地を脱出するという内容だった。
- クランプは他のメンバー達と戦艦に乗り込んでコロニーの裏側にいた。
- マリスに通信を送ると迷いを振り払うように頭を振って、その場を離れた。
- さっと送られてきた通信に目を通して少し笑みを浮かべるシュウだが、次の文章に目を見開く。
- そこにはアークエンジェルMSのパイロットに関する情報が書かれていた。
- そしてこれをうまく活用できれば戦況を変える事ができると。
- シュウは半信半疑ながら鍔迫り合いになった時に接触回線を開いて人物確認をする。
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- 「君がシン=アスカか?」
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- シンは急に相手に名前を呼ばれたことに機体の動きを止める。
- シュウも動きを止め、相手がシンだと確証を得るとニヤリと口元を歪めてさらにに問いかける。
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- 「キラ=ヤマトに大事なものを奪われた君が、何故キラ=ヤマトに力を貸す?」
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- シュウの言葉にシンは再び戸惑う。
- オーブでイツキに言われた言葉に即答できなかった自分自身への苦しみが甦り、何とも不快な感情が湧き上がってくる。
- シンは相手の言うことに惑わされるなと引きつった表情で頭を振る。
- だがシュウは畳み掛けるようにシンに"FOKA'S"の仲間になるように誘う。
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- 「今からでも遅くない、君はこちらに来る資格を持っている。共にキラ=ヤマトに恨みを晴らして、我々の手に望む未来を掴もうではないか」
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- シンに迷いを感じたシュウは、シンを仲間に引き入れることが可能だと思い、また仲間にできればこの戦況を覆せることができるかも知れないと考えた。
- シンは元ザフトのエースにして、キラのフリーダムを唯一落とした男として"FOKA'S"内でもその評価は高い。
- だがシンは長い沈黙の後、ハッキリとNOの意志を示す。
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- 「確かに俺は戦争に家族を奪われたけど、それが奪う側に回ってもいい理由にはならない」
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- 確かにオーブが地球軍の言い分を聞き入れなかったから、キラの乗るフリーダムが戦闘をしたから家族がそれに巻き込まれたということはあるかもしれないが、それが何もキラのせいばかりでないことも、オーブのせいばかりでないことも今はちゃんと理解している。
- シンはキラに言われた言葉を、キラとの約束を思い出す。
- 本当に大切なものを守るために、自分ができることをすることを。
- 今の自分が望みすべき事は未来を守ること。
- 過去は過去として受け止めながら前へ、未来へ進まなければならない。
- それはキラを撃つことで得られる未来ではないことを、既にシンは知っている。
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- 「俺は何度でも、この手で花を植え続ける」
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- シュウが未来を掴むと言ったことで、シンは今何故戦っているのかを思い出した。
- 誰かが咲いた花を吹き飛ばすなら、その大地にまた花を植えることが俺達の本当の戦いだと、そのために力を使わなければならないのなら、今こそこの力を使う時だとシンの中の迷いが確信に変わる。
- シンが望む未来はシュウが差し出した手を取ることではない。
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- 「アンタの言う未来じゃ花が咲くことはできない。だから俺はここでアンタを討つ!」
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- シンは全ての迷いを振り切り斬艦刀の切っ先をマリスに向かって構えると、体の中で何かが弾けるような音が聞こえ、頭がクリアになる感覚が久しぶりにする。
- 昔怒りに任せて戦闘をしていた頃と同じ感覚だ。
- 唯一つ違うのは、今のシンの感情にあるのは怒りや憎しみではないということ。
- 目の前にはハッキリと何と戦い、何を撃つべきか見えている。
- シュウはそんなシンの返答に苦笑すると、ならば俺も君を討つと一変声を荒げてイザヨイに向かって突っ込む。
- 先ほどよりもさらに動きが良くなったイザヨイに戸惑いながら、2機は再び交錯してはサーベルを打ち合って離れてを繰り返す。
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- 「君にできそこないと呼ばれた者達の気持ちがわかるか!」
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- サーベルを打ち合いながらシュウはシンに向かって叫び、幼少の研究所での記憶を辿る。
- 検査と称しては様々な器具による痛みを伴う実験、死産となりゴミ屑の様に捨てられていく兄弟達。
- その叫びはシュウの心が泣いているようにも聞こえ、シンの胸にも痛みが湧き上がる。
- だがそれが他人の幸せを奪ってもいい理由にはならない。
- それでプラントを撃っても、キラさんを撃ってもいい理由にはならない、とシンは叫び返す。
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- 「そんなことをしても戻ってくるものは何もない。結局は自分が虚しくなるだけだってことが何でわからないんだ!それじゃ過去に縛られたままで、未来なんて掴めるわけないだろう!」
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- デュランダルの言葉に踊らされて戦士として戦っていた時、シンは未来を築くためと言いながら結局家族への想いに囚われたまま未来を見ていなかった。
- 今のシュウはその時の自分と同じに見える。
- このままでは世界だけではない、シュウ自身も破滅へと突き進んでしまう。
- キラが彼らを救いたいと言っていた理由がようやくわかった。
- 彼らもまた運命に翻弄された哀れな者達で、キラにとっては同じ痛みを持つ兄弟なのだと。
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- シュウはシンの叫びに動きを止める。
- キラにこの怒りと憎しみをぶつけるが全ての"FOKA'S"において、シュウは僅かに迷いを感じていた。
- もしキラを殺すことができたとして、その後自分がどうなるのか考えた時、それはとても虚しいことのような気がしていたが、仲間達は唯それを生き甲斐にここまで来たことを思うとそれは言い出せず、自分も雑念として忘れようとしていたことだ。
- その思いがシンの言葉に甦り、シュウの胸に突き刺さる。
- 一瞬シュウはMSの操縦を忘れて、マリスはその動きを止める。
- 動きが止まったマリスにシンはチャンスを見て、一気に距離を詰めると振りかぶった斬艦刀を一気に振り下ろす。
- 次の瞬間マリスの左肩から右脇にかけて閃光が走り、機体は2つに分かれる。
- コックピットは辛うじて直撃をさけたが、電気系統に異常をきたし、また黒煙が中に充満してくる。
- シュウはイザヨイに切り裂かれた瞬間死を覚悟した。
- だが体に痛みを感じてまだ生きていることを実感すると、呆然と自分の過ちを再認識する。
- そしてマーダーのシグナルが消えていることも確認し、エルトの出撃を許可したことを今更後悔する。
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- 「君の言うとおりだな。過去に縛られていては何にも進まないし、何かを奪うことで過去が戻るわけでもないものな」
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- 気付いていながら気付かない振りをしていた罰が当たったな、とシュウは自嘲気味に表情で本音を漏らす。
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- 「仲間も失い、俺はまた要らぬ罪を重ねた、か」
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- 乾いた笑い声を時々上げながら、シュウは虚ろな表情で懺悔する様に弱々しい声で言葉を重ねる。
- シュウの呟きにシンはイザヨイの攻撃の構えを解いて、痛ましい表情で尋ねる。
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- 「何でアンタみたいな人が」
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- シンにはシュウが"FOKA'S"のメンバーだということが、今更ながら信じられない。
- シュウの言葉には仲間を思う感情や、本当は後悔していることなどが感じ取れる。
- オーブで接触した別の"FOKA'S"のメンバー、イツキからは想像もつかない人物だと思った。
- シンの疑問に苦笑を浮かべながら、シュウは答える。
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- 「ふ、兄弟を、同じ苦しみを持つ者達の嘆きを見て、簡単に彼らを断ち切れるほど、浅い付き合いでもないんでね」
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- シュウにとっては"FOKA'S"のメンバーは同じ人工子宮から産まれ、同じ苦しみを持つ兄弟だ。
- そんな彼らの苦しむ姿を、嘆きを傍で見てきて、彼らの気持ちが痛いほど分かるシュウだからこそ彼らと袂を分かつことができなかった。
- そう言いながらボロボロのマリスを移動させる。
- その様子に驚くシンは思わずシュウを止めようと声を掛ける。
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- 「なっ、どこへ」
- 「決まっている。俺も過去を清算する」
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- 未来のためにな、とシンの問いかけにシュウは悲しげな笑いを浮かべて、戦闘の光の中をすり抜けてコロニーへと向かう。
- 悲しげな声とそう見える、だが思いの強いマリスの背中にシンは呆然とその場に立ち尽くし、後を追うことができなかった。
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*
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- APSの攻撃を潜り抜けてコロニーに取り付いたディアッカ達はMSを降りて司令室を目指す。
- 銃を構えて慎重に進むが、中は静かで誰もいない。
- ディアッカは首を傾げながらも奥へと進み、司令室へと辿り着く。
- だがここももぬけの空で部屋の明かりもついておらず、端末を操作してみても大したデータは得られない。
- そこへシュウからの通信が入る。
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- 「この基地は破棄された。もうここには何にも残っていないさ」
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- "FOKA'S"メンバーからの通信に驚く一同だが、その言葉には納得する。
- おそらくこの施設を調べても何もでてこないことは、ここに来るまで誰にも会わなかったことから予想された出来事だ。
- ディアッカはここで何をしようとしていたかを尋ねる。
- しかしその問いかけにシュウは答えず、ディアッカ達に脱出を促す。
- 最後はせめて一人で、誰も巻き込まずに最期を迎えたいと思っていた。
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- 「早く脱出しろ、俺は間もなくここで自爆する。Nジャマーキャンセラー搭載機だ。ぐずぐずしてると君達も跡形も無く吹き飛ぶぞ」
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- シュウの言葉にディアッカは驚愕の表情を浮かべ、部下に直ぐに撤退の命令を下し、ザフト兵達はすぐさま司令室を後にする。
- だがディアッカは動こうとはせず、シュウに別の疑問を投げかける。
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- 「あんた等の本当の目的は何だ?キラを殺すことだけじゃないよな」
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- ディアッカは"FOKA'S"の動きに疑問を感じていた。
- キラを殺すだけならもっと簡単に、もっと早くその機会はあり、また実行できたはずだった。
- それをせず、これ程回りくどい方法でキラやプラント、オーブへ攻撃を仕掛けたということは他にも何か目的があるのではないかとディアッカは推測していた。
- "FOKA'S"のデータが得られない今、少なくともそれだけは聞いておきたかった、通信の相手なら答えてくれると思ったから。
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- 「俺達を作った世界への復讐、それが俺達の最終目標だ。この世界を全て終わらせること、人類をリセットすることだ」
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- 二度と俺達のような者が産まれないためにな、とシュウは少し怒りを滲ませて答える。
- 驚きの内容だが、一方でディアッカは頭の片隅では納得する。
- ディアッカも先のシンと同様に、キラが彼らに拘る理由と、"FOKA'S"の心の傷に触れた気がした。
- その重さに思わず固まってしまう。
- それが人類がよりよい未来を夢見た結果なら、自分達にもその罪があるような気がしたから。
- そんな未だ動こうとしないディアッカに早く行け、とシュウは少しだけ声を荒げてディアッカに脱出を催促する。
- ハッと気が付いたディアッカはまだ何かを言いたそうに通信機を掴むが言葉が思いつかず、渋い表情で通信機を放り投げると踵を返し脱出を急ぐ。
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- シュウは全てのMSがコロニーから離れたのを確認すると、シートに背中を預けて天を仰ぎ見る。
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- セイ、俺達の行く道は多分、自らの破滅しか残されていないぞ。
- そういえばテツはどうなったかな。
- あいつだけはキラ=ヤマトへの復讐に執着がなかったな。
- ひょっとしたらあいつが"FOKA'S"の新しい未来を導けるかも知れないな。
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- そう自分達を導いてきた仲間と、唯一人自分と同じ疑念を抱いていた仲間に思いを馳せながら、シュウは穏やかな表情でマリスの自爆スイッチを押す。
- 眩い光に包まれながらシュウは不思議な開放感に穏やかな笑みを浮かべた。
- その直後大破したマリスから溢れ出た光はコロニーを覆い、光が収まった時にはそこにはまるで何も無かったかのように静かな星空が広がっていた。
- シン、ディアッカはその何もない宇宙空間を切ない瞳で長いこと見つめていた。
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