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- L4コロニー群はかつてプラント最大の研究施設として利用されていたが、10年ほど前に起こったバイオハザード事件のために現在は全てのコロニーが廃棄コロニーとなり人は住んでいない。
- そんな廃棄コロニーの中の一つに"FOKA'S"の秘密基地がある。
- アークエンジェルとの戦闘を避けて戻ってきたクランプはそのコロニーへと戦艦を入港させる。
- 物資の補給等に基地内は一時湧き上がるが、クランプからシュウの死を知らされ一様にショックを受ける。
- さすがにセイ、カイトも沈痛な面持ちでシュウの死を惜しむ。
- いつも客観的に組織のことを見て冷静な判断をしていたシュウ。
- その人材を失ったのは、正直組織にとっても痛手だ。
- 何より彼らの怒りを増幅させるのは、シュウを死に至らしめたのはキラではなくアークエンジェルとそのクルーだということ。
- 既にアークエンジェルのクルーやMSのパイロットはアスランやシンであることは周知の事実だ。
- 彼らはキラのためにその人生を狂わされたり、大切なものを奪われたりした、言わば同胞だという認識が"FOKA'S"にはある。
- 独りよがりな思い込みなのだが、"FOKA'S"にとっては重大な裏切り行為なのだ。
- "FOKA'S"メンバーは怒りを露にする。
- カイトにいたっては地球に居た時から散々邪魔をされていたという気持ちが強いだけに、苛立ちを隠せない。
- 何故最初に脅威を感じていながら止めを刺さなかったのか、今更自分の行動を後悔し、声を荒げてアークエンジェルめと足元にあった荷物の小箱を蹴りつける。
- 感情が読めないのはフリンくらいのものだ。
- その様子を横目で見ながらセイはどうしたものかと考える。
- クランプが必要な物資を運んできたとは言え、まだ全ての準備は整っていない。
- キラもそうだが、アークエンジェルにもこれ以上色々と探られるのは都合が悪い。
- またこれ以上貴重な人員を失うことは作戦の遂行を難しくする。
- 何とか彼らを牽制する方法はないかとセイは頭をフル回転させる。
- それから何かに気が付いたような表情で顔を上げたセイは、唐突にメンバーに告げる。
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- 「オーブを攻めるぞ」
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- その言葉に一同は目を見開き、当然のことながら反対意見が噴出する。
- それがセイの求心力の低下を象徴しているのだが、本人は気が付いていないのか反論を大して気に止めた様子もなく自らの考えを説明する。
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- 「正確にはカリダ=ヤマトの抹殺を試みようというのだ」
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- その言葉に反対意見はピタリと止んだ。
- カリダはキラを引き取り育てた、彼らにとっては悪魔の母とも言える女性だ。
- そしてラクスと共にプラントから出てこないキラを誘き出すには、最も相応しい人物でもある。
- "FOKA'S"最大のターゲットのキラではあるが、ハッキング等で必要以上に情報を手に入れているキラをこれ以上生かしていてはさらにその先の作戦に影響が出るかも知れない。
- お楽しみは取っておきたいところではあるが先にキラを抹殺すべき、というのがセイの意見だ。
- またオーブを攻める事でアークエンジェルへの牽制もできるだろうと説く。
- その理に適った内容について、さすがに反対を唱える者はいない。
- そして誰もがキラ同様カリダにも強い憎しみの感情を持っているため、その感情は大きく賛成に傾いた。
- セイはそれを確認すると大きく頷く。
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- 「地球に残っているブルアーを呼び出せ」
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- そう指示を出しながらセイは悪魔のような笑みを浮かべて、モニタに映る地球を見つめた。
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PHASE-37 「狙われた母親」
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- オーブ近海の小さな島々。
- この中の一つの海岸で子供達が元気にはしゃぐ声がこだまする。
- そんな子供達を目を細めて優しく見守る視線が一つ。
- その視線の持ち主はキラの母、カリダだ。
- いつものようにカリダはマルキオ邸で共に暮らす子供達にせがまれてこの浜辺に遊びにきていた。
- それは先の戦争が終わってから繰り返されてきた平和な一時だ。
- かつてのようにキラとラクスは居ない。
- また今シン達も再び戦場へと赴いたことには心配を隠せないが、子供達の笑顔を見るとカリダもホッと、心が穏やかな気持ちになれた。
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- そこへその平和を打ち消すように、子供達の遊ぶ海岸から程近い海上にいくつもの軍艦が滑るようにやってきて整然と並ぶ。
- それはオーブ艦隊で数十の空母が並び、周辺は一気に物々しい雰囲気へと変わる。
- その様子に子供達は不安げな表情で遊ぶのを止め、カリダに寄り添いしがみつく。
- カリダも子供達の頭を撫でながら、心配そうにその光景を見つめる。
- それからさらに時が経つと今度はその艦隊の向こう側からMSが接近してくるのが見える。
- それは"FOKA'S"のAPSバビ部隊だ。
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- 「オーブ軍の展開が早いな」
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- ブルアーはバビの後方で潜水母艦から既に防衛線を張っているオーブ軍を見て呟く。
- だがAPSにとってオーブ軍など敵ではないと高をくくるブルアーは、その状況を面白そうに笑うだけだ。
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- 地球での潜伏活動を命じられてから地球軍の動向を探る仕事を続けていたブルアーだが、カイトが宇宙に上がってからというもの、一向に本隊からの連絡がなく自分だけが地球に取り残された、そんな状態にいい加減腐ってしまいそうだった。
- そこへ突然カリダ=ヤマトの抹殺命令が下されたのだ。
- この命令を受けたブルアーは嬉々としてその指示に従った。
- 前々から自身を軽んじられていると感じていたブルアーはここで戦果を上げて、"FOKA'S"での立場を確かなものにしようという目論みがあったからだ。
- そんな算段を頭の中に描きながら、ブルアーは舌なめずりをするように、目の前に立ちはだかったオーブ軍を見つめていた。
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- APSとオーブ軍の睨み合いの状態がしばらく続くが、ブルアーが攻撃目標をオーブ軍に入力して、攻撃指示をAPSに送る。
- 攻撃指示を送信されたバビはそのモノアイを怪しく光らせると、素早くライフルを構えて砲撃を放つ。
- その攻撃にムラサメは機体を貫かれ爆炎と共に海へと落下する。
- また一部のムラクモが辛うじてかわしたビームは海に着弾し、大きな爆発音と共に巨大な水柱を聳え立たせ、その波が空母を激しく揺らす。
- それを合図にオーブ軍も反撃を開始し、激しい戦闘が繰り広げられる。
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- その少し前、オーブ行政府に突然"FOKA'S"を名乗るブルアーから通信が入っていた。
- 内容はカリダ=ヤマトを引き渡せというものだった。
- カガリが不在のため各首長達の議論は紛糾するがそんな首長たちを余所に、キサカは毅然とした態度でその要求を拒否する。
- 国を救うためとはいえ、どうして国民の一人を簡単に生贄として差し出すことができよう。
- ましてその人物は代表首長の姉弟にしてオーブにとっても重要な人物、この世界に平和をもたらそうと奔走している人物のその育ての親なのだ。
- その答えに通信が一方的に切れたのを見てキサカはすぐにオーブ軍に指示を出し、マルキオ邸の所在する島の沖に防衛部隊を派遣した。
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- キサカは何としても"FOKA'S"の進軍を防ごうと、自らも旗艦に乗り込み大声で指示を飛ばす。
- その最中突然空母の1隻が水柱を上げて沈没する。
- 海中にはAPSゾノ3機が自在に泳ぎ回っており、その攻撃に晒された空母が撃沈したのだ。
- そのゾノに向かってムラサメが攻撃を試みるが易々とかわされ、逆に海中からのミサイルの反撃にムラサメが火を噴いて海中へと沈んでいく。
- オーブ軍MSにはAPS対応OSは導入されていないため、APSの機動力についていくことができない。
- 5倍以上の戦力で防衛線を張るオーブ軍だが、戦線に踏みとどまる事で精一杯だ。
- このままではやがて防衛線を突破される。
- その戦況にキサカは歯噛みする。
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- そこへ横から突然艦隊の主砲攻撃が迸る。
- その砲撃はオーブ軍に損害を与えず、数機のAPSを破壊する。
- オーブ軍の面々が驚いて振り返れば、そこには地球軍の艦艇が海上を滑るように近づいてくる。
- そしてその母艦からオーブ軍に対して通信が送られる。
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- 「こちらは地球軍第1空母艦隊、ジェフ=ラインバック准将だ」
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- それはビクトリア基地司令官のジェフだ。
- 地球軍でもオーブに進軍する部隊がありとの情報を得ていた。
- 進軍するのはビクトリアを強襲した部隊と同じコードを発信しており、地球軍でも彼らを捕らえることが戦争回避に不可欠だという結論は出されている。
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- 「貴官らが対峙している相手は地球軍も手配中の武装集団である」
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- ジェフは一瞬言うべきかどうか迷ったが、一呼吸置いてその思いを吐き出すように言葉を紡いだ。
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- 「アークエンジェルには借りがある、私はその借りを返すためにここにきた」
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- 義理堅いジェフは先の戦闘でのアークエンジェルの援護に心の底では感謝の念を湛えていた。
- そのアークエンジェルが宇宙へと上がっていることを知っているジェフは、借りを返すにはこの機会を置いて他にないと、ビクトリア基地の防衛軍をオーブへと向かわせたのだ。
- 独断で、自らも指揮官として旗艦に搭乗して。
- キサカら軍司令部もオーブ艦隊の一同もその通信に驚きを隠せないが、口元に笑みを浮かべたキサカはジェフに援護感謝すると答えた後、オーブ軍に激を飛ばす。
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- 「何故地球軍がここに!?」
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- 一方のブルアーも、突然の地球軍の登場に驚きを隠せない。
- "FOKA'S"の持つ情報ではオーブと地球軍は敵対関係にこそないが、友好関係は結んでいないはずだ。
- ビクトリアでの戦闘のやりとりを知らないブルアーには地球軍がオーブ軍を援護する理由がわからない。
- だが状況が先ほどとは変わったことだけは理解できた。
- 疲れを知らないAPSといえど弾切れやエネルギー切れがないわけではない。
- オーブ軍よりもさらに巨大な戦力で迫る地球軍との圧倒的な物量の差に、ブルアーは舌打ちをしながら自らのMSの元へと走りコックピットへと乗り込む。
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- 「ブルアー=パスクチ、ヒポコリシ、出るぞ」
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- さらに残っていたAPSバビ、ゾノも出撃させ、宇宙へ戻るためにも失敗が許されないブルアーは総力で攻撃を仕掛ける。
- そしてオーブ軍、地球軍の連合艦隊による必死の防衛戦が始まった。
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*
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- 「何だって!?」
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- キラは顔面蒼白で椅子を音を立てて倒すほどの勢いで机に手をついて立ち上がり、驚きの声を上げる。
- 同じ席を囲んでいたラクス、カガリも驚きを隠せない。
- キラ達は傷の静養も兼ねてほとんどの仕事は自宅で行っている。
そんなキラ達の元に、"FOKA'S"がオーブへ進撃したという情報が入ったのだ。
- しかもその目標がオーブ本国ではなくその周辺諸島、マルキオ邸のある辺りだというのだ。
- キラには心当たりがある。
- "FOKA'S"のターゲットデータの中には母であるカリダの名前があったことを思い出し、狙われているのはカリダだと悟る。
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- 今オーブ軍にとって最大の戦力であるアークエンジェルは宇宙にいて、"FOKA'S"の基地を捜索中だ。
- 位置的にアプリリウスよりもさらに地球からは遠い所で、簡単には援護に戻れない。
- カガリはオーブはどうなっていると心配そうに、情報を伝えたダコスタに確認している。
- ラクスも憂いを帯びた表情でキラとカガリの様子を見て、イザークに地球に駐屯しているザフト軍の状況の報告を求めている。
- だが今この状況ではストライクフリーダムで地球に向かうのが一番早いだろうと、キラの頭の中では計算されていた。
- キラは少し悩んだ後、ラクスに真剣な表情で自らの決意を捲し立てるように告げる。
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- 「僕は地球に行く、母さん達を助けてくる」
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- ラクスは目を見開いてそんなキラに反対する。
- キラの傷はまだ静養中とはいえ、傷そのものはほとんど完治しているためMSの操縦にはなんら支障はない。
- 今はちょっとしたリハビリ期間といった感じなのだ。
- だがラクスはキラが再び傷つくことはできれば無い様に祈っていた。
- キラがMSに乗って出れば"FOKA'S"はまたキラを執拗に狙うだろう。
- APSに対抗する力を手に入れたとはいえ、戦場に出れば再びキラが傷を負う危険が付きまとう。
- それよりも再びMSに乗って出てしまうと、またどこかへ行ったきり戻ってこないのではという不安がラクスの胸に圧し掛かる。
- カガリもキラの決意に待ったをかける。
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- 「この状況でオーブを、それも小母さんを狙って攻撃を仕掛けるのはキラを誘き出す作戦かも知れない」
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- それはキラも思ったことだ。
- 自分を誘き出す作戦だとすれば当然罠をしかけて待ち構えているだろう。
- いかにAPS対応OSを設定したMSでも、その罠の真っ只中に飛び込んでは危険は避けられない。
- ラクスはやはりキラを行かせることは私にはできません、と思い留まるように嘆願する。
- だがキラは穏やかな笑みを浮かべて、頑として譲ろうとしない。
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- 「でもこのままここで黙って見ていることはできないよ。アークエンジェルは今"FOKA'S"の調査を宇宙でしている、僕達の頼みを聞いてくれたから。だったら今度は僕達がアークエンジェルの、オーブの人達の助けにならないと。何より母さんをこのまま見殺しになんて、僕にはできない」
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- キラの言葉にラクスは言葉を詰まらせる。
- ラクスとてカリダを助けたくないわけではなく、アークエンジェルやオーブ、カガリの助けになることはできればしたいと思っている。
- しかしキラを危険な場所へ送り出すことには、感情がすんなりついていかないのだ。
- キラは押し黙ったラクスの態度を同意ととってダコスタにストライクフリーダムの出撃準備を依頼すると、返事を待たずに踵を返してサンルームを後にしようとする。
- そこへバルトフェルドが現れ、キラを押し留める。
- それをキラは振り払おうとするが、バルトフェルドは意味深な笑顔でキラに告げる。
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- 「まあまあ慌てるな。地球へ行くんならお前に渡すものがある。まずはそれを受け取ってからにしてくれ」
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- バルトフェルドはそう言うと、案内するから付いてこいとキラを促す。
- キラは何だろうという表情をしてバルトフェルドの後をついていく。
- ラクスにはバルトフェルドがキラに何を渡そうとしているか検討がついていた。
- そしてここまできてはもう後には引けないことを悟り、少し目を伏せてからキラからワンテンポ遅れて、カガリと共についていく。
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- 「これは・・・」
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- しばらく車に乗って走った後、極秘の格納庫に案内されたキラは驚いた表情でそれを見上げる。
- その視線の先にあるのは彼の愛機、ストライクフリーダムだ。
- 否、わずかにその形状が異なり、武装も強化されているのがわかる。
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- 「お前の新しい剣、シャイニングフリーダムだ」
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- バルトフェルドが機体に見とれて呆けるキラに、にやりと口元に笑みを浮かべて説明する。
- これはキラと共にストライクフリーダムが行方不明になった時、ラクスがファクトリーに建造を依頼した新しい機体だ。
- 尤も最初はキラをこの機体に乗せることを想定していなかったため、Nジャマーキャンセラーではなく新しく研究が進んでいるネオデュートリオンエネルギーで起動するように作っていた。
- だが思っていた起動時間を確保できずどうすべきか思案していたところに大破したストライクフリーダムが帰還し、そのエネルギーを流用、ストライクフリーダムのパーツ交換による大幅改造という形で作られたのだ。
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- 「ストライクフリーダムの反応が遅いと言っていただろ。その辺は特に性能向上している」
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- バルトフェルドが得意気に機体性能の説明をする。
- 確かにキラはストライクフリーダムの修理を依頼する際に、戦闘中に感じた違和感、反応の遅さについて話をしていた。
- つまりはそれを改善する反応速度の短縮を施してある機体だということだ。
- バルトフェルドの説明を一通り聞いたキラはパイロットスーツに身を包み、コックピットの前で切ない表情のラクスの手を取り、その気持ちを少しでも和らげようと穏やかな笑みを向ける。
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- 「大丈夫だよ、僕はもう無茶はしないし、新しい力と君の想いが守ってくれるよ」
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- それからキラは一度優しくラクスを抱きしめると、肩に手は置いたままその体を少し離して互いに見詰め合って力強く宣言する。
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- 「僕達はもう一人じゃない。大切な家族がいるから、傍にいて守るべきものがあるから、僕は何があっても必ず戻ってくる。僕もラクスも、そして母さんも一緒に、家族みんなで幸せに暮らすんだ」
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- ラクスは薄っすら目に涙を浮かべ、口を真一文字に引き締めて力強く頷く。
- キラが必ず帰ることを約束してくれた事に、今ならそれをお互いに信じられるから。
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- 「どうか、カリダさんと一緒にお早いお帰りを」
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- ラクスはキラの想いに精一杯気丈に応える。
- キラはそんなラクスに微笑んで頬に口づけを一つ落とすと、踵を返してコックピットに滑り込む。
- そして素早くOSの調整操作を行い、シャイニングフリーダムを起動させる。
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- 「キラ=ヤマト、フリーダム、行きます」
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- 未だ心配そうにエアロックの向こうで見送るラクス、そんなラクスの肩を叩きながら行ってこいとばかりに頷くカガリ。
- その様子をモニタで見ながらキラは必ず約束を守ると自らに誓う。
- それからフットペダルをゆっくりと踏み込み、新しい力の躍動を感じながらキラはレバーを力強く引く。
- そしてシャイニングフリーダムはその黄金の翼を広げてプラントを飛び出すと、地球へ向けてあっと言う間に宇宙の彼方に消えていった。
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