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- 人類が最初に宇宙に進出した時に作られたコロニー。
- 地球に最も近い位置にあるそれらはL1と呼ばれるポイントにいくつか点在している。
- だが今はここには誰も居ない。
- さらに宇宙開発、進出が進むと人はより良いものを、より良い環境を求めて新たなコロニーを開発し、それが完成するとやがて全ての人がそちらに移り住んだ。
- 当時人類の最先端とされたもてはやされたそのコロニーは、今や人が住むこともできないほど朽ち、むしろ宇宙の航路を妨げる巨大なゴミとしてその処分に頭を悩ませるばかりのものとなっていた。
- まさに使い捨て時代の人類が払った代償と言えよう。
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- その中央に直径がコロニーの半分ほどの大きさの小惑星があり、それが乗り物の如く少しずつ移動を始める。
- 移動要塞<ラーケプラダ>。
- この小惑星こそが"FOKA'S"の最後にして最大の拠点で、"FOKA'S"は要塞ごと攻撃を仕掛ける算段だ。
- そして用意したAPS、戦艦を出撃させると、セイら主要メンバーもそれぞれの機体を発進させる。
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- 「セイ=ミヤマ、ファウスト、出るぞ」
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- 最後にセイが基地から飛び出すと一気に部隊の最前線に立ち、静かにこちらに向かってくるザフトとアークエンジェルの連合軍を待ち構える。
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- 一方のザフト軍とアークエンジェルも通信電波を逆探知した結果セイの居場所を特定、L1コロニー群へと向かう。
- その道すがらシャイニングフリーダムのコックピットの中でキラは眉を顰めてじっと目を瞑り、複雑な心境で静かに時を待つ。
- 望まぬ戦いの場に到着するのを。
- やがて"FOKA'S"の一団をレーダに捉えたという報告を受けると、決意の篭った表情を上げる。
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- 「キラ=ヤマト、フリーダム、行きます」
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- エターナルからシャイニングフリーダムが出撃したのを機に、アークエンジェル始め、他のザフト艦からもMSが次々に出撃し、シャイニングフリーダムを先頭に、インフィニットジャスティスらアークエンジェル所属のMSがすぐ脇を固め、ザフト軍がその後方に部隊を展開する。
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- 2つの部隊は互いに相手を目視できる距離まで近づくとその動きを止める。
- 長いような短いような緊迫した睨み合いの末、キラが最後の望みに縋るように通信を送る。
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- 「こんなことをしても、貴方達が救われる要素は何一つ無い。それがわからないんですか」
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- だがセイは聞く耳を持とうとしない。
- 今の彼にあるのは盲信的なまでに、キラや自分を産んだ世界に対する復讐心に染まっている。
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- 「力を持つ貴様には、力を持たぬ我々の気持ちなど分かりはしない」
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- そう吐き捨てるとセイはファウストのライフルを構えてビームを発射する。
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- セイは知らない、知ろうともしない。
- キラが人工子宮から産まれた唯一にして最高のコーディネータである限り。
- 失敗作と罵られた自分の運命が、キラを倒すことで書き換えられると、ありえない夢物語を信じて。
- キラは説得が聞き入れられなかったことに胸を痛めるが、冷静にシャイニングフリーダムを動かしてその攻撃を避ける。
- キラにも負けられない、譲れない思いがある。
- 愛するものを守るため、彼らに間違っていることを気付かせるために。
- そして2機が戦闘を始めたのを皮切りに、両軍は雄たけびを上げて互いの陣営に向かって突撃した。
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PHASE-42 「激突」
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- 深遠の闇が広がる宇宙空間で、両軍が激しくぶつかる。
- まるで光の花が咲いたようにビームの閃光や機体の爆発で、宇宙が鮮やかに明かりに照らされる。
- その幻想的な光景とは裏腹に、光りの半分はザフト兵の命を奪ったもので、それはその場に居る者にとって禍々しくこそあれ心を照らすことはない。
- その光を背に、セイは真っ直ぐキラのシャイニングフリーダムに飛び掛る。
- ファウストは両手にビームサーベルを握り、2つを巧みに操り交互に振るうことで休む間を与えず切りかかる。
- 防戦一方のキラに尚も追い討ちをかけるように、背中からドラグーンを放つ。
- キラは呻き声を上げながら機体を後退させると、サーベルの届かない距離から一瞬の隙を突いてドラグーンシステムを起動し、防御膜を作る。
- 間一髪作り出したビームの膜が攻撃を防ぎ、キラは思わずホッと息を吐く。
- だが攻撃が止んだわけではない。
- すぐに気持ちを切り替えると、ドラグーンに意識を集中してファウストの周囲を取り囲む。
- セイもドラグーンを散らばらせると、キラの操るドラグーンに向かわせる。
- 互いのドラグーンはまるで意志を持ち、対峙するそれを己のライバルと認めたかのように、相手のドラグーン目掛けてビームを撃っては位置を変え、囲んだ空間を外界と切り離すように2機の周囲を目まぐるしく飛び回り光が交錯する。
- その中央でシャイニングフリーダムとファウストはビームサーベルを振るって交錯しては離れる。
- 怨念とも呼べる執念を漲らせて肉薄するセイの攻撃をキラは受け流しながら、迷いを振り払う様にキラも気合を発して操縦桿を引き絞る。
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- そんなキラとセイの戦闘を横目で見ながら、クランプはアカツキの姿を探す。
- 先のプラント防衛線で味あわされた屈辱を晴らすことが、今のクランプの頭の中を占めている。
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- 「見つけたぞ、金色の奴!」
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- アカツキの姿を見つけると喜びと憎しみを同時に込めて吠えながら、クランプはスローターのドラグーンを起動させると一斉にアカツキに向けて飛ばす。
- ムウはAPSブルを1機、ライフルで撃ち落したところで、そんな自分を狙う気配に気付く。
- そして間一髪機体を捻り、四方から放たれたビームをかわす。
- それを見たクランプは一瞬目を見開いた後、憤怒の表情を浮かべる。
- クランプにはナチュラルであるムウがドラグーンを操れることが許せなかった。
- それも自分より遥かに自在に。
- 自分が失敗作ではないことを証明することがクランプの生き甲斐で全てであり、故に彼にとってはアカツキに自らの力を示すことが何よりも重要だった。
- それなのに満を持して放った攻撃がかわされたことに、クランプはますますムキになって執拗にアカツキを狙う。
- 迫るスローターにムウも神経を集中させてドラグーンを放ち、自分を狙うドラグーンに向けて反撃する。
- クランプも相手のドラグーンを撃ち落そうと意識は自然とそちらのコントロールに集中していく。
- だがまだ完全にドラグーンを扱いきれていないクランプは、集中するあまり機体が無防備になっていることすらも頭の隅から追いやっていた。
- その隙を見逃すムウではない。
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- 「ドラグーンのコントロールに必死になりすぎだ!」
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- ムウはまるでいつも生徒に指摘する教官のような台詞を吐きながら、手本を見せるような落ち着いた操作でライフルを放つ。
- クランプは発射された光が目に入り、そこで初めて機体が無防備になっていることに気が付く。
- 唸り声を上げて必死に回避行動を取り、辛うじてコックピットへの直撃は避けた。
- だがビームに右足は貫かれ、無残にも機体から切り離され、炎を上げて塵となる。
- しばしクランプは唖然としながら信じられないものを見るようにアカツキを見つめるが、再び憤怒の色をその表情に浮かべる。
- 機体のパワーは間違いなくスローターの方が上だ。
- そこを活かせば勝機はいくらでもある。
- だがクランプはドラグーンシステムによる勝利に拘りすぎている。
- ドラグーンのコントロールに関しては明らかにムウに分がある。
- これでは戦況はアカツキに有利に働くばかりだ。
- それでもクランプは怒りに顔を真っ赤にしながら、尚もドラグーンをアカツキに向けて放つ。
- ムウは同じ戦法で挑む目の前の敵を哀れに思いつつも、その思いを受け止めるように再び黄金のドラグーンを放った。
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- フリンはAPS群の中をMA形態で飛び回るムラクモを見つけると、それまで焦点の合っていなかった瞳を見開いて、迫ったゲルググを屠りながら狙いを定める。
- ルナマリアも後方からロックされたことを知らせる電子音にハッとして、機体を錐揉状に急旋回させて砲撃を回避する。
- 攻撃された方角をモニタに映せば、ルナマリアも見知った機体がライフルの銃口をこちらに向けながら迫ってくる。
- 何とか振り切ろうと螺旋を描きながら加速するが、アヴホレンスは後ろからピタリとついて攻撃を仕掛けてくる。
- 執拗なまでの追撃にルナマリアは舌打ちする。
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- 「しつこいわね、あんたは!」
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- 叫ぶとアヴホレンスに向けてレールガンを放って牽制し、その僅かに隙に素早く機体をMS形態に変形させて向き直る。
- フリンは制動をかけて機体の体勢を立て直すと、血走った目を見開き獣のような咆哮を上げて、左腕にマウントされたアンカーを発射する。
- その動作の方が僅かに早かった。
- ルナマリアはかわしきれずに胸部をかすめてコックピットが衝撃に揺れるが、咄嗟に機体の腕を伸ばしてワイヤーを掴む。
- フリンはその動きを目を細めて認めると唸る。
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- 「お前は私が殺す」
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- 低く冷たい声が、接触回線を通してルナマリアの耳にも届く。
- その声の冷たさに、ルナマリアはさすがに背筋にゾクッとするものを感じる。
- だがそれで後れをとるルナマリアではない。
- すかさずビームサーベルを抜くとワイヤーを切断する。
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- 「そう簡単にやられるもんですか!」
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- ビームサーベルを振りかぶり迫るムラクモに呼応するように、アヴホレンスもビームサーベルを振りかぶり、2機は互いのそれをぶつけて弾かれるように後ろに飛ぶ。
- だがすぐに接近するとすれ違うように機体は交錯し、接触したビームの残光が飛び散ったかと思うと再び交錯する。
- ルナマリアも次第にアヴホレンスの相手以外が目に入らなくなっていた。
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- そうして戦いが激化し、敵味方入り乱れ、戦艦管制官の仕事が目も回る程忙しくなった頃、要塞の裏側から飛び出した新しい熱源がシャイニングフリーダムのレーダに捕捉される。
- 明らかにMSのバーニアのそれに、まだ戦力を隠し持っていたのかとキラはほぞを噛む。
- "FOKA'S"は全ての戦力を投入したと思っていたキラにはとんだ計算違いだ。
- 一進一退の情勢だけに、50を越えるAPSの増援は彼らを窮地に立たせる。
- だがAPS部隊はこちらには背を向けたままどんどん遠ざかっていく。
- キラはセイの攻撃を受け止めながらそのAPSの動きを不信に思い、言いようのない不安が膨れ上がった。
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- 「バルトフェルドさん、マリューさん、あの部隊の映像を映せませんか」
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- 瞬間キラは鋭く叫ぶ。
- 言われてマリューらも遠ざかるAPSの一団に気付き、CICに解析の指示を飛ばす。
- メイリンはキーボードを素早く叩いて、光学映像のアップを正面モニタに映し出す。
- それを見たマリューは恐怖に顔を引き攣らせた。
- そこに映っていたのはミサイルポットを背負ったMSで、あってはならない印がついている。
- それはセイ達が月基地から強奪した核ミサイルだ。
- それを詰め込んだ専用ミサイルポットをAPSブルの肩にマウントしているのだ。
- 送られた映像を見てバルトフェルドも驚きの声を上げる。
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- 「核ミサイルだと!?やつらどこに向かっている!」
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- 慌てて予測コースを割り出したダコスタは青ざめた表情で声を上ずらせる。
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- 「このコースは、プラントです。プラントに向かっています!」
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- その声はパイロット達にも届き、一様に驚愕の表情を浮かべる。
- モニタには大きく迂回してプラントに迫る矢印がクッキリと映し出されている。
- キラの頭を真っ先にかすめたのは、切ない笑顔で自分を送り出してくれた愛しい存在だ。
- それが動揺を生み、キラが一瞬動きを止めた隙に、セイは突然攻撃を止め機体の踵を返す。
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- 「言ったはずだ、俺達はこの世界を認めない、とな」
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- セイは悪魔のような笑みを浮かべると、核ミサイル部隊の後を追うように戦闘宙域から離れていく。
- 気が付いたキラもセイを追おうとするが、APSブルに阻まれてそれは叶わない。
- APSブルを迎撃している間に、セイは光の点にしか見えなくなる。
- キラは歯噛みしながらハイエナの様に群れて襲い掛かるブルを必死に薙ぎ払う。
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- 「ここは俺達に任せてお前は行くんだ!」
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- そこにアスランがシャイニングフリーダムを取り囲んでいたAPSブルを撃ち落して近づき叫ぶ。
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- ザフト軍も戦力の大半はこの戦闘に注ぎ込んでいる。
- 残った防衛部隊では核ミサイル攻撃にファウストを加えた戦力相手にそう長くは持ちこたえられないし、一発でも核ミサイルがプラントに落ちればそれこそ何十万もの命が失われる。
- だが"FOKA'S"も主力はここにある。
- キラとセイの戦力を天秤にかけた上で、どちらも状況を切り抜けられると判断、また必要だとアスランは計算した。
- アスランの考えはキラにはすぐに理解できた。
- キラはモニタの向こうで頷くと、エターナルへ振り返る。
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- 「バルトフェルドさん、ミーティアを」
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- 二人の通信を聞いていたバルトフェルドは、キラに言われてその目的がわかるとすぐに心得たとミーティアをエターナルからパージする。
- キラが素早くキーボードを叩いてミーティアを装着したシャイニングフリーダムは、セイの後を追って加速する。
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- ゲルググを数機撃ち落したカイトが、そのシャイニングフリーダムの動きに気が付くき、やらせまいと銃口を向ける。
- だが攻撃を放った瞬間にインフィニットジャスティスが割って入り、ナイトメアの射撃をシールドで受け止める。
- 一瞬驚いた表情を浮かべるカイトだが、すぐにその表情には怒りが満ちる。
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- 「ビクトリアといい、プラントといい、貴様はいつもいつも邪魔だな、アスラン=ザラ!」
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- 苛立ちを隠そうともせず、カイトはライフルを乱射しながら狙いをインフィニットジャスティスに絞る。
- これまでに蓄積された憤懣が一気に爆発し、カイトの目にはそれ以外の相手は映らなくなる。
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- 「今度こそ決着を着けてやる」
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- カイトは獲物を狙うハンターの如く目をギラつかせて、インフィニットジャスティスへ切りかかる。
- アスランも、カイトほど凶暴なものでなくとも思いは同じだった。
- 不利な状況とは言え、地球でカイトを取り逃がしたことにずっと責任を感じていた。
- それをここで取り返さなければと考える。
- だが同時に先の戦闘で自分を道連れにしようと自爆したMSの光景が甦り、そうなる前に彼らを止めたいとも思う。
- 複雑な思いを抱えたままだが、アスランは意識を弾けさせるとナイトメアの攻撃をビームサーベルで受け止め、2機は激しく鍔迫り合う。
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- その戦闘の遥か下ではザフト軍とAPSが激しい戦闘を繰り広げている。
- そこに巨大な光の柱が突然聳え立ち、一瞬にして光に飲み込まれた多数のザフト兵の命がAPSごと宇宙へと散る。
- メガバズーカランチャーのビームが襲ったのだ。
- その光景を見たシンは歯噛みして、迫るAPSブルを切捨てながらメガバズーカランチャーの放たれた方角を睨む。
- レーダーでは混戦状態のため正確に発射された位置を特定できないが、モニタで目視もできないことから部隊のかなり後方から放たれたことだけはわかる。
- ヒルダ達も遠距離からの破壊力の高い射撃に敏感に危険を感じ取る。
- ほとんどのザフト軍はその存在にすら気が付いていない。
- 早く何とかしなければ、このまま誰に攻撃されたかもわからないまま敗退してしまう。
- とは言え、後から後から湧いて出てくるように向かってくるAPSにさすがの彼女達も動けない。
- そこに白銀の機体を煌かせて流れ星の如く、APSブルを切り裂きながら翔け回るイザヨイの姿が目に入る。
- それを見たヒルダの頭に一つの策が浮かぶ。
- あんな坊やに頼ることになろうとはね、と毒づきながら口元には笑みを浮かべてシンに通信を送る。
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- 「坊や、あたしらがここは引き受ける。坊やはあれを発射する奴を抑えな。できるだろう」
- 「坊やじゃありません、シンです!」
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- 坊やと呼ばれ挑発的に言われたことに侮られたとシンは一瞬むっとするが、第2射が放たれ再び多くのザフト軍のMSが大破したことに言い争っている場合ではないと反論をぐっと抑え、ヒルダの提案を了承する。
- そして3機のドムの攻撃にできたAPS群の穴をすり抜け、光が放たれた方角へバーニアを吹かす。
- それを追いかけようとしたAPSブルを、ドムの放ったビームが貫きその追撃を許さない。
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- 「お前達の相手はあたし達だよ!」
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- シンが目指す先にはメルが相変わらず激しい憎悪を込めた暗い表情で淡々と次の発射準備を進めている。
- そのさらに後方からラーケブラダが少しずつ地球へと移動していることに、気付く者はまだなかった。
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