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- ラーケプラダが崩壊した後、アークエンジェルを加えた"FOKA'S"の本隊と戦っていたザフト軍は、簡単な応急処置と補給を済ませると一路プラントを目指した。
- 先行したキラとプラントの防衛部隊を援護するためだ。
- だがその最中に一部のザフト兵が突然反乱を起こした。
- ケルビナの宣言と同時に、デュランダル派とも呼べるザフト兵達の元にはそれを知らせる通信が届き、予定通りに行動したのだ。
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- だが彼らも"FOKA'S"の地球殲滅作戦がことごとく失敗に終わることは予想だにしていなかった。
- そのため、この失敗に心変わりした者も多くいた。
- 元々"FOKA'S"とザフト軍の混戦の中で宣言を受け取り、その混乱に乗じて両軍を制圧、地球にもラーケプラダが落下、甚大な被害を被る予定だったのだ。
- しかしその構想が完全に崩れた今、奇襲攻撃には違いないがアークエンジェルを加えた磐石のザフト軍を相手にするリスク、攻撃しても当初の目的の半分も果たせないことなどから、ケルビナの呼び掛けに応じない者が多数出たのだ。
- 反乱を起こした者もこの事態に戸惑いを隠せず、勢いのない攻撃しかできなかった。
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- ザフト軍とアークエンジェルは全く統制の取れていない、しかも数が少ない反乱軍を抑えるのにはそう時間はかからなかった。
- しかしそれらを鎮圧しながらバルトフェルドは苦い思いで言葉を零す。
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- 「これじゃあプラントもどうなってるかわからんぞ」
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- この反乱は全く予期していないことだった。
- しかも未だ彼らには事情や背景が見えてこない。
- そして反乱を起こすザフト兵はプラントの防衛部隊の中にも紛れ込んでいるかもしれないことが今一番危惧されることだ。
- そこでも反乱が起こっていれば、プラントの状況がどうなっているか今のところわからないが、いくらキラが向かったとはいえ状況は芳しくないはずだ。
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- 「エターナルとアークエンジェルは先にプラントへ。後の始末はこっちでやる」
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- ディアッカが未だ僅かに抵抗を見せる反乱軍を相手にしながら、エターナルに通信を送る。
- バルトフェルドだけではなく、ディアッカもまた同じ事を危惧していた。
- だからこそディアッカは最大戦力であり、この中で最も速く移動できる2艦にプラントへ向かうように言う。
- 帰るべき場所を守ることこそが彼らの本分なのだ。
- 地球だとかプラントだとか関係ない。
- 皆がそれぞれ帰る場所を守らなければ、彼らの戦いに終わりは無い。
- そのためには今はプラントを全力で守らなくてはならない。
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- ディアッカの通信を受けてアスランも決断する。
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- 「バルトフェルド隊長、ミーティアを。ジャスティスは先行してプラントへ行きます」
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- アスランの提案に、モニタ越しにバルトフェルドと目配せしてマリューも頷く。
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- 「悪いけどお願い。ムウとシン君、ルナマリアさんに帰艦信号を。アークエンジェルはプラントへ急行する」
- 「エターナルも出るぞ。ヒルダ達を呼び戻せ」
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- 帰艦命令を受けて、ムウ達は素早く艦へと戻る。
- すでにアスランは先行して発進している。
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- 「プラントの状況って、そんなにやばいんですか」
- 「わからん。だからそれを想定して俺達は援護に向かうんだ」
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- シンは戻ってくるなり焦った様子でムウに尋ねるが、ムウも状況はわかっていない。
- 内心はシンと同じように焦燥に駆られている。
- もしプラントでも奇襲攻撃を受けていたら、自分達が間に合わなかったら。
- そんな不安がプレッシャーとなり、彼らを飲み込む。
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- 「でも絶対にプラントを守らなきゃ」
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- ルナマリアがその不安に押し潰されそうになりながら、毅然とした表情で零す。
- それはムウもシンも、アークエンジェルクルーも全て同じ思いだ。
- 地球はザフトの働きがあってこそ、守られたのだから。
- ムウとシンはルナマリアに呼応して、力強く頷いた。
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PHASE-48 「最後の戦い」
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- テンパシーの周辺にまとわりつくAPSブルを屠りながら、ようやくキラは取り付くことができた。
- 振り返ればデブリ群はもうすぐそこまで迫っている。
- 細かな破片は季節がずれの雨の様に、シャイニングフリーダムに降り注ぎ、甲高い音を立てている。
- 一方のテンパシーはラクスらの操作により、デブリ群とプラントの間にその佇まいを移し、プラントの盾となる準備はできた。
- 港口からも次々と脱出艇が飛び出し、後はラクスを連れて脱出するだけだ。
- キラは急いで近くの港口に飛び込むと、コックピットから飛び出して司令室を目指す。
- 気持ちは急いているのだが、慣性に従ってゆっくりとしか進むことができない無重力空間がとてももどかしく感じられた。
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- 司令室では宇宙服に身を包んだラクスとイザークが必死にキーボードを操作していた。
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- 「これでプラントへのコースに入ることができました。後はデブリ群にぶつけるだけです」
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- イザークがシミュレータの画像をチェックして報告する。
- これでテンパシーはプラントの盾を務めることができる。
- 後は自分達が生き残るだけだ。
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- 「わかりました。では急いで脱出しましょう」
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- 確認したラクスもコードが変更されないように入力のロックをかけて立ち上がり、イザークを促して出口を目指す。
- だが小さなデブリは既にテンパシーへとぶつかり始めている。
- その衝撃に司令室は揺れ、ラクスとイザークはバランスを崩して床に伏せる。
- 同時に天井を支えていた鉄骨が衝撃で崩れ、真っ直ぐラクスとイザークのいる方へ落ちてくる。
- イザークは持ち前の運動能力ですぐに起き上がってその場所を離れたが、ラクスはそうはいかなかった。
- 落ちてくる鉄骨を呆然と見つめる。
- 何も考えられず、そのままラクスが鉄骨の下敷きになろうかというまさにその時、一つの影がラクスをさらった。
- そして誰かに抱えられたまま宙を漂う。
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- 間一髪ラクスは鉄骨の下敷きになることを免れた。
- そのラクスを包み込むように抱えているのはキラだ。
- 司令室に辿り着いたキラの目には、ラクスと彼女目掛けて落ちてくる鉄骨が飛び込んできた。
- キラは咄嗟に自らの危険も顧みず、ラクスを助けるべく飛び込んだのだ。
- キラに助けられたことに、ラクスも自然と笑みを浮かべる。
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- 「ラクス、大丈夫」
- 「はい、私は大丈夫ですわ。ありがとうございます」
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- 2人は宙を漂いながら抱きしめ合い、互いの無事を喜び合う。
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- 「おい、早く脱出するぞ」
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- イザークはこの危機的状況においても、それを全く感じさせない雰囲気を醸し出す2人に内心呆れながら叫ぶ。
- その声に気が付いたキラは慌ててラクスをしっかり抱えると、背中の壁を蹴ってイザークの横へ立つ。
- そして揺れが激しくなる廊下を急いで駆け抜け、キラはラクスを抱えたままコックピットに飛び込み、膝の上に乗せてテンパシーの外へと飛び出す。
- イザークもシャイニングフリーダムの隣にあるゲルググに乗り込み、港口が押し潰される前に脱出する。
- その直後からデブリ群は次々にテンパシーへとぶつかり、お互いに砕けながらプラントのある方向とは別の方向へ破片が散らばっていく。
- テンパシーは崩壊していくが、ともかくプラントへの被害は防ぐことはできた。
- キラはその光景を安堵と痛ましい思いが入り混じった複雑な表情で見つめながら、降り注ぐ破片を巧みに避けてテンパシーから離れ、とりあえずデブリの雨からは逃れる。
- しかしホッとしたのも束の間、付近で戦闘はまだ続いており、APSブルが襲ってくる。
- それらを撃ち落しながら、キラは安全にラクスを降ろせる場所を探す。
- ラクスを乗せたまま戦闘を続けるわけにはいかない。
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- そこにバルトフェルドからの通信が届く。
- エターナル、アークエンジェルもようやく到着したのだ。
- そして"FOKA'S"の本体は全滅したこと、地球への小惑星の落下は阻止されたことなどを聞かされる。
- キラとラクスは驚きと安堵の表情を交互に浮かべながら報告を受け、バルトフェルド達にプラントの状況を知らせる。
- バルトフェルド達もキラから状況に驚きと安堵の入り混じった表情を見せるが、すぐにMS部隊を援護に向かわせる。
- エターナル、アークエンジェルの登場に総崩れだった防衛部隊は持ち直し、アカツキ、イザヨイ、ムラクモ、そしてドムの活躍で戦況は一気に逆転した。
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- その様子を見つめながら、キラは決意を固めると穏やかな笑みを湛えてラクスに語りかける。
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- 「僕は決着をつけてくるから、ラクスはエターナルで待ってて」
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- 自分達は再び提唱されたデスティニープランを阻止しなければならない。
- 前は覚悟はあると言いながら、結局自分の手では終わらせることはできなかった。
- 終わらせたのはその提案者を最も慕った、運命に翻弄された悲しい少年だった。
- その彼ももういない。
- 今度こそ自分の手で終わらさなければらないだろう。
- そのことにキラは悲壮感すら漂わせてそう告げた。
- しかしラクスは操縦桿を傾けようとしたキラの手に自らのを添えて首を振る。
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- 「私も共に参りますわ」
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- キラは心底驚き目を見開く。
- ラクスが突飛な言動をすることがあることは理解しているのだが、いつまで経ってもその行動に驚かずにいられることはない。
- 当然キラは猛反対する。
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- 「何を言ってるんだ。僕はこれからMSで戦闘をしなきゃならないんだ。そこに君を連れて行くなんて」
- 「危険だ、と仰りたいのでしょう」
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- キラの言葉をラクスが引き継ぎ、キラは肩透かしを喰らったように口をパクパクさせる。
- ラクスはそれを微笑んで、仰らなくてもわかっていますわとフォローする。
-
- 「ですが私がエターナルで待っている間にもしキラの身に何かあったら、私はどうすればよいのですか」
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- 言われてキラは先ほどとは逆の立場になることを理解し、ぐっと言葉に詰まる。
- そこにたたみ掛けるようにラクスは続ける。
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- 「それにこれはもうキラ一人の問題ではありません。私達人が、一人一人考え、そして決着をつけなくてはならないことなのです。キラが一人で抱え込み、傷つく必要はないのです」
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- 意志の篭った瞳でキラを射抜く。
- 既に相手はキラ個人に私怨を抱く者から、世界を破滅へ導こうとする者に代わっている。
- それをたった一人の、愛しい人に全て背負わせて立ち向かわせることなどできない。
- それにラクスもただ黙って見ているだけではいられない。
- 選び取った未来へと人々を導く義務があるのだ。
- 彼女もまた、キラと同じく決意を固めていた。
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- その瞳に負けて、キラは頷く。
- 結局のところ、キラがラクスに敵うはずもないのだ。
- しかしどこか嬉しい気持ちもあるのは、不謹慎だろうかなどと考える。
- そんなキラの気持ちを悟ったようにラクスは微笑み、では参りましょうと声を掛ける。
- キラは頭を振って気持ちを切替えると、ラクスを膝の上に乗せたままモニタに映るある一点を見据え、そこを目指す。
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- そこではストライクラピドとエビルが激しい戦闘を繰り広げていた。
- テツはエビルの全身から放たれるビーム砲の間隙を縫って迫ろうとする。
- だがその攻撃間隔は短いためなかなか踏み込めず、打開策を見出せないでいた。
- そうこうしている内に、コックピットにはエネルギー切れを示す警告メッセージと音が鳴り響く。
- 舌打ちして一旦距離を取ろうと後ろへ下がるが、コルストはその隙を見て急接近すると容赦なくビームを浴びせ掛ける。
- 何とかシールドでコックピットへの直撃は防いだが、ストライクラピドの両足と右腕はビームに貫かれる。
- そのダメージについにエネルギーも底を尽き、ビームシールドは消え、機体の色がグレーへとシフトダウンする。
- 衝撃に揺れるコックピットの中で呻き声を上げながら、防ぐこともかわすこともできない状況にテツは歯噛みする。
- 自分は未来を紡がなければならないのだ、儚くも散った"FOKA'S"のメンバーの分まで。
- だが思いだけではこの状況を覆すことはできない。
- 向けられた銃口にロックされたことを示す文字を見つめながら、テツはギュッと目を瞑る。
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- しかしエビルが放ったライフルは、機体に届く前にビームの膜に弾かれる。
- シャイニングフリーダムのドラグーンが間一髪、ストライクラピドへの直撃を防いだ。
- そしてキラは展開したドラグーンを収容すると、ボロボロのストライクラピドを庇うようにエビルと対峙する。
- それからストライクラピドを肩越しに、感謝の意をこめて一瞥する。
- テツは助かったことに安堵し、同時にキラに思いを託す。
- 通信もままならないが、兄弟とも呼べる彼らの間にはその思いが何となく通じ合った気がした。
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- 「プラントの破壊は阻止した。地球にも小惑星は落下しなかった。君達の負けだ」
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- キラとラクスは強い意志を漲らせた表情でエビルを凝視する。
- 対照的にコルストは驚愕の表情でシャイニングフリーダムを見つめる。
- コルストは内心焦っていた。
- シャイニングフリーダムの介入と同時に、アークエンジェルとエターナルの識別コードを確認し、何故彼らがここにいるのか、彼らを奇襲するはずの部隊は何をやっているのかと、そんな思いが頭の中を駆け巡る。
- キラの言った事は信じ難いことだったが、彼らがここにいることが何よりそれを雄弁に語っている。
- つまり作戦は失敗したということを。
- "FOKA'S"以上に周到に準備をしてきた彼らにとって、作戦の失敗は有りえない事実で想定外の出来事だ。
- これ以上ないと思われた策を跳ね返されて、コルストの心のどこかでは敗北を認めつつはあった。
- しかし簡単には諦めるわけにはいかない。
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- 「やはりお前達はプラン遂行の為に、新しい秩序の世界にあってはならない存在だ。ならば私の後に続く者のために、やはりここで討っておかねば」
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- コルストはプランの種はデュランダルが宣言した時に既に撒かれていると信じている。
- いずれプランが成就される日は来るはずだと。
- ならばいつかは自分に続いてくれる者もいるだろう。
- そのための捨石となろうとも、今ここでキラとラクスを亡き者にする。
- デュランダルならばそう考えるだろうと、彼にはそれが唯一正しいことだと信じた。
- 世界か正しい方向に進むためには、それしか道は残されていないと。
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- 「人は望みを持つから、前へ進むことができる。だからそれを奪うデスティニープランを、僕達は受け入れられない」
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- しかしキラは真っ向からそれに反発する。
- キラもラクスも自ら望んでここにいる。
- 例え今が苦しくとも幸せになれる未来を信じて、それを自分達の手で築くために。
- それを望むことすら許されない世界では、人はいないのと同じだ。
- 確かに人は時にどうしようもないほど愚かな行為を行うこともある。
- それでもまだキラとラクスは人というものを信じている。
- いつかはその愚かさに気付き、自らの意志で争いを止めることができる日が来ることを。
-
- キラはペダルを踏み込み、シャイニングフリーダムをコルストに向かって加速させる。
- コルストは迫るシャイニングフリーダムを破壊すべく、再び全身からビーム砲を乱射する。
- しかしキラは怯まず、シャイニングフリーダムの前にドラグーンでシールドを展開し、そのままエビルに向けてさらに加速する。
- 思いを叫びながら、それをぶつけるように。
- エビルの放つビームを弾いて、シャイニングフリーダムは機体から発する眩い光に包まれながら突き進む。
-
- 「間違えるな!プランを望んだのも、君が選らんだんだ。彼でもプランでもなく、君自身の意志が!」
- 「デュランダル前議長の思いというそれも、貴方自身が考えたものでしかないのです。亡くなられた彼の思いは、残された私達が勝手に決めたものでしかないのです!」
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- キラとラクスの発する言葉に、コルストは衝撃を受ける。
- プランが正しいと信じたのは、結局それを自分が選び取ったからだということに気が付いた。
- それが迷いを生む。
- 今の自分の行動はプランが実施されたとして、果たしてそれに則ったものなのか。
- デュランダルが真に意図したことは、自分に求めたものは何なのか。
- 初めて自分の考えが根底から揺らいだ。
- その戸惑いにエビルの攻撃が停止する。
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- 無抵抗になったエビルを見て、キラに一瞬の迷いが生じる。
- 決めたはずの覚悟が僅かに揺らぎ、そんな自分を心の中で叱責しながら苦渋の表情を浮かべる。
- その表情に気が付いたラクスが、操縦桿を握るキラの手に自分の手を添える。
- 2人で一緒に乗り越えようと。
- キラは重ねられたラクスの手が自分に力をくれる気がした。
- ここまできて、もう迷ってはいられない。
- キラの表情に意志の強い表情が戻る。
- そして2人は視線を合わせて頷きあうと、操縦桿を力いっぱい押し、シャイニングフリーダムの右腕はエビルに向かって突き出される。
- それに気が付いたコルストだが、既に避ける気力は失せていた。
- そのまま魅入られたように、シャイニングフリーダムの右腕に握られたビームサーベルがエビルのコックピットを貫く。
- 同時に激しい衝撃と光が中にいたコルストを襲う。
- だが不思議と痛みはなかった。
- そして目の前の光の中に幻影が浮かぶ。
- それはデュランダルがいつも見せていた柔和な笑顔でこちらに手を差し伸べる姿だ。
- その笑顔は、コルストにはプランを達成できた満足感に溢れているような気がした。
- そこに目指したものがあるのだと、妙な安心感に引き込まれるようにコルストは笑みを浮かべて、その光の中へ飛び込もうと体を浮かせた。
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- その直後、機体から激しい光が零れて爆発し、やがて収束する。
- そこにはまるで何も無かったかのように、静かな闇が広がっている。
- その光景を見て、キラの目からは自然と涙が零れた。
- キラ自身何故だかわからないがそれでも止め処なく溢れて、ヘルメットの中をやがて一杯に満たしていく。
- ラクスはそんなキラを見て優しく微笑むと、ヘルメットをそっと脱がせる。
-
- 「戦いは終わったのです、キラ。貴方も、他の誰もがこのような思いをしなくてすむ世界を皆で作り、家族で穏やかな場所で暮らしましょう」
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- 自らのヘルメットも取ると涙を拭ってキラの首に腕を回し、赤ん坊をあやすように背中を擦って慰める。
- そこにノイズ交じりにアスランからの通信が届く。
-
- 「キラ、大丈夫か」
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- 呼び掛けながら、インフィニットジャスティスが漂う2機に近づく。
- キラ達がコルストと対峙している間に、アスランは引き受けたAPS部隊を全滅させた。
- ミーティアは失ったものの機体に大きな損傷は無く、怪我もしていない。
- プラント防衛部隊の反乱軍もアカツキやイザヨイの活躍で鎮圧され、今この宇宙には戦闘の光は無い。
- 全ての戦いは終息へと向かっている。
-
- 「皆さんが心配していますわ。さあ帰りましょう、キラ。私達が掴んだ未来のある場所へ」
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- ラクスの言葉を聞いてようやく、キラにも戦いが終わった実感が湧いてきた。
- これまで張り詰めていた緊張感から解放され、呆けていた意識に再び溢れる思いが流れ込んでくる。
- 戦いが終わったことに対する安堵の気持ちと、救えなかった命に対する贖罪の気持ちが胸を締めつけ、ラクスの声に愛しさが込み上げる。
- キラは歯を食いしばるとラクスを力一杯抱きしめ、ラクスもキラの首に回した腕に力を込め、優しい声で歌い始める。
-
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- 人はまた愚かとも呼べる戦いで
- その眩しい命を散らせ
- 大切な何かを求めていく
- それでも死に逆らいながら
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- 死は貴方を責める 冷たいものではなくて
- 神が人に与えた 最後の眠り
- 全ての罰を許されて 静かな水面へと
- 浮かび立つための道
-
- ほら輝く星が微笑んでいる
- 貴方の命の煌きを見つめていたから
- せめて安らかに その魂の眠りにつかんことを
-
-
- 人はまた浅はかとも言える争いで
- その遍(あまね)く命を落とし
- 大切な何かを守っている
- それでも死に抗いながら
-
- 死は貴方を攻める 苦しいものではなくて
- 神が人に与えた 最後の安らぎ
- 全ての罪を許されて 穏やかな草原へと
- 旅立つための儀式
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- ほら煌く星が微笑んでいる
- 貴方の命の迸りを見つめていたから
- せめて穏やかに その魂の安らがんことを
-
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- 今日もまた尊い命が失われた
- それでも人はまた歴史を紡ぐ
- 失われた人達の記憶を礎として
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- ほら閃く星が微笑んでいる
- 貴方の命の儚さを知っているから
- せめて安らかに その魂が天に召されんことを
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- 伝わる声と温もりが傷ついたキラの心をそっと包み込み、ますます涙は止まらない。
- でも今はそれでいいとキラは思った。
- だって、人は泣けるのだから。
- 悲しい時だけじゃなく、嬉しい時も。
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- テツはエビルの光が消えると、シートに体を預けて天を仰ぎそっと目を閉じる。
- 生き残ることができたことに、キラへの感謝と小さな満足感を抱いた。
- これでまだ、自分は未来を選ぶことができることに。
- そしてこれから自分が選んだ未来に背負っていくものと、亡き者達への鎮魂と誓いをその胸に立てる。
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- アスランは接触回線から聞こえるキラの泣き声に苦笑を浮かべると、そっと動けないストライクラピドとシャイニングフリーダムの脇を掴んで、ゆっくりとエターナルへと向かう。
- 今はそっとしておこうと思った。
- そう、今はただ泣けばいい。
- 戦いはようやく終わったのだから。
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- そんな戦士達を煌く星が見守る中、キラの嗚咽とラクスの歌声がいつまでもシャイニングフリーダムのコックピットに響いていた。
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