-
-
-
-
「Testing courage (アスラン&カガリペア)」
-
-
-
- 「こんなもん、本当に何でもないんだからな」
-
- カガリはあくまで強気に言いながら、ずんずんと前を歩いていく。
- その様子をアスランは笑いを堪えて見つめている。
- 誰もそれを馬鹿にしたりしないから、怖いなら怖いと素直に言えばいいのに、威勢だけは良いところが本当に彼女らしい。
- だが怖いものが苦手という可愛らしい一面を、微笑ましく思ってもいた。
-
- しかしカガリにしてみれば、アスランが笑いを堪えている様が、小馬鹿にされている気がして気に入らない。
-
- 「何だ、何か文句があるのか」
-
- カガリはいちいち声を大にして突っかかる。
- 明らかに声を大きくして気を紛らわせていることは丸分かりだが、別にないよ、とアスランはカガリを宥めて、とにもかくにも2人は順調に森の入り口付近までやって来た。
- その間もずっと突っかかっていたカガリだが、森に足を一歩踏み入れた途端、突然悲鳴を上げた。
-
- 「ひぃやあっ!」
-
- 突然冷たいぬるっとした感触が首筋にあたり、それはすぐに悪寒となって全身を駆け巡り、アスランに飛びついた。
- アスランにもそれは襲い掛かりその感触にビクッと反応はするが、どちらかというと、カガリに飛びつかれた衝撃の方がよっぽど驚いた。
- アスランはドキドキする胸を抑えながら目の前をプラプラ飛ぶそれを掴むと、カガリに落ち着けと諭す。
-
- 「落ち着け。ただのこんにゃくだ、ほら」
-
- 言いながら、釣り糸で結ばれたこんにゃくを差し出す。
- 目の前に差し出されたそれを見て、カガリは顔から火が吹いているのではないかというくらい熱を感じながら、パッと掴んでいた腕を放し慌てて弁解する。
-
- 「い、今のは油断してて、ち、ちょっと驚いただけだ。こ、怖がってなんか、い、いないからな」
-
- しかしそれは虚勢だというのは一目瞭然だった。
- はいはい、とアスランは受け流して、ほら行くぞ、と1人森の奥へと入っていく。
- カガリは慌てて追いかけてアスランの横に並び、本当に怖くなんかないんだからな、とぶつぶつ呟く。
- だがそれが虚勢だということを証明するように、森の中に入って、カガリの歩行ペースは明らかにスローダウンした。
- 一歩一歩踏みしめるように、慎重に歩を進め、ついにはアスランの服の裾を思い切り引っ張り出す始末。
- アスランはカガリにバレないように苦笑しながら、カガリを引きずるように進んだ。
-
- そんなこんなでようやく教会に辿り着く。
- だが、教会の佇まいを見てカガリは愕然とする。
- その教会というのは、扉は半分無くなりもう片方も蝶番がずれて今にも外れそうな状態だ。
- 窓もガラスは割れており、屋根や壁には穴が開き、僅かに零れる月明かりが光の柱の様に伸びている。
- いかにも、という感じのもので、カガリは思わず立ち竦んでしまう。
-
- 「ほら、入らないと先へは進めないぞ」
-
- アスランはからかい半分、カガリを促して中へ入る。
- 1人になるのが怖いカガリも渋々アスランを追いかけて入る。
- 周りを忙しなく見渡しながらアスランの服の裾をまたぎゅっと握り締めて、何とか中央にある祭壇まで進む。
- そこには貼り紙がしてあり、こう記されていた。
-
- 『1人一つずつ、同時にボールを掴むこと』
-
- 何かあるのは一目瞭然だったが、取らないことにはどうにもならないので、カガリも勇気を振り絞って、せーのとボールに手を伸ばした。
- その瞬間、ボールを置いた台座を突き破って青白い手が飛び出し、2人の手首を掴む。
-
- 「いやあぁーーーーーっ!」
-
- カガリは手首を捕まれてパニックになり、また叫ぶ。
- 足はジタバタとしているのだが、その手は捕まれたままで振り払えないほど硬直してしまっている。
- その表情も今にも泣き出しそうだ。
-
- アスランはと言うと、手首を捕まれたことには驚いたがまだ平静さは保っていた。
- ボールは離さずに落ち着いて掴んできた手を引き離すと、今度はカガリを掴んでいる手をゆっくり剥がしてやる。
- ようやく自由になったカガリは、捕まれていた手首をまだ気にしてパタパタと払う仕草を見せる。
-
- 「くそっ、何て性質の悪い仕掛けをするんだ!」
-
- 悪態を吐きながら台座を睨みつけるカガリ。
- しかしすぐに発言を後悔する。
- その直後、台座の下から青白い布でぐるぐる巻きにした人間が、雄叫びを上げて勢いよく飛び出してきた。
- カガリはまた悲鳴を上げて、くるりと回れ右をするとバタバタと教会を飛び出していく。
- アスランは舌打ちしながらカガリを追って外に飛び出し、すぐそこで木の根っこに躓いて膝と手をついている彼女に近づく。
- ボールを手放していないことに少し感心して、背中をそっと撫でてやった。
- しばらくして何とか落ち着いたカガリはアスランの襟元を掴んで引き寄せ、憤怒と恐怖が入り混じった表情で八つ当たりする。
-
- 「何なんだ、あれは!?」
- 「俺に言うなよ。とにかく落ち着け」
-
- アスランは襟から手を離させると、襟元に出来た皺をパンパンと伸ばす。
- そして短く溜息を一つ吐くと、辺りを警戒しながら、まだ怒りの収まらないカガリの手を引いてゆっくり森の間の小道を抜けていく。
- 普通であればカガリは手を握ることも、極端なくらい照れて拒否する。
- しかし今はそんな余裕も無く、ただ引かれるまま忙しなく辺りを見渡しながら、アスランと同じ歩調で森の中を進む。
-
- そうしてしばらく進むと、木々の間にようやく海岸線が見えた。
- そこがこの森の出口だ。
- ゆっくり近づいていくと、道の脇にマリューが笑顔で立っているのが確認できる。
- どうやら最後の道案内らしい。
-
- 「お疲れ様、後はここを抜ければ浜辺だから」
-
- 暗がりでよく見えないが、いつもと違って体のラインが隠れる黒いドレスのような服装をしているようだ。
- 暗闇に紛れて何をしようとしていたのかは気になる。
- しかし既に姿を晒しているので、脅かすつもりではないのだと思った。
- だから、ようやく終わったと思ったカガリは、すっかり安堵していつもの調子を取り戻した。
-
- 「ふん、あんなもの大した事ないな」
-
- 散々悲鳴を上げて喚き散らしていた姿を見てきたアスランは、また喉の奥で必死に笑いを堪える。
- よくそれだけ強がりが言えるものだと感心すらしていた。
-
- その様子を笑みを湛えて見つめながらマリューは、いつもとは異なる怪しげな笑みを浮かべる。
-
- 「あらそれは残念ね。それじゃあ、もう少し怖がってもらわないと」
-
- 言いながら不気味な笑みを零したかと思うと、いきなりマリューの首がストンと腰の辺りに構えた手の上に落ちた。
-
- 「きゃーーーーーーーーーーーっ!!」
-
- それを見たカガリは甲高い悲鳴をたっぷり上げると、回れ右をして走り出す。
- アスランもさすがに驚いて後ずさりし、考えるより先に駆け出したカガリの後を慌てて追いかける。
-
- すぐに森を抜けたカガリは砂地に足を取られ、時折転びながらもガムシャラに走り続けた。
- とにかく後ろを振り返らずに、マリューに追いつかれないことだけを考えて。
-
- 「待てよ、カガリ。少しは落ち着け」
-
- 必死に逃げるカガリの背中を呼びながら、アスランも全力で砂の上を走って追いかける。
- アスランも見た瞬間は心底驚いたが、すぐに冷静さを取り戻していた。
- まさか本当にマリューの首が落ちたわけではなく、何らかのトリックがあるはずだと自分に言い聞かせる。
- それよりも何よりも、パニックを起こしたカガリを落ち着かせなければと、カガリを大切に思う気持ちが彼を突き動かす。
- だがパニックのカガリにその声は届かず、1人どんどんと先へ行く。
- アスランは舌打ちして必死に追いかけた。
-
- そのまま走り続け、角を曲がればカリダの待つゴールというところまできたところで、アスランはようやくカガリに追いついた。
- そしてカガリの肩を掴んだその時、急に足元が宙に浮いたような感覚に襲われた。
- かと思うと、視界が砂の中に沈むように上へ移っていく。
- それを不思議に思う間に、2人は背中を激しく砂に打ちつけて突然口を開けた穴の底に落下していた。
-
- 「だ、大丈夫かっ、カガリ」
- 「ああ、しかし何だ、ここは!」
-
- 2人は背中を打った衝撃で声を詰まらせながら、のっそりと上半身を起こす。
- カガリはまだ顔は青ざめたままだが、別の衝撃を受けたことで少しは落ち着いたようだ。
- しかし自分達を取り巻く状況に、そうも落ち着いていられない。
- ここがどこで、自分達がどうなったか、2人ともよく分かっていなかった。
- そこによく知った声が響く。
-
- 「いやあ、芸術的な落下だったよ」
-
- 声のした方を見上げると、穴の上からバルトフェルドがさも楽しそうに覗き込んでいた。
- そこでようやく落とし穴に引っ掛かったのだと悟る2人。
- カガリは憤怒の表情で、砂を掴むとバルトフェルドに投げつける。
- しかしそれはバルトフェルドまで届かず、重力に従って自分達の上にパラパラと降り注ぎ、2人は砂まみれになってしまった。
- 溜息を吐くアスランと、ますます不機嫌になって押し黙るカガリ。
- その後引っ張り上げられても、カガリは一言も言葉を発しなかった。
- 背後に見える怒りのオーラに、バルトフェルドは怖い怖いと、全く怖がっている素振りは見せずに肩を竦め、ゴールへ歩いていく2人の背中を見送った。
-
- 「あら、意外と遅かったわね」
-
- ようやく戻ってきた2人に、時計を見ながらカリダは笑いを噛み殺す。
- 砂まみれの格好からして、どうやら最後まで見事にトラップに引っ掛かったらしい。
- 脅かす側としては冥利に尽きるというものだ。
-
- 「で、どうだったかしら?」
-
- ニコニコと問い掛けるカリダに対して、アスランはええまあ、と苦笑した。
- 確かにひどい目にもあったが、実際のところアスランはカガリの可愛らしい一面も見れたので、それなりに満足していた。
- しかしカガリはそうもいかない。
- 格好をつけたいわけではないが、他人の前で弱みを見せるのは彼女が最も忌み嫌うものの一つだ。
- それなのにあれだけ醜態を晒しては、到底納得のいくものではなかった。
-
- 「もう二度とやるもんかっ!!」
-
- カガリは顔を真っ赤にして絶叫した。
― シン&ルナマリアペア ― |
― ディアッカ&ミリアリアペア ― |
― ダコスタ&メイリンペア ― |
― イザーク&シホペア ― |
― キラ&ラクスペア ―
― 全ペア終了しました ―
― ショートストーリーメニューへ ―