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「Testing courage (ダコスタ&メイリンペア)」
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- 「それじゃあ、よろしくお願いします」
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- メイリンはちょこんと頭を下げた。
- つられてダコスタも、あ、はい、と頭を下げる。
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- お互いに思わぬ相手とペアになったことで少し戸惑っている。
- まあエターナルのブリッジで一緒に戦ったこともあるだけに、全くの赤の他人と組むよりは随分と気が楽だが。
- それでもこの状況で2人きりでいるのは初めてなので、何を話して良いかわからず、無言のまま進むメイリンとダコスタ。
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- 何となく気まずい空気が流れる中、メイリンが思い切って話題を切り出した。
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- 「ほんと言うと、私もそんなに得意じゃないんですよね、ホラー映画とか怖い話って」
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- 言いながらぺロッと悪戯っ子のように舌を出す。
- 釣られてダコスタは、実は自分もなんです、と言いそうになって、慌てて言葉を飲み込む。
- 彼としても一応男のプライドというか、特別格好をつけたいわけでもないが、情けない姿は見せたくないし、そんなことを言うとメイリンを不安がらせるだけなのでそこは耐えた。
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- しかしメイリンの一言で随分と固かった雰囲気が取れた2人は、談笑しながら森の入り口付近まで差し掛かった。
- すっかり肝試しだということ忘れて、会話を楽しむ2人。
- その時、メイリンの首筋にぬるっとした冷たい感触が突如襲い掛かる。
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- 「きゃあ、ちょ、ちょっと何!?」
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- メイリンはパニックを起こして、周囲をキョロキョロと見渡す。
- いきなり騒ぎ出したメイリンに驚いて、身構えたダコスタにもその感触は襲い掛かり、思わずビクッと背筋を震わせるが、反射的に掴んだそれを見てクスリと笑みを零す。
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- 「大丈夫ですよ。ただのこんにゃくです」
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- 手にしたそれを見せてメイリンを落ち着かせる。
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- 正体を知ったメイリンは胸に手を当ててホッと息を吐く。
- それから少し恥ずかしいものを見せてしまったと、少し顔を赤らめた。
- ダコスタはメイリンが落ち着いたのを見て安堵の息を吐く。
- 正直自分もかなり驚いていたが、それをメイリンに見せずに済んだことに対しても。
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- 気持ちが落ち着いたところで、2人はいよいよ、肝試しのメインとなる教会へ続く森の中へと入っていく。
- 暗がりの中でだんだんと口数も少なくなってきたが、そんなこんなで、何とか順調に教会に辿り着く。
- だが、教会の佇まいを見て、メイリンとダコスタは思わず尻込みする。
- その教会というのは、扉は半分無くなりもう片方も蝶番がずれて今にも外れそうな状態だ。
- 窓もガラスは割れており、屋根や壁には穴が開き、僅かに零れる月明かりが光の柱の様に伸びているいかにも、という感じのものだった。
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- 「入らないと、ダメなんですよね?」
- 「でないと後で何を言われるか、分かったものじゃありませんね」
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- メイリンが教会に視線を釘付けにしたまま、顔を引き攣らせて尋ねたのに対し、ダコスタも苦笑を浮かべて答えた。
- 万一この中にあるはずのボールが取って来れなかったら、また色々とからかわれるに違いない。
- それはできれば避けたいことなので、2人は意を決して教会の中へ恐る恐る入っていく。
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- 教会の中はそれほど広くなく、すぐに中央の祭壇に気がついた。
- 目配せして、慎重にゆっくりと近づく。
- 近づくまでに何か脅かすためのトラップがあるのではと警戒するダコスタとメイリンだが、とりあえずここまでは何も無い。
- そのまま祭壇の前に立つと、そこには貼り紙がしてあり、こう記されていた。
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- 『1人一つずつ、同時にボールを掴むこと』
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- 何かあるのは一目瞭然だったが、取らないことにはどうにもならないので、2人は顔を見合わせて頷くとせーのとボールに手を伸ばした。
- その瞬間、ボールを置いた台座を突き破って青白い手が飛び出し2人の手首を掴む。
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- 「わっ!」
- 「きゃあ!」
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- 悲鳴を上げて手を必死に振り払う2人。
- もちろんボールは掴み損ねてしまった。
- 言葉を無くしてしばし呆然と台座を見つめる。
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- 「も、もう一度行きましょう」
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- ダコスタが勇気を振り絞って声を掛ける。
- しかしメイリンは首を横に振って尻込みする。
- 手首を捕まれた感触が脳裏に焼き付いて離れず、もう一度手を伸ばすことには気が引けた。
- ダコスタもできれば手を伸ばしたくは無いが、手を伸ばさないことにはボールは取れない。
- 取れないということは、バルトフェルドにからかわれるということだ。
- それだけは何としても阻止したいダコスタは、渋るメイリンを説得して再びボール取りにチャレンジする。
- メイリンは渋々目をきゅっと瞑って手を伸ばし、手探りでボールを探し当てると、パシッと掴んだ。
- その感触を得ると、さっと手を引っ込める。
- 今度は手首を掴まれることは無かった。
- ホッと安堵の息を吐く2人。
- しかしそれは甘かった。
- 今度は台座の下から、青白い布でぐるぐる巻きにした人間が雄叫びを上げて勢いよく飛び出してくる。
- ダコスタもメイリンも心底驚いた表情を浮かべて悲鳴を上げると、くるりと回れ右をしてバタバタと教会を飛び出す。
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- しばらく走ったところで膝に手をついて、教会の方を振り返る。
- どうやら外までは追ってこないようだ。
- しかし油断は禁物と呼吸を整えて、周囲を警戒しながらそろそろと進んでいく。
- 歩行速度は目に見えて遅くなっていた。
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- そうして慎重に、時間を掛けて進むと、木々の間にようやく海岸線が見えた。
- そこがこの森の出口だ。
- ゆっくりそこ目掛けて近づいていくと、道の脇にマリューが笑顔で立っているのが確認できる。
- どうやら最後の道案内らしい。
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- 「お疲れ様、後はここを抜ければ浜辺だから」
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- 暗がりでよく見えないが、いつもと違って体のラインが隠れる黒いドレスのような服装をしているようだ。
- 暗闇に紛れて何をしようとしていたのかは気になる。
- しかし既に姿を晒しているので脅かすつもりではないのだと思った。
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- 「ほんと、怖かったですよ」
- 「いやあ、よく短時間であれだけ準備できましたね」
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- だからこれで終わりなのだと、気を緩める2人はそれぞれ楽しげに感想を述べる。
- しかしマリューはそれを聞きながら、いつもとは異なる怪しげな笑みを浮かべる。
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- 「それは良かったわ、じゃあもう少し楽しませてあげる」
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- 言いながら不気味な笑みを零したかと思うと、いきなりマリューの首がストンと腰の辺りに構えた手の上に落ちた。
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- 「きゃあーーー!」
- 「うわあーーー!」
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- それを見たメイリンは、大きな悲鳴を上げると腰を抜かしてその場に座り込んでしまう。
- ダコスタも悲鳴を上げて後ずさりすると、ヘタリこんでいるメイリンの脇を抱えて無理矢理立たせると、そのままメイリンを強引に引っ張って突っ走る。
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- どこをどう走ったかは覚えていないがとにかく走り続け、角を曲がればカリダの待つゴールというところまできた。
- そこまできてダコスタはようやく後ろを振り返った。
- マリューが追ってきていないか確認するために。
- しかし次の瞬間、急に足元が宙に浮いたような感覚に襲われた。
- かと思うと視界が砂の中に沈むように移っていく。
- それを不思議に思う間に、2人の視界にはどんどん砂が迫ってくる。
- そしてついに砂の中に頭から突っ込んだ。
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- しばしの静止の後、大きく息を吐き出して頭を引っこ抜くダコスタとメイリン。
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- 「だ、大丈夫ですか?」
- 「は、はい。でもここは一体?」
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- ペペッ、と口の中に入った砂を吐きながら、まだ状況がよく飲み込めていない2人。
- 四方は砂の壁に囲まれて、一体これから何が始まるのかと不安に怯えていた。
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- その時、よく知った声が頭上から降り注ぐ。
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- 「見事な落ちっぷりだったよ、ダコスタ君。君は期待を裏切らない男だよ、本当に」
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- 声のした方を見ると、穴の上からバルトフェルドがさも可笑しそうにダコスタとメイリンを見下ろしていた。
- そこでようやく落とし穴に引っ掛かったのだと悟る2人。
- ダコスタはしてやられたとガックリと肩を落として項垂れ、メイリンはひど〜いと嘆き節を呟いた。
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- 引っ張り上げらたメイリンは、砂まみれになった自分の格好を嘆きながらバルトフェルドを睨む。
- しかしバルトフェルドは口笛を吹いて知らん振りを決め込む。
- メイリンはぷうと頬を膨らませながら地団太を踏んで反論することを諦めると、とぼとぼとゴール目指して歩き出す。
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- ダコスタも下を向いてバルトフェルドと擦れ違おうとしたが、その肩をポンと叩いて意味深な笑顔をニカっと浮かべた。
- それを見たダコスタは再び深い溜息を吐くことしかできなかった。
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- 「あら、意外と遅かったわね」
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- ようやく戻ってきた2人に、時計を見ながらカリダは笑いを噛み殺す。
- 砂まみれの格好からして、どうやら最後まで見事にトラップに引っ掛かったらしい。
- 脅かす側としては冥利に尽きるというものだ。
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- 「で、どうだったかしら?」
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- ニコニコと問い掛けるカリダに対して、メイリンは今にも泣きそうな顔で訴える。
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- 「ちょっとひどいですよ。いくら何でもやりすぎなんじゃないですか」
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- 折角のお気に入りの服も、砂や埃で汚れて台無しだ。
- こんなことなら肝試しに参加するなどと言わなければ良かったと、後悔しても時既に遅し、後の祭り。
- ゴメンねと苦笑して謝るカリダに、それ以上は何も言えなかった。
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- 一方のダコスタはというと、自分は脅かされる側よりも脅かす側の方が性に合っていると痛感していた。
- だからカリダの問われてこう言った。
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- 「次からはいつもどおり、脅かす側でお願いします」
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- その発言にメイリンは一瞬驚いた表情を見せたが、直後、たいそう冷やかな視線でダコスタを睨んだとか睨んでいないとか。
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