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「Testing courage (ディアッカ&ミリアリアペア)」
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- 「何で私があんたとペアなわけ」
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- ミリアリアは怒気を含んだ、不満たらたらな様子でそう呟く。
- その内心は嬉しさ3割、他のペアを見てしょうがない気持ち5割、怒りが2割といった複雑なものだが。
- 素直でないミリアリアは僅かに勝る嬉しさを、怒りで必死に覆い隠していた。
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- 「周囲の気遣いってやつ?」
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- ディアッカは少し考え込む仕草をしてから、いつもの調子で肩を竦めて半ば冗談、半ば本気でそう答えた。
- それに対してミリアリアはわざとらしく盛大な溜息を吐く。
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- 「だいたい、皆も何か勘違いしてるのよね」
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- 言いながら、ディアッカ曰く周囲の気遣いを迷惑にもありがたくも感じていた。
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- ディアッカとの関係が白紙に戻ってもう数年になる。
- その間にお互い色々なことがあったが、こうしてまた話ができるようになったのはつい最近の出来事だ。
- だからまだまだギクシャクしたところがあるし、ミリアリア自身の気持ちの整理がついていないのだ。
- しかし当のディアッカは何も感じていないのか、今までと同じ様に話し掛けてくる。
- その無神経さが腹立たしく、また切替えの早さが羨ましくもある。
- それが彼女の不満を募らせる一因でもあり、考えれば考えるほど不満は募るばかりだ。
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- 「一番気に入らないのはあんたよ。猛烈にアタックしてきたかと思えば突然音信不通になったりするし、どこまで本気なのよ!」
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- ついに不満がピークに達したミリアリアは、その全てをぶちまけた。
- 迫力に押され気味のディアッカは、小さく降参の手を上げながら後ずさりする。
- それでもミリアリアの勢いは止まるところを知らない。
- さらに一歩詰め寄って、指先をピタッと鼻先に向ける。
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- 「いい?私とあんたはもう赤の他人で、きゃあっ!」
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- ミリアリアがそんな怒りをぶちまけている最中に、突然悲鳴を上げた。
- それから怯えたような表情で、周囲をキョロキョロと見渡す。
- 何事かとディアッカが口を開きかけたが、ディアッカも冷たいぬるっとした感触に驚いて口をつぐみ、反射的にそれを掴む。
- 正体は釣り糸に吊るされたこんにゃくだった。
- まさかこんな手で脅かそうとするなんて、そっちの方に驚いてしまう。
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- 「ずいぶんと古典的だよなあ。こんにゃくなんて」
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- それを見て、けらけらと笑うディアッカ。
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- 一方のミリアリアは、不覚にも悲鳴を上げたことに顔を赤くしながら、ふんと横を向くとずんずんと先に森の中へ入っていく。
- ディアッカもこんにゃくを放り出すと慌ててその後を追いかける。
- しかしミリアリアは追いつかせまいと速度を上げ、ディアッカも追いつこうと速度を上げ、しまいには追いかけっこのようになっていた。
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- そんなこんなで、少し肩で息をしながらも2人はかなり速いペースで教会へと辿り着いた。
- その教会というのは、扉は半分無くなりもう片方も蝶番がずれて今にも外れそうな状態だ。
- 窓もガラスは割れており、屋根や壁には穴が開き、僅かに零れる月明かりが光の柱の様に伸びている。
- いかにも、という感じのもので、思わず入ることを躊躇わせる。
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- 「どうする?入る?止めとく?」
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- ミリアリアがぼうっと佇んでいると、ディアッカが笑みを浮かべて、挑発するように尋ねてきた。
- ミリアリアはその態度にむっとした表情を浮かべると、勇ましく中に入っていく。
- ディアッカは肩を竦めてやれやれと溜息を吐き、同じく中へと入った。
- 教会の中はそれほど広くなくすぐに中央の祭壇に気がつき、2人はゆっくりと近づく。
- そこには貼り紙がしてありこう記されていた。
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- 『1人一つずつ、同時にボールを掴むこと』
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- 何かあるのは一目瞭然だったが、取らないことにはどうにもならない。
- ミリアリアには同時にというのが気に入らなかったが、ディアッカにまた怖がっていると思われるのも癪なので、目配せして頷くとせーのとボールに手を伸ばした。
- その瞬間、ボールを置いた台座を突き破って青白い手が飛び出し2人の手首を掴む。
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- 「なっ!」
- 「きゃあ!!」
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- 予想外のことに2人は驚きを隠せず、折角取ったボールごと掴んだ手を振り払う。
- しばし言葉を失う2人。
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- 先に回復したのはディアッカ。
- さすがに驚いていはいたが、まだまだ堪えた様子は無い。
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- 「おい、もう一回いくぜ」
- 「またアンタと同時なの?」
- 「しょうがねえじゃん、紙にそう書いてあるし。取らなきゃ他の奴らに怖がりって馬鹿にされちまうぜ」
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- ボールを掴むとまたあの手に手首を掴まれるということにはどうにも嫌悪感を拭えないが、ルールである以上仕方が無い。
- 負けず嫌いなところがあるミリアリアは、むっとした表情を見せるももう一度ボールを取るために身構える。
- 2人でそろそろと手をボールの上まで伸ばし、せーのボールを掴むとさっと手を引っ込める。
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- 今度は手が飛び出してくるということは無かった。
- ホッと安堵の息を吐く2人。
- しかしその考えは甘かった。
- 次の瞬間、台座の下から青白い布でぐるぐる巻きにした人間が、雄叫びを上げて勢いよく飛び出してくる。
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- ミリアリアは驚きのあまり悲鳴を上げて、思い切りディアッカに飛びついた。
- ディアッカは予想外の突然の衝撃に耐え切れず、数歩後ずさりしたかと思うと、派手な音を立てて仰向けに倒れこむ。
- 支えを失ったミリアリアも、その上に覆い被さるように倒れてしまった。
- 傍から見れば、ミリアリアがディアッカを押し倒したようにも見える。
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- しばらく腰を打った痛みに顔を歪めていたディアッカだったが、自分の置かれた状況に気付くと思わずニヤリと笑みを零す。
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- 「ひゅう〜。ミリィって積極的だなあ」
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- ディアッカはその体勢を甘受しつつ、ニヤニヤして冷やかした。
- 言われたミリアリアは、そこで自分達の状態に気が付いて、バッと勢いよく立ち上がる。
- そして顔を真っ赤にして震えると、上半身だけ起こしてまだ座り込んでいるディアッカの頬を思いっきり引っ叩いた。
- 乾いた音が教会の中に響き渡る。
- ディアッカは苦痛に顔を抑えて床の上でもがき、そんなディアッカをミリアリアはワナワナと震えながら見下ろすように一瞥をくれると、鼻息荒く教会を出て行く。
- ディアッカは顔面を押さえながら痛みを堪えて起き上がると、慌ててその後を追いかける。
- 2人はすっかり飛び出してきた者のことなど忘れていた。
- 1人ポツンと取り残された格好になった、青白い布でぐるぐる巻きにした人間は、ポリポリと頭を掻いて、その場に佇むことしかできなかった。
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- 外に飛び出したミリアリアは、完全におかんむりだった。
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- 「おい、ちょっと待てよ。いくらなんでも酷過ぎるぜ」
- 「ふん、あんたがスケベだからでしょ」
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- ディアッカは謝罪を試みるが、ミリアリアの方は取り付く島もない。
- 一切振り返らずに、早足でずんずん進んでいく。
- ディアッカは、自分から飛びついておいてそれは無いよな、と肩を落とし、まだヒリヒリする頬を擦って、ミリアリアの数歩後ろをついていく。
- そして折角仲直りのチャンスだったのに、軽率なことを言ったなと反省した。
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- 一方のミリアリアは恐怖よりも、怒りと気恥ずかしさが先に立ち、まともにディアッカの顔を見れなかった。
- 心臓は先程よりもずっとドキドキしている。
- それを必死に抑えつけながら、ディアッカへの想いを自覚せざるを得なかった。
- 自分はまだ彼に対して、想いが燻っていると。
- しかしそれを素直に表すことは、今のミリアリアには、自尊心から許されることではなかった。
- だから逃げるようにディアッカの前を、ひたすら歩いていた。
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- そんなこんなで進む2人の目の前に、木々の間から海岸線が広がった。
- そこがこの森の出口だ。
- 足早に近づいていくと、道の脇にマリューが笑顔で立っているのが確認できる。
- どうやら最後の道案内らしい。
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- 「お疲れ様、後はここを抜ければ浜辺だから」
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- 暗がりでよく見えないが、いつもと違って体のラインが隠れる黒いドレスのような服装をしているようだ。
- 暗闇に紛れて何をしようとしていたのかは気になる。
- しかし既に姿を晒しているので脅かすつもりではないのだと思った。
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- 「どうして私がこんなのと一緒だったんですか」
- 「こんなのって、俺本気でへこむぜ」
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- ここまで来ても、まだ不満が解消されていないミリアリアはマリューにもそれをぶつけ、いちいち横槍を入れるディアッカとの痴話喧嘩は続く。
- 周囲からすれば仲直りのチャンスを与えたつもりなのだが、これではまだまだ先は長そうだ。
- しかし罵りあいながらも会話を交わすようになったのは、良い傾向だった。
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- マリューはその様子を内心微笑ましく見ながらも、次の瞬間、いつもとは異なる、怪しげな笑みを浮かべる。
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- 「2人とも喧嘩はそこまで。折角なんだし、もっと楽しんでもらわないと」
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- そう言いながら不気味な笑みを零したかと思うと、いきなりマリューの首がストンと腹部に構えた手の上に落ちた。
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- 「きゃあっ!!」
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- ミリアリアは悲鳴を上げ、再びディアッカに飛びつく。
- ディアッカは今度はしっかりと受け止めると、自分も叫びそうだったのを何とか飲み込んで、ミリアリアの手を掴むと猛然と走り出す。
- 2人ともまともに思考ができる状態ではなかったが、とにかくマリューから離れようと森を抜け、砂浜を直走った。
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- それからどのくらい走ったのかは定かではないが、角を曲がればカリダの待つゴールというところまできた。
- ここまで来れば追いかけて来ていないだろうと、ディアッカはペースを落として後ろを振り返る。
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- その瞬間、体が宙に浮いたような感覚に包まれる。
- そしてそのまま重力に従って、地面の中へ吸い込まれるように落ちていく。
- 次に気が付いた時には、背中に鈍い衝撃を受けて、星空を見上げているという状況だった。
- しかもミリアリアがディアッカの上に、またも覆い被さるような格好で。
- しかし今度はディアッカに茶化す余裕も無い。
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- 「お、おい、大丈夫か」
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- 純粋にミリアリアに怪我などが無いかを心配した。
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- 「ええ、って、ちょっと、どこ触ってるのよ」
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- ディアッカは無意識にミリアリアを守ろうと、その両肩をガッシリと掴んでいた。
- それをミリアリアは金切り声を出してディアッカの手を振り払う。
- しかし今いるここはとても狭く、肩が触れ合う以上の距離には離れられない。
- それでも無理矢理距離を取ろうと、壁に押し付けるようにディアッカの胸を強く押し、足をバタバタとさせる。
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- 「わっ、ぺぺっ!押すなよ、口に砂が入る」
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- ミリアリアがジタバタとしたことで両脇の壁から、砂がさらさらと2人の上に降り注ぎ砂まみれになってしまった。
- ますます不機嫌になって押し黙るミリアリアと、盛大な溜息を吐くディアッカ。
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- その時穴の上から声が聞こえてきた。
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- 「いやあ、仲が良いね、お二人さん」
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- 声のした方を見上げると、バルトフェルドがさも楽しそうに覗き込んでいた。
- そこでようやく、落とし穴に引っ掛かったのだと悟る2人。
- しかも今のやりとりの一部始終を見られたということで、ミリアリアの顔は真っ赤に茹で上がってしまった。
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- 引っ張り上げられたミリアリアは、バルトフェルドに噛み付かんばかりの勢いで詰め寄るが、バルトフェルドは何のことだととぼけるばかりだ。
- ミリアリアは悔しさに地団駄を踏む。
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- 一方のディアッカは苦笑して、ちょっとこれはひどくない、と落とし穴を抗議するが、当のバルトフェルドは意に介した様子も無く肩を竦めるばかりだ。
- それを見たディアッカは降参したとばかりに、はいはいと小さく両手を上げるとゴールへと歩みを進める。
- 懲りずにミリアリアの肩に手を回そうとして激しく叩き落とされる様を、バルトフェルドはにやにやしながら見つめていた。
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- 「あら、随分と早かったわね」
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- カリダが少し驚いた様子で、戻っていた2人に声を掛ける。
- 予定の時間よりも早く帰ってきたのは予想外だった。
- しかしその格好から察するに、最後までトラップには引っ掛かったらしい。
- 脅かす側としては、冥利に尽きるというものだ。
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- 「で、どうだったかしら?」
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- ニコニコと問い掛けるカリダに対して、ミリアリアはぶすっとした表情で答える。
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- 「もう私は誘わないで下さい」
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- 少なくともこいつと一緒には、と付け加えて。
- それに反論したのはもちろん当のディアッカ。
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- 「えーっ!そんなつれないこと言うなよ。また一緒に行こうぜ」
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- 別れる前よりはずっと良い感じに戻ったと感じるディアッカは、この機会を逃す手は無いと一歩踏み込んだ。
- しかしそれが余計だった。
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- 「調子に乗るなーーー!」
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- ミリアリアの叫びと共に、バシっと乾いた音が辺りに響き渡った。
― シン&ルナマリアペア ― |
― アスラン&カガリペア ― |
― ダコスタ&メイリンペア ― |
― イザーク&シホペア ― |
― キラ&ラクスペア ―
― 全ペア終了しました ―
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