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介護福祉士
キラが見せたという反応に、3人は驚くと同時に、少し納得もしていた。
彼女らが知る今のキラからは想像もつかない言動に、彼はきっと相当に踏み込んで欲しく無い何かを抱えていたのだろうことは、容易に想像がつく。
それを思うと、キラの言動が分からないでもない。
だがそれでも、そんな態度を取られたラクスがあまりにも不憫に思えて、同情的な視線を送る。
彼のためにラクスが尽くした厚意が、色々と踏みにじられている気がした。
キラに対して批判的な思いが支配する。
しかしそんな視線に気付いたラクスは、ニッコリと微笑むと、事も無げに答える。
「でも、私は少し嬉しかったですわ」
予想外の答えに、3人はえっと驚きの表情を浮かべる。
普通であれば、そんな酷い言葉を浴びせられたら、辛くて悲しくて泣き出すか、怒りに愛想をつかせるかするだろう。
しかしラクスはそのどちらでもなく、嬉しかったと言った。
どこまで目の前のこの人は優しいのだろうと、感嘆するしかない。
「何でですか。そんなに酷いことを言われて、悲しくなかったんですか」
ルナマリアが堪らず声を上げる。
「全く悲しくないと言えば嘘にはなりますわ。それでも、それがキラがようやく見せてくれた感情です。それを見て、まだキラの心は動いている、生きていると確認できましたから」
問い掛けに、ラクスは切なげに微笑んで、迷わず答えた。
その答えに3人は息を飲むしかない。
逆にそんな感情すら見せなかったキラの状態の酷さが浮き彫りになる。
そのようなことを言われたら、キラへの批判的な気持ちは一気に鎮火した。
批判することの方が、酷いことのように思えた。
それにしても一体、キラの心をそんなにも苛ませるものは何なのか。
それはとても気にはなることだ。
だがそれは聞いてはいけないことのような気もして、3人はすっかり借りてきた猫のように、肩を縮めてお互いに目配せをし合う。
「それからまた数日が過ぎた頃、一つの事件が起こったのですわ・・・」
だがラクスは一つ息を吐くと、その続きを語り出す。
キラの心に影を落とす理由ではない。
キラにとっても辛い出来事だったに違いないが、ラクス自身も、最も衝撃を受けた、悲しい現実を。
STORY-04 「拒まれた再会」
あの1件以来、キラとは少しギクシャクした関係になりました。
キラは私が近づくと、ふいと顔を逸らすようになったのです。
それはキラからすれば、踏み込まれたくない心の中にまで、他人である私が踏み込んだのですから、怒るのは当然と言えば当然ですが。
そのこともありまして、私もしばらく必要以上にはキラに近づかないようにしていました。
それでも何の反応も無かった頃に比べれば、幾分は良くなったと思いました。
私自身は辛い気持ちもありましたが、そんな反応を見せるのは私にだけですので、それはキラにとって特別に意識されているのだと思い込んで気持ちを奮い立たせると、また忙しい日々を過ごしました。
そうして数日が経ったある昼下がりに、1組の少し年かさの男性と女性がマルキオ邸を尋ねて来られました。
いつものように洗濯物を庭に干して部屋に戻ろうとすると、玄関の扉の前に立っていらっしゃったのです。
お2人は不安そうな表情で玄関の前に佇み、何度かノックをしようと手を伸ばされるのですが、寸前で手を引っ込められるということを繰り返しておられました。
少し思案しましたが、初めてお顔を拝見した方でしたので、マルキオ様に御用の方だろうと思い、お声を掛けました。
するとお2人は大変驚かれて、こちらを振り向かれました。
相当にご緊張なさっていたようです。
期せずして脅かした格好になってしまったことを謝罪して、ご用件をお尋ねしました。
「こちらにキラは、キラ=ヤマトはお世話になっていますでしょうか?」
すると男性の方がそうお聞きになりました。
私はキョトンとしながらも、肯定の返事をしました。
お客様がいらっしゃること自体も珍しいのですが、マルキオ様以外を尋ねて来られるのはアスランやカガリさん、ミリアリアさんくらいでしたので、それらの方々以外でキラを尋ねて来られたいうことで、私は驚きました。
一体キラとどのようなご関係の方なのか、失礼ながら、お二人をマジマジと見つめてしまいました。
片や私の返事を聞いた男性と女性は、心から安堵したような嬉しそうな表情を浮かべて、手を取り合いました。
良かったと何度も零します。
そこでようやく、お2人がキラのご両親だと気がつきました。
それを知った私は、少し複雑な気持ちになりました。
キラがご両親と再会できることは嬉しいのですが、ご両親がここに来られたということは、キラを連れて帰られるのではないかと心配をしたからです。
それは本来であれば喜ぶべきことなのですが、ひょっとしたらキラともう会えないかも知れないという不安が、私の心を掻き乱します。
自分が独占欲の強い人間だということを自覚した瞬間でもありました。
できることなら、キラをご両親の元へは返したくないと、いけないことだとは分かっていながら、そう思ってしまいました。
ですが会わせないわけにもいきませんので、私はご両親をキラのところへ案内しました。
キラは私が傍に居る時以外は、相変わらずテラスで椅子に座り、呆然と海を眺めています。
遠目に見ると、そこには人形が座っているかのような、生気の感じられない表情で、ただじっとしていました。
ご両親はその変わり果てた姿に、ショックを受けられたようでした。
自分達の大切な子供がそのようになったのですから、当然の反応です。
お母様は手にしていた荷物を落とし、悲痛に目を見開いた表情で、キラを見つめていました。
お父様も苦渋に顔を歪ませていました。
しばらくお2人はキラの様子を遠くから見つめていらっしゃいましたが、やがて耐え切れなくなったのでしょう、お母様はキラの元に駆け寄りました。
それでも生きて再会できた喜びが最後には勝ったご様子でした。
「キラ、キラ。良かったわ、無事で」
涙を浮かべながらキラに抱きつくお母様を見て、私の視界も少し涙で滲みました。
当初の不安や醜い感情は消え、キラとご両親が再会できたのは良かったと、私も心から思いました。
戦争が終結した直後のキラは再会を拒否していましたが、これがきっとキラのためにもなるはずだと、確信に近いものも感じていました。
ようやく親子は感動の再会を果たした、そう思っていたのです。
ですが、キラは予想外の行動に出ました。
いきなりお母様を突き飛ばして、すくっと立ち上がりました。
そして怒りと苦痛に満ちた瞳で、それでいて今にも泣き出しそうな表情で、お母様を、そしてお父様を睨みました。
それは私も初めて見る、キラの表情でした。
お母様は信じられないといった表情で座り込んだまま、キラを見上げています。
私も内心で驚き、思わずキラに抗議の声を上げようとしました。
ですが私よりも早く、お父様が行動されました。
「キラ、母さんになんてことを!」
お父様は怒鳴り声を上げてお母様に駆け寄ると、肩を抱きかかえて立ち上がらせました。
お母様はまだ戸惑った表情で、キラを見つめています。
しかしキラは冷たい瞳で2人を睨んでいたかと思うと、視線を逸らして俯きました。
そして信じられない言葉を口にします。
「その人は、僕の本当の母さんじゃ、ないよね」
いくらご両親に対してでも失礼な、キラらしくない言葉でした。
私はまた思わず声を上げようとしました。
しかしご両親は怒りよりも、戸惑いの方が大きいご様子でした。
何か知られてはならない、重大な秘密を知られてしまったことへの驚きのような。
それはまるで、本当にキラのご両親では無いかのようで、私の心はざわざわと落ち着かなくなりました。
他人である私が聞いてはいけないことのような気がしましたが、私はそこから一歩も動けませんでした。
そんな私を余所に、家族の会話は続きます。
いいえ、正確には家族だと思われた人達の、違和感のある会話です。
「そんなに、僕に力が欲しかったの」
俯き加減のまま、キラはご両親に問いかけました。
私には意味が分かりませんでしたが、ご両親は身を乗り出すように、キラに必死に答えます。
「何を言ってるの、そんなこと、あるわけ無いじゃない。貴方は私達の、大切な1人息子なのよ」
「でも僕は、貴方達から産まれていない」
キラはにべも無く、突き放すように零します。
お母様はいよいよショックに耐え切れなくなり、フラフラとよろけられます。
お父様がそれを支えられると、溜息を吐きつつ、キラを叱るでもなく、淡々とキラの言葉を肯定なさいました。
「確かにそうだが、お前のことを本当の子供だと思わなかったことは、私達は唯の一度も無いんだ」
そう言って、遠くを見つめられるように、澄み切った青さが広がる空を見上げられます。
「産まれて間もないお前を預けられた時、正直私達にこの子をきちんと育てられるのだろうかと不安もあった。けれども、母さんに抱かれて無邪気に笑ったお前を見て、この子は私達の子供になったんだと、そう思えた。だから私達はお前を特別扱いすることなく、私達の子供として、普通に育ててきたつもりだ」
その声には揺ぎ無い思いが込められた、力強さがありました。
キラはお2人の本当の子供ではないことは事実のようです。
それでも本当の子供と変わりない、精一杯の愛情を注いで育ててこられたことが伺えます。
どういった経緯でご両親がキラを預かることになったのかは分かりませんでしたが、それでもお2人とも素晴らしい方達だと思いました。
キラが優しく芯の強い性格に育ったのは、ご両親の教育の賜物なのでしょう。
そしてご両親がキラを育ててくださったからこそ、私はキラと出会うことができたのです。
私は心の中で、ご両親に感謝の言葉を送りました。
「知ってるんでしょ。僕の本当の産まれを」
ですがキラはお父様の言葉を聞いていなかったかのように、それに対する意見でも返事でもない、意味深なことを尋ねます。
私には訳が分からないことだらけですが、お父様はしばし沈黙の後、低い声でああ、と頷いてお答えになりました。
それを聞いたキラは、肩を震わせたかと思うと、キッと顔を上げました。
その瞳からは涙がポロポロと零れていました。
「だったら・・・、だったら、僕のことはその時に見捨てて欲しかったんだ!」
そしてそう言い放つと、部屋の中へと駆け込みました。
キラとご両親を会わせた事が、逆にキラを、そしてご両親を苦しめることになるとは、思いもしませんでした。
まさかの結果に、私はその場で佇んでいることしかできませんでした。
お母様はキラを追いかけようと手を伸ばしましたが、お父様が肩を掴み、首を横に振って制止されました。
今のキラは感情的になり過ぎて、まともに話を聞ける状態ではありませんでした。
お父様はそれを察して、今はそっとしておこうとお考えられたのでしょう。
そう諭されたお母様は、ガックリと膝から崩れられて、長くその場ですすり泣いておられました。
そのあまりに悲しそうな後姿を見て、キラのご家庭の事情を知らなかったとは言え、軽率な行動だったと後悔しました。
私はひどく自分の胸に痛みを感じ、思わず涙を零してしまいました。
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