- ここは地球、赤道直下に位置するオーブ首長国連邦、その中に作れらた国際ターミナルのロビー。
- かつて滅亡の危機に晒されたこの国もようやく完全に復興し、地球の他国、そしてプラントとの国交も正常化されて、普段は他国からの利用者で賑わいを見せている。
- だが今日はいつもと様相が異なっている。
- 明らかにその一角は物々しい雰囲気で、黒いスーツ姿の男達とオーブ軍服に身を纏った兵士達が警戒にあたっている。
- それはそこにオーブの代表であるカガリ=ユラ=アスハの姿があるからだ。
- 彼女もまた大戦を終決へと導いた英雄の一人として表舞台に立ち、様々な苦難を経て今や立派な為政者としてオーブをまとめている。
- その手腕は内外で高く評価されている。
- そして隣にはその夫、アスラン=アスハの姿がある。
- 彼もまた英雄の一人として、カガリの補佐として色々と尽力している。
- そんな彼らがこうして結ばれるまで色々とあったが、それはまた別のお話。
- とにかくオーブをまとめる代表たる彼らが、ここにきて出迎えをするほどの人物がもうすぐここに到着するということを示している。
- 護衛のSPや兵士達が緊張する訳である。
- 心なしかカガリとアスランも緊張した面持ちで、その時が来るのをじっと待っている。
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- そこへ定刻どおりに一機のシャトルが滑り込んでくる。
- それをSP達も固唾を呑んで見守る中、シャトルの扉が待ちかねた時を焦らす様にゆっくりと開かれる。
- そこから先ず降りてきたのは優雅に桜色の髪を揺らせて、柔らかい笑みを湛えたラクス。
- 続いて半分興味津々、半分おっかなびっくりといった様子で周囲を見渡しながらラクスに手を引かれて出てきたコウ。
- それから同じように忙しなくキョロキョロしているヒカリと、その手を繋いで最後にキラが出てくる。
- そう、カガリ達はこのヤマト一家を出迎えるためにここにいるのだ。
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- ラクス達の来訪の大きな目的は、プラント議長とオーブ代表として外交会談を数日に渡って行うことだが、その後もオーブに留まり休暇を取るスケジュールとなっている。
- それもあってラクスはその休暇を家族揃って過ごすことを希望し、キラと共に子供達も初めて地球へと連れて行くことに決めた。
- それを事前にお互いに連絡を取り合い、カガリ達がこうして出迎えたという訳だ。
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- ラクスはカガリの姿を認めると、にっこりと笑顔を浮かべてカガリの前へと歩を進める。
- カガリも緊張していた表情を崩して笑顔を零し、2人は久方ぶりの再会を喜びひしと抱き合う。
- その横でキラも親友の姿を認めると目を細めて近づき、すっと手を差し出す。
- 手を差し出されたアスランはその手をしっかりと握り返すと笑みを浮かべる。
- 言葉を交わす必要は無かった。
- どんなに遠く離れていても、同じ世界の平和を望み尽力してきたのだから。
- 彼らはそんな友であり兄弟との再会を心から喜んだ。
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STAGE-06 「初めての地球」
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- 一頻り大人達が再会の挨拶を済ませると、今度は目線を下げて足元の子供達へと向ける。
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- 「初めましては、変でしょうか。お久しぶりですカガリおばさま」
- 「お元気でしたか、アスランおじさん」
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- その視線を感じると笑顔でヒカリとコウは行儀良くお辞儀をする。
- 2人ともカガリのことは通信では何度も話をしたことがあるので、顔はよく知っている。
- 父の双子の姉というこの女性は自分達の伯母にあたり、明るい笑顔がとても好きだ。
- 隣に居る伯父にあたる男性も、通信モニタ越しに顔は知っている。
- いつも冷静な表情を変えない印象があるが、父は昔のことになるとよくこの人のことを話してくれた。
- 普段あまり他の人の話をしない父だから、それだけ信頼していることがよく分かる。
- だからどこか父にも似た感覚を抱き、全く警戒心を持つことも無い。
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- だが双子にとって、こうして直接会うのは初めてだ。
- 本当は産まれて間もない頃に一度会っているのだが、双子がそのことを覚えているはずも無い。
- その表情には若干の緊張が滲んでいる。
- カガリとアスランはそれに内心クスリと笑みを零す。
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- 「おお、よく来たな。元気にしてたか」
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- カガリは通信機越しと変わらない屈託の無い笑顔で双子の挨拶に応える。
- アスランも微笑みながら子供達に倣ってお辞儀をする。
- こうして直に顔を合わせると、あの時の小さな双子が大きくなったなと、感慨深げな不思議な感じがする。
- そして見れば見るほど両親にそっくりな子供達になんだかとても心が和らぐのだ。
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- 「で、これが私達の子供のユウキ=ナラ=アスハだ。仲良くしてやってくれ」
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- 一通り挨拶を交わすとそう言ってカガリは、自分の足の後ろにしがみついて隠れていた小さな男の子を押し出す。
- 鮮やかな金髪に緑の瞳を持った、アスランとカガリの一人息子だ。
- 2歳になったばかりで少しずつ話す言葉が増えている、といったところなので普段はあまり外へ連れ出したり、公の場に姿を見せることはないのだが今日は特別だ。
- 出迎えは公のものではないし、まだ同じくらいの子供と接したことのないユウキにとって、年の差もそれほどない従兄弟であるヒカリとコウに会えば今両親が悩んでいる問題も、解決のキッカケが掴めるのではないかと思ったからだ。
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- 「初めまして、ヒカリ=ヤマトです」
- 「コウ=ヤマトです、よろしく」
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- 自分よりもまだ小さい男の子の存在に最初ビックリしたが、すぐに双子はニッコリ笑って挨拶をする。
- 双子にとってもこうして自分とそう変わらない子供と接するのは初めてだ。
- それが何だかとても嬉しくなる。
- だがユウキは不安そうな表情を浮かべたまま立ちすくんでいたかと思うと、自分を押し出している母の手を振り払い、今度は父親の足の後ろの隠れてしまった。
- どうやら相当人見知りが激しい子のようだ。
- 双子は挨拶も返さずにまた隠れてしまったユウキの様子にちょっとだけ残念そうな表情を見せるが、大人同士の話をじっと聞いているのは正直退屈だ。
- でもこの子と仲良くなって遊べたら楽しいだろうな、などと思いを馳せる。
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- 一方のアスランとカガリは息子の様子にはあっと溜息を吐く。
- どうやら両親の悩みは、この極度に人見知りする性格のようだ。
- 強制はしたくないが、ゆくゆくは為政者として自分達を継ぐ道も選択肢に入ってくるだろう。
- その将来を考えると不安一杯なのだ。
- アスランがユウキの頭を撫でながら、キラとラクスに向かって肩をすくめる。
- キラはそんな両親とユウキの様子を見ながら、アスランとカガリの苦労を理解すると、ちょっとだけ同情して苦笑する。
- ラクスは膝を折って同じ目線まで屈むと、アスランの足の影からそーっと覗くユウキに向かって初めましてとにっこり笑って見せる。
- だがユウキは目を逸らし影にすっぽりと隠れてしまった。
- ちょっとだけ残念そうに眉を寄せて苦笑すると、私も嫌われてしまいましたわとおどけて双子に言う。
- そんな母の仕草を何となく可愛いと思った双子はクスクスと笑い出した。
- それに釣られるように大人達も声を上げて笑った。
- ユウキは不思議そうに両親の後ろ姿を見上げる。
- 両親がこんなに笑うなんて珍しい。
- そんなことを思いながら、ユウキもまた釣られるように笑顔を零した。
- まだ足にしがみ付いたままだが、顔はしっかりと出して両親の笑顔を引き出した、自分より少し大きい双子に向かって。
- 双子はそれにまた弾けるような笑顔を見せると、逃げられないように両側から回り込んで近づき、よろしくとその手を取ってぶんぶん振る。
- 握手のつもりで。
- 最初それに戸惑ったユウキだが、続けている内になんだか楽しくなってまた笑顔になる。
- そして小さくかのなくような声で、だがハッキリと挨拶をした。
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- 「よろしく」
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- それを聞いたカガリとアスランは驚いて顔を見合わせた後、でかしたと双子にぎゅうっと抱きつく。
- 急に抱きつかれた双子は目を白黒させて、キラとラクスはそれを見てまたクスクス笑い、ユウキも心なしかはしゃぎだしたのを見て、双子も楽しそうに笑い出す。
- そこにはただ幸せそうな家族の団欒の姿だけがあった。
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*
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- 正式な外交会談は明日からの予定で、今晩は特に仕事は無い。
- だから彼らは今日は友としてカガリの家に招かれ、主に子育ての苦労について意見を交わして談笑している。
- そんな中、双子が先のやり取りで仲良くなったユウキと勢い良く部屋に飛び込んできて、突然問いかける。
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- 「今地球の空調せつびはこわれているのですか?」
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- これに大人達はえっという表情を見せる。
- 何のことかと思っていたら、コウがそれを補足するように地球へ来た初めての感想を述べる。
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- 「だって何だか、暑くてベタベタするよ」
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- 双子は大人達がお茶を飲みながら談笑している頃、両親の許可を得てユウキと家の庭へと飛び出してみたのだが、今までに体験したことの無い蒸し暑さに驚いてしまった。
- それをプラントのような気候調整システムの故障ではないのかと思ったのだ。
- 質問の意味が理解できた大人達は、ははっと笑い声を漏らす。
- それからキラとラクスが頭を撫でてやりながら教える。
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- 「地球には空調設備はないんだよ。自然のままに日が照って、風が吹いて、雨が降って、季節が流れて、これが普通なんだよ」
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- プラントにも季節の移り変わりがあるが、所詮人工的に管理されたものなのでいつも快適な気温状態に保たれている。
- だがまだ春先といっても赤道直下のこの地域はプラントの夏よりも暑い。
- プラントの調整された気候にしか慣れていない双子にとっては不快なところもあり、そして驚きだった。
- 顔を見合わせて信じられないという表情を浮かべている。
- キラは苦笑すると、すっと席を立ってテラスへ続く扉を開け放つ。
- そしてしばし外を眺めていたかと思うと、悪戯っ子のような無邪気な笑顔で双子を手招きする。
- 双子はそんなキラに誘われて恐る恐るテラスに出てみれば、目に飛び込んできた光景に双子はわーっと歓声を上げて魅入ってしまう。
- そこには水平線に今にも沈もうとしている夕日の光を跳ね返して、赤く煌く広大な海が眼下一面に広がっていた。
- その眩しくキラキラ光る光景は今まで見たプラントの綺麗な夜景や映像よりもずっと鮮やかに、心を掴んで離さなかった。
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- 「これが地球だよ」
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- キラは腰を屈めて見惚れる双子の耳元に顔を近づけると、意味ありげに囁く。
- 壮大な地球を一言で表現することなどできない。
- その目で見て、耳で聞いて、体で感じたこと、それがきっと雄弁に語りかけ地球を、自然を知ることになるだろう。
- そう思ったから、キラは敢えて説明することはしなかった。
- 実際、双子は何となくだが聞かされた話でしかない自然の驚異を生で体感し、その素晴らしさを理屈ではなく今全身一杯で浴びていた。
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