- オーブにやって来た次の日の朝。
- ヤマト家とアスハ家の家族一行は、とある場所を目指して早くから移動していた。
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- キラとラクスは休暇を取るとは言っても、その前に仕事は仕事できっちりとこなさなければならない。
- オーブ行政府にてプラントの代表とオーブの代表として、外交問題についてもしっかり意見を交換しなければ、良い国造りも、世界が進む道も示すことが出来ないことは百も承知だ。
- そのことに本人達も何の異論も無い。
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- だがそこで障害ではないが、問題になるのは今回連れてきた子供のことだ。
- 自分達以外にも参加者はいるため、まさか子供を会議の場に連れて行くことはできない。
- それで会議をぶち壊しにしてしまってはそれこそ大問題に成りかねない。
- となるとその間の子供達の面倒を誰が見るかということがキラとラクスには心配の種だったのだが、カガリが自信たっぷりに大丈夫と言うから、そしてその提案を受けた人物は彼らが最も信頼に足る人物であるから、それも子供達を連れてくる決心ができた理由でもある。
- 一方普段はユウキも自宅の家政婦や使用人が面倒をみているが、カガリは双子がここに居る間は便乗してそうしないつもりだ。
- つまりは双子と同じように、かの人物に息子を預けると言うこと。
- この機会に、極度に人見知りする性格を少しでも矯正しようというのだ。
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- そんな彼らが向かった先はマルキオ邸。
- ここにはこれまでの戦争で親を亡くした戦災孤児達が共同で暮らしている。
- そしてかつてキラとラクスが共に過ごしたこともある、キラにとってはもちろん、ラクスにとってもオーブの実家と言ってもいい場所だ。
- それが何となく懐かしいような感覚を、キラとラクスの胸に抱かせる。
- そんな両親を双子が不思議そうに見上げ、キラが何でもないよと優しく微笑んで目の前まできた扉をノックする。
- 扉を開いて彼らを出迎えてくれたのはカリダ=ヤマト、キラの育ての母で双子にとっては祖母になる、このマルキオ邸の家事を取り仕切る皆のお母さんでもある。
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- カリダは落ち着かない様子で息子達の到着を今か今かと待っていた。
- そしてキラの声が聞こえると、凄い勢いで玄関までダダダと駆けて行ったのだった。
- それはそれは満面の笑みで。
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- 「お久し振りです、おばあさま」
- 「今日はよろしくおねがいします」
- 「はい、いらっしゃい」
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- 双子は相変わらず丁寧にお辞儀をして、カリダもにこにこと双子に合わせてお辞儀をする。
- あの時の赤ん坊がこんなに大きくなったのかと、嬉しいやら驚くやらで久し振りに会う可愛い孫達に頬を緩めっぱなしだ。
- そんなカリダの様子にキラは苦笑しながら、自分達を見上げている双子に目線を合わせるために膝を屈める。
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- 「いい、皆に迷惑かけちゃだめだよ」
- 「ちゃんとおばあ様の言うことを聞くのですよ」
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- キラとラクスは双子に優しく言って聞かせてから、屈んでいた膝を伸ばしてカリダの方へ向き直る。
- アスランとカガリも足元に引っ付いて離れないユウキを何とか剥がし、双子にその手を握らせると姿勢を正す。
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- 「じゃあ母さん、悪いけどこの子達をお願い」
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- キラ達は申し訳なさそうに、カリダに子供達の面倒を見てもらうことを依頼して頭を下げる。
- 彼らからすればこれ以上信頼できる人物はいないのだが、普段たくさんの子供達の面倒を見ているため、その負担が増えることを考えるとやはり申し訳ない気持ちにもなる。
- だが当然カリダは迷惑などとは少しも思っていない。
- 大事な息子夫婦達の頼みを断れるわけもないし、可愛くて仕方がない孫達に会えるとあって、むしろ嬉しいくらいだった。
- 少し他人行儀名挨拶をする息子に対して、母として貫禄の笑顔でゆっくり首を横に振って、問題ないことを強調する。
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- 「今更何言ってるの。いいからいいから、子供達の面倒は任せなさい。貴方達はお仕事しっかりね」
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- 自分が子供の頃から変わらない母の笑顔に、キラは安堵の息を漏らすとじゃあ夜には迎えに来るからと言い置いて、起き出して群がる子供達にも笑顔で手を振りながら扉の外へと姿を消した。
- 孫達の頭を撫でながらそうやってカリダはにこやかに、まだ若く初々しさの残る2組の両親を見送った。
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STAGE-07 「触れ合い」
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- マルキオ邸で暮らす子供達は久々に訪れたキラ達に喜び、まだ朝早いというのに既に起きていた子供はわあっと駆け寄り、中には寝ていた子供を叩き起こす始末。
- そんな以前と変わらぬ様子にキラ達は苦笑しつつもホッとしながら、もう行ってしまうことに残念がる子供達をまた来るからと宥めて、自分の子供達と仲良くしてねと言い置いて玄関の扉を閉めた。
- 子供達はキラ達が言ってしまったことは本当に残念でそんな表情を一瞬浮かべるが、元気良くキラ達を見送った後、すぐに目をキラキラさせてヒカリ、コウ、ユウキの方へ振り返る。
- もう本当に優しいお兄ちゃん、お姉ちゃん達にそっくりな子供に興味津々といった感じで、まるで取り囲むように双子とユウキにわあっと群がっている。
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- ここに居る子供達は皆先の戦争などで孤児となり、マルキオに拾われた子ばかりだ。
- 初めてキラとラクスがやってきた時には皆まだ小さな子供だったが、時の流れは誰にも等しく訪れているのを示すように、一番年かさの子供はもう立派な大人だ。
- 何人かはここを出て自立した生活を送っているし、ここで寝起きしている者もそれぞれ仕事に既に出かけて今はここにはいない者もいる。
- だが朝晩はカリダの手伝いをしてくれるし、自立した子らも休日に時々は遊びに来て、まだ幼い子供達の面倒を見てくれている。
- 血の繋がりは無くとも、彼らもまた強い絆で繋がった家族なのだ。
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- 話は戻って、今残っている子供達はキラ達が来るのを、その子供達と会えるのをかなり前からとても楽しみにしていた。
- 言われなくても双子やユウキと一緒に遊んであげようという気満々である。
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- 「何して遊ぶ?」
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- 一番年下の子供達などは、初めて自分より年下の子供と遊ぶことが嬉しくて、さっそくお兄さん、お姉さん風を吹かせている。
- にこにことどうしてこの子と遊ぼうか、面倒を見ようかと一生懸命思考を張り巡らせる。
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- そんな熱烈な歓迎を受けながら、双子はこの状況に戸惑っていた。
- これだけ多くの見知らぬ人と一緒に過ごすのは初めての経験だ。
- それも自分より大きいとはいえ相手も同じ子供であり、良くも悪くこれまで接してきた大人達に比べて無遠慮に接してくることに戸惑い、緊張から顔を強張らせている。
- 一方ユウキはと言うとすっかり萎縮して、ヒカリとコウの後ろに隠れたまま不安そうな表情で服の裾をぎゅっと握って離さない。
- それを見たカリダは膝を折って目線を合わせると、頭を撫でながら優しく問いかける。
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- 「おばあちゃんはねえ、これからお部屋のお片付けとかしなくちゃならないんだけど、その間このお兄ちゃんやお姉ちゃん達と仲良く遊んで待っていられる?」
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- 双子が両親に見知らぬ場所に預けられることにそれほど不安と抵抗を示さなかったのは、大好きな両親の母親が面倒を見てくれるということだったからだ。
- だから一緒に居てくれると思ったその祖母が傍にいなくなるとわかると、双子はあからさまに悲しそうな目でカリダを見上げる。
- カリダはその瞳に虜になって、むしろ自分がずっと面倒を見たいような衝動に駆られるが、家の片付けは自分がしなければ自分も子供達も困るので仕方が無い。
- 何とか衝動を堪えると優しい笑みを浮かべて屈みこみ、それぞれ頭を撫でてやる。
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- 「心配ないわよ。皆前は貴方達のお父さんやお母さんと一緒に暮らしてた子がほとんどだから」
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- 少しだけ昔を懐かしむように、キラとラクスの過去のことを話してやる。
- 双子はカリダの言葉に僅かに目を見開き、少し警戒心を解いてカリダの方に身を乗り出す。
- 両親がかつて一緒に暮らしていたと言うことに驚き、そのことに少し興味を持ったからだ。
- 普段なかなか両親の昔のことを聞く機会は無いから。
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- 一方のカリダは少し違うことも考えていた。
- 息子夫婦が子供達のことを大切に思っていることはちゃんと分かっているつもりだ。
- そしてキラもラクスも忙しく大変な仕事をしていることも理解している。
- それだけに子供達がちゃんと両親の愛情を受けているか老婆心ながら心配したのだが、どうやら大丈夫のようだ。
- 2人の名前を出したとたんそうやって緊張が和らいだのを見て、双子が両親のことをとても信頼しているのがよく分かる。
- それでもまだ不安そうなのは、多分これだけの大人数の友達と遊んだことがないからだと推測する。
- 実際、プラントではその立場からも同じ年頃の友達はいない。
- 折角の機会だから、ここでそれに慣れてもらいたいと思うのは余計なお節介だろうか。
- そんな祖母バカとでも言うのだろうか、孫を可愛くて仕方ないと思う自分に内心くすりと笑みを零す。
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- 「大丈夫よ、誰も貴方達を取って食べやしないから。ねえ皆」
- 「はーいっ!!」
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- カリダの問いかけに子供達は手を上げながら元気良く声を揃える。
- その表情には無邪気な笑みを浮かべて。
- それを見た双子はようやく表情を崩して、にこっと笑顔を見せる。
- 子供達も固唾を飲んで先ほどのカリダとのやり取りを見守っていたが、双子の笑顔に止まっていた時間を動かすように口々に自分の意見を述べていく。
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- 「じゃあさ、じゃあさ、かくれんぼ、かくれんぼ」
- 「それじゃダメよ。この子達とお話できないわ」
- 「えーっ、じゃあどうすんだよ」
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- そうやってやいのやいのと何して遊ぶか言い合いながら盛り上がる。
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- 「よーし、鬼ごっこだ。僕が鬼だぞ。皆逃げろー!」
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- ようやく話がまとまったらしい。
- この中では年上の子が決定してそう宣言すると、他の子供達は一斉にわーっと家の外へと駆け出していく。
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- 双子とユウキはその様子をどうしようかとポカンと見送って、それからカリダの方へ視線を向ける。
- 視線を受けたカリダが行っておいでと笑顔で頷くと、双子は顔を見合わせてぱあっと笑顔になっていく。
- そしてユウキの手を引くと、他の子供達に倣うようにわーっと開け放たれた扉から外へと飛び出す。
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- 本来人見知りをしない双子だ。
- 何だかんだでこうやって誰かと一緒に遊べることは楽しい。
- それがかつてキラやラクスと一緒に暮らしていたという子供達ならば尚のこと。
- 最初の緊張などすっかり忘れた様子で、鬼の子から笑いながら一生懸命逃げている。
- ユウキもいつの間にか幼い子供らしい無邪気な笑みを浮かべて走り回っている。
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- カリダはそんな子供達の様子を、しばらくベランダから微笑ましく見つめてから、自分も早くあの輪に加わるべく気合を入れて部屋の片づけへと向かって行くのだった。
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