- キラ達ヤマト一家はアスランらアスハ一家と一緒に、今日もマルキオ邸に来ていた。
- だが今日はここ数日の子守の依頼とは少し事情が異なる。
- プラントとオーブの外交会談は大きな成果を上げて昨日で終わっており、そして今ここに彼らだけでなくアークエンジェルで共に戦った仲間達も、同じように集まっていることからもそれは明らかだ。
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- キラとラクスは双子の手を引き、晴れやかな笑顔で久し振りに会う仲間達に挨拶をして回る。
- かつて苦楽を共にし、様々な困難を乗り越えてきた、そして今も同じ未来を目指して共に歩む大切な仲間。
- プラントと地球と離れているためなかなか会うことはできないが、その絆は今も変わらない。
- だから久し振りに会えて、お互い嬉しさに笑顔が自然と零れる。
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- 「本当に2人にそっくりね」
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- そう言いながら以前と変わらぬ艶やかな笑顔で、キラとラクスの傍らに立つ双子に笑いかけるのは、2人の結婚式の直後に妊娠が発覚して結婚したマリュー=フラガ。
- 双子もラクスとは異なる艶やかな大人の女性に少しどぎまぎしながら、初めましてとお辞儀をする。
- その仕草が可愛らしくて、マリューは思わず可愛いと双子をギュッと抱きしめる。
- それにやきもちを妬くのはその夫ムウ=ラ=フラガ、ではなくて、彼ら夫婦の大事な息子、マウ=ル=フラガ。
- 先日4歳になったばかりで、金髪に癖のあるウェーブが少しかかった髪はムウの幼少を彷彿とさせる容姿だ。
- 自分のこともギュッとしてとせがむ息子にマリューは苦笑を浮かべながら、はいはいと双子から体を離すとマウの方に向き直って抱きしめる。
- 何だかんだ言っても、自分の子供が一番可愛いと思うのは、何時の時代、どんな親でも思うことらしい。
- そんな愛しい息子であるマウは甘えたがりで、事あるごとに母であるマリューに抱きつき、または抱っこをせがむ。
- マリューはその姿に幸せそうに微笑みながらも、ムウみたいな軽い男になるのが心配だ、と漏らしたことがあるとかないとか。
- そんな息子と妻の姿を見て、ムウが自分も抱きしめてもらおうと俺にはと物欲しそうな表情でせがんでみるが、流石にそれはマリューに冷たくあしらわれてガックリと肩を落とす。
- その仕草が面白くてキラとラクス、それに双子も声を上げて笑う。
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- そこに何やら騒がしい喧騒が入り口の方から響いてくる。
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- 「もう、本当にあんたはグズなんだから」
- 「そりゃないぜ、だったら少しくらい荷物を持ってくれよ」
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- そこにはぶちぶちと文句を言うミリアリア=ハウと、それに不満を言いながらも大人しく従うディアッカ=エルスマンの姿が確認できた。
- どうやら集合時間ぎりぎりになったのは、ディアッカの行動が遅いせいだと文句をつけているようだ。
- そう言われたディアッカは両肩から、いかにも重そうな荷物をいくつもどかっと床に降ろして溜息を吐く。
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- ミリアリアは今もフリーのジャーナリストとして世界のあちこちで写真を撮り続け、世界に真実を伝えるというキラとの約束を果たしている。
- ディアッカはキラとラクスの結婚式後ザフト軍を除隊して地球に降り、現在はミリアリアのアシスタントとして一緒に世界中を飛び回っている。
- それはもちろんディアッカがミリアリアのことを好きだからで、彼は地球に下りるなりミリアリアに告白したのだが、アッサリと玉砕してしまった。
- それでも粘り強いというか諦めが悪いと言うべきか、諦めきれないディアッカはミリアリアのアシスタントに納まり、こうして仕事をする上で欠かすことのできないパートナーとなっていた。
- そしていつか気持ちが変わるかもしれないと、今もアタックを続けている。
- ミリアリアもそのアプローチに満更でも無い様子なのだが、まだ素直になれない彼女からすれば特別な友達以上恋人未満、といったところだ。
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- そんな相変わらずな2人に皆笑顔を浮かべる。
- 皆の姿を確認したミリアリアとディアッカも、先ほどの喧騒を忘れたかのようにニコリと笑顔で仲間達の輪に入っていく。
- もちろん彼らの目的も皆と同じだ。
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- 今日はシン=アスカとルナマリア=ホークの結婚式が行われる。
- ここマルキオ邸でそれを仲間達がささやかに祝うために、それぞれがスケジュールを調整してこうして集まっていた。
- キラ達の休暇の目的は、このささやかな結婚式に出ることでもあったのだ。
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STAGE-08 「祝福の時」
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- 祝福の拍手が降り注ぐ中、本日の主役であるシンとルナマリアが、メイリン=ホークに先導されて姿を現した。
- 白いタキシードに身を包んだシンはいつもより凛々しい感じに見える。
- だが柄にも無く緊張しているのか、顔を赤くしながら口を真一文字に引き締めて動きもどこかぎこちない。
- その腕を取るルナマリアもヴェールの下で恥ずかしそうに俯きながらメイリンの後に続いて、シンと一緒に静々と、だがしっかりその歩みを進める。
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- そんなルナマリアが着ているのはカガリが特注で作らせた純白のドレス。
- 所謂オーダメイドのウェディングドレスだ。
- その純白のドレスに包まれたルナマリアは別人かと思うほど綺麗に輝いて見える。
- そんなルナマリアの姿にカガリは満足そうに頷き、ラクス達女性陣も惜しみない拍手を送る。
- 元々その容姿は整っている彼女だから、当然と言えば当然かもしれない。
- だが一緒に暮らし、普段の勝気なサバサバしたところばかり見てきた子供達などは、その変わりように驚いている。
- キラ達男性陣も拍手をしながら、少なからず内心では驚いていたりするのだが。
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- それから式は滞りなく進み、神父役を務めるマルキオ導師の許しを得て、シンとルナマリアは誓いの口付けを交わす。
- そこでまた割れんばかりの拍手が起こる。
- 誰もが心から2人の幸せを祝福していた。
- 戦争で心に傷を負いゆっくりとだが乗り越えたシンと、それを献身的に寄り添って支えたルナマリアだから、きっと幸せになれると2人の未来を確信して。
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- 「「皆さん、ありがとうございます」」
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- シンとルナマリアは恥ずかしそうに、それでいて幸せそうな笑みを零しながら、祝福の拍手を送る仲間達、一緒に暮らす子供達に礼を述べる。
- 彼らもまたお互いに誓い合った。
- これからも2人一緒に嬉しいことも辛いことも、支え合って生きていくのだと。
- この素晴らしい仲間達のためにも。
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- 一頻り厳粛な雰囲気の中で式が終わった後は、新郎新婦を囲んで賑やかにパーティーが始まる。
- そして一人一人、幸せな2人に言葉をかけ、あるいはプレゼントを渡す。
- シンとルナマリアもその一つ一つに丁寧に礼を述べながら、今日集まってくれた仲間達の元を巡る。
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- やがてキラとラクスの元へ2人がやってくる。
- キラは弾けるような笑顔でおめでとうと祝福し、ラクスは私からは歌をお送りしますわ、と席を立つと静かに歌いだす。
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- 風に吹かれて緑が揺らめく
- この穏やかな大地の上で
- 命の芽を育み 時を紡ぐ
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- いつもこの場所から祈ってた
- いつか貴方にも
- その素晴らしさが伝わるようにと
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- 風に導かれるように
- 運命の人と出会えたなら
- 命が芽生える喜びを知る時
- 微笑みから幸せが零れた
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- 風に撫でられ水面が波立つ
- この爽やかな空の下で
- 希望の種を撒き 時を駆ける
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- いつもこの場所から願ってた
- この想いが届きますようにと
- 夢を見続けられますようにと
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- 風に飛ばされながら
- 運命の人と結ばれたら
- 未来(あした)を迎える楽しさを知る時
- 涙から幸せが溢れた
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- 今もこの地球(ほし)の何所かで
- 風が生まれるように
- 誰かの心から 笑顔から
- 想いは溢れてく
- それは生きている証
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- 風に吹かれながら
- 運命の人と共に過ごすなら
- 夢を叶えるために頑張る時
- 心から幸せと思える
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- 新郎新婦の幸せを願い、そして未来へのエールを送った、そんな心温まるバラード。
- 誰もが談笑を止めてその歌声に聴き入り、終わると一斉に拍手をする。
- 拍手を受けて、ラクスははにかむような笑顔でそれに応え、シン達に改めておめでとうございますと祝福の言葉をかける。
- シンとルナマリアはまた照れくさそうに微笑んで、ラクスに対して頭を下げる。
- 彼らもラクスが歌に込めた想いをしっかりと胸に刻んだ。
- 今神前で誓った誓いを破ることがないように。
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- そんな幸せそうに微笑むシンとルナマリアを見つめながら、双子は多分行われたであろう父と母の結婚式のことをふいに想像し、容易に幸せそうに笑っている両親の姿が思い浮かべられて、心がとても温かくなる。
- 両親が幸せそうに笑っている姿を改めて好きなんだと再認識する。
- 同時に不思議にも思う。
- 大人になったら、ああやって幸せな笑顔を自分もできるのだろうかと。
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- キラは双子が同じように不思議そうな表情をしているのに気付きどうかしたのか尋ねると、双子は素直に思っていることを口にする。
- キラは一瞬驚いた表情を見せるが、すぐに柔らかい父の笑顔を見せると双子に答える。
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- 「いつか君達も、世界で一番大切だと思える人に出会えるよ。僕が君達のお母さんに出会ったみたいに」
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- 今はまだ出会っていない誰かにね、とウィンクする。
- 双子は父に相槌を打ちながら、その相手が父でも母でも、ましてお互いの片割れでもないことにまだ実感が湧かないし、父の言うことが全ては理解できない。
- それはそうだろう。
- 双子はまだ5歳。
- まだまだこれからたくさんの出会いと別れを経て、色んなことを経験して、大人になっていくのだから。
- そしてその過程で、きっと運命の誰かと出会うことになるだろう。
- それを考えると親としては少し複雑な気分にはなるが。
- キラはまだ焦らなくていいと双子の頭を撫でる。
- 双子はまだ納得がいなかないながら、またどこかで起こった拍手に気を取られて思考を手放した。
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- ただ、今分かっているのは、幸せそうに微笑むことは自分だけでなく、周囲の人達も幸せな気分にすることだということだ。
- だからその時が早く来るように祈りながら双子も、幸せな気分を分けてくれたシンとルナマリアに向かって元気良くおめでとうございますと笑いかけた。
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