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「Testing courage (シン&ルナマリアペア)」
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- 「肝試しなんてほんと久しぶりね!」
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- ルナマリアは、はしゃいだ様子でシンに話し掛けた。
- 実際こうやって肝試しをしたのは、幼年学校以来だ。
- ムウでは無いが、幼少に返った気がしてワクワクする。
- しかし上の空で生返事しか返さないシンに、ルナマリアは不満を交えて茶化す。
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- 「何よシン、あんたもひょっとして怖いの」
- 「なっ、怖いわけないだろ、ただ・・・」
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- シンは慌てて反論するが、すぐに言葉に詰まってしまう。
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- 「ただ、何よ」
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- 何となくシンの様子が引っ掛かったルナマリアは心配そうに続きを促す。
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- 「うん、マユは、妹はこうゆうの、とっても怖がってたな、って思ってさ」
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- ルナマリアに問われ、シンは苦笑しながら答えた。
- まだオーブで家族と一緒に居た頃、肝試しではなかったが夜道の中を歩く時、妹のマユは怖がって自分の腕にしがみ付いていたことを思い出したのだ。
- そんな過去の思い出が深くシンの胸に突き刺さる。
- ルナマリアにはシンの気持ちが痛いほど分かった。
- でもだからこそ、努めて明るくシンを叱咤激励する。
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- 「いつまでも過去のことに囚われてちゃいけないって、キラさん達に教わったんじゃないの」
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- それはシンも分かっている。
- 失われたものはもう戻らない。
- けれども自分達は何度でも諦めずに花を植え続けることが選んだ道であり戦いだ。
- そのために苦しくても今自分はここで生きている。
- それを思い返したシンはコクンと頷く。
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- 「だったらいつまでもうじうじしてなっ、きゃあっ!」
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- 言いかけて、突然ルナマリアは悲鳴を上げた。
- シンは何事かとルナマリアに駆け寄ろうとする。
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- 「どうしたっ、うわっと!」
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- しかしシンも首筋に冷たいぬるっとした感触に阻まれ思わず声を上げ、反射的にそれを掴んだ。
- その正体は釣り糸で吊るされたこんにゃくだった。
- 2人は既に森の入り口のところまできている。
- 多分誰かがそこの茂みあたりに隠れて、これを飛ばしてきたのだろう。
- 何とも古典的な手だが、声を上げてしまった自分を自嘲してルナマリアの肩をポンと叩く。
- それにまたもルナマリアはビクッと反応して、シンの服の裾をぎゅっと掴み、必死に辺りをキョロキョロと見渡している。
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- 「ルナ、大丈夫かよ。ただのこんにゃくだってば」
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- シンが呆れながら掴んだこんにゃくを見せる。
- ルナマリアは少し驚いた表情を見せてから、ふんと背筋を伸ばしてパンパンと手を払う。
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- 「だ、大丈夫よ。こ、古典的な手過ぎて、ちょっと驚いただけよ」
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- しかし強がってはいるものの、明らかにその態度は怯えたように見える。
- 声は震えているし、再び歩き出せば足はガクガクして歩行速度は目に見えて遅くなった。
- さらにシンの背に隠れるような格好でその背中を押し出して進むような状況に、シンは苦笑するしかない。
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- そんなこんなでペースダウンしながら、ようやく教会へと辿り着いた。
- その教会というのは、扉は半分無くなりもう片方も蝶番がずれて今にも外れそうな状態だ。
- 窓もガラスは割れており、屋根や壁には穴が開き、僅かに零れる月明かりが光の柱の様に伸びている。
- いかにも、という感じのもので、思わず入ることを躊躇わせる。
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- 先程のこんにゃくですっかり気が小さくなってしまったルナマリアは、シンの背中に少し隠れて先に行けと目配せをする。
- シンは、ルナにも可愛いところがあるな、と少し照れながらゆっくりと何か置かれてある祭壇まで進む。
- そこには貼り紙がしてありこう記されていた。
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- 『1人一つずつ、同時にボールを掴むこと』
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- 何かあるのは一目瞭然だったが取らないことにはどうにもならないので、とりあえず書かれたとおりにせーのとボールに手を伸ばした。
- その瞬間、ボールを置いた台座を突き破って青白い手が飛び出し2人の手首を掴む。
- それは思いの他強い力に感じられ、2人とも驚きを隠せずに悲鳴を上げると必死に手を振り払う。
- もちろんボールは離してしまった。
- 思わぬ展開に黙り込む2人。
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- 「取らずに先へ進んじゃダメ、よね?」
- 「そりゃあ、教会に行った証拠が無いから、皆に臆病者とかってからかわれるかも」
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- それは正直嫌だ。
- ややあって、ルナマリアが決心したように口を開く。
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- 「シン、あんた取ってきて」
- 「えーっ、俺1人で!?」
- 「両手で取れば2個取れるでしょ。早く取ってよ」
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- ルナマリアは自分で取る気はさらさらないようだ。
- シンはもうと愚痴を零しつつも、1人恐る恐る台座に近づくと両手を伸ばしてボールを掴んだ。
- 今度は手を捕まれることは無かった。
- ホッと安堵の息を吐く2人。
- しかしその考えは甘かった。
- シンがルナマリアにボールを一つ手渡した瞬間、今度は台座の下から青白い布でぐるぐる巻きにした人間が、雄叫びを上げて勢いよく飛び出してくる。
- ギョッとして思わず身構えるシン。
- しかしルナマリアは甲高い悲鳴を上げると、シンの襟首をむんずと掴んで全力で教会の外へと走る。
- 戸惑ったシンも引きずられるように足を動かし、そのまま2人は勢いを落とさず森の出口へと直走る。
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- 月明かりの中、木々の間にようやく海岸線が見えた。
- そこで来てようやく速度を緩めるルナマリア。
- シンも肩で息をしながら、振り返って追いかけてこないことを確認すると、もう大丈夫だからと、膝に手をついて息を整える。
- ルナマリアも一先ず安堵の息を吐くが、まだ脅かすには充分に隠れられる場所だけに辺りを警戒しながら進む。
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- 2人は戦場に居るかのような緊張感でそのまま進むと、出口の見える道の脇にマリューが笑顔で立っていた。
- どうやら最後の道案内らしい。
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- 「お疲れ様、ここを抜ければすぐ浜辺だから」
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- 暗がりでよく見えないが、いつもと違って体のラインが隠れる黒いドレスのような服装をしているようだ。
- 暗闇に紛れて何をしようとしていたのかは気になる。
- しかし既に姿を晒しているので脅かすつもりではないらしい。
- だからこれで終わりだとホッとしたルナマリアは、先程驚いたことも忘れて余裕のコメントをする。
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- 「もう終わりですか?案外呆気なかったですね」
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- シンは先ほどの態度とは打って変わって強気になったルナマリアをジト目で見るが、当のルナマリアは素知らぬ振りで涼しい顔をしている。
- それに対してマリューは、いつもとは異なる怪しげな笑みを浮かべる。
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- 「そう。じゃあもう少し楽しませてあげるわ」
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- 言いながらふふふと不気味な笑い声を零したかと思うと、いきなりマリューの首だけがストンと腰の上に構えた手の上に落ちた。
- 飛び上がって驚く2人。
- 落ちた首から笑い声が聞こえると、シンももう耐え切れなかった。
- 2人は脱兎の如く、我先にとその場から逃げ出す。
- 足をもつれさせながら必死に浜辺へと抜けると、そのまま一目散にゴール目指して海岸を走る。
- 砂地で走りにくいが、とにかく今のマリューにだけは追いつかれたくなかった。
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- そのまま走りつづけ、角を曲がればカリダの待つゴールというところまで一気に辿り着く。
- ここまで来れば隠れるところはほとんどないし、もう大丈夫だろうとスピードを緩めかけた。
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- その瞬間、急に体が宙に浮いた感覚がしたかと思うと、自分の意に反して視界に砂の壁が迫ってくる。
- 次に気が付いた時には目の前一杯に白い砂の色が広がり、頭からそこに突っ込んだ。
- しばらく脱力したように砂の中に顔を埋めていたが、頭をバッと引っこ抜き、口に入った砂を懸命に吐き出しながら、何だこれ、と喚く2人。
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- 「はははっ、いやあ見事に引っ掛かってくれたね。感心感心」
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- バルトフェルドが穴の上からそんな2人を見下ろしている。
- 穴の底で2人は呆然とバルトフェルドを見上げながら、ようやく落とし穴に引っ掛かった事実に気がついて、ルナマリアは顔を耳まで赤くし、シンはくそーと寝そべって天を仰ぐ。
- 性質の悪い仕掛けに対してもそうだが、ことごとく相手の思惑通りに引っ掛かってしまった自分が情けなかった。
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- 手を掴んで引っ張り上げられても、2人の機嫌は下降線を辿ったままだ。
- 渋い表情でバルトフェルドを睨みつける。
- だが失態を晒したのは自分達だけに、口に出して文句は言えなかった。
- バルトフェルドは、おお怖、と全く怖がっている素振りは見せずに肩を竦めて呟く。
- そんなバルトフェルドを尻目に、2人はとぼとぼとゴール目指して歩き出した。
- 正直散々な目に遭ったと思っていた。
- 軽い気持ちで肝試しに賛成したのだが、これなら賛成しなければ良かったと後悔の気持ちで一杯だった。
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- 「あら、意外と遅かったわね」
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- ようやく戻ってきた2人に、時計を見ながらカリダは笑いを噛み殺す。
- 砂まみれの格好からして、どうやら最後まで見事にトラップに引っ掛かったらしい。
- 脅かす側としては冥利に尽きるというものだ。
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- 「で、どうだったかしら?」
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- ニコニコと問い掛けるカリダに対して、2人は唸るように声を揃えてこう言った。
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- 「「もう最悪です」」
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