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介護福祉士
「Testing courage (イザーク&シホペア)」
「ジュール隊長、本当に大丈夫ですか?」
「当たり前だ。俺を誰だと思っている!」
シホは心配そうにイザークを気遣うが、常に完璧を求め、誰にも負けないことを望む彼にとって、それは屈辱的なことだ。
問題が無いということを強調して、シホの前をずんずんと歩く。
しかし明らかに肩に力が入っており、歩き方もどこかぎこちない。
またこんなもの本当に何でもないんだと、呪文のように繰返し呟いている姿を見て、大丈夫だと思う方がどうかしていると思うのだが。
しかしシホはすいませんと小さく謝ると、そのことには敢えて何も言わずに、イザークの気を紛らわせようと普段はなかなかできない話題を話し掛ける。
お互い仕事が忙しく、軍艦やその関連施設以外ではなかなか話す機会も無かったので、この肝試しはイザークとの仲をよりよくしたいシホにとってまさに絶好の機会だった。
イザークも恐怖心を紛らわせようと思うのか、いつになく饒舌でシホの問い掛けに返し、思った以上に話は弾んだ。
そんなこんなですっかり肝試しだということを忘れて森の入り口へと差し掛かった時、シホの目の前を何かが横切った。
かと思うとそれはイザークの首筋に当たった。
「ぬわぁ、な、何だ!?」
ぬるっとした感触が突然首筋に走り、イザークが声を上げ首に手を当てて忙しなく周囲を見渡す。
シホはイザークの異変にどうしましたかと尋ねようとしたが、同じように何かぬるっとした冷たいものがシホの首筋にも当たった。
シホも短く悲鳴を上げ、反射的にそれを掴む。
その正体は釣り糸で吊るされたこんにゃくだった。
昔はこれで驚かせたことがあるという話は聞いたことがあったが、まさかそれを今体験できるとは思いもよらなかった。
「隊長大丈夫ですよ。ただのこんにゃくです」
シホはふふ、と笑みを浮かべてこんにゃくを見せる。
イザークは失態に顔を赤くしながら、今のはくだらな過ぎて驚いただけだと言い訳すると、ずんずんと森の中へ入っていく。
シホも慌てて追いかけるがすぐに追いつく。
イザークは勢いよく森の中に入ったはいいが、小さく草の揺れる音、風が木の葉を揺らす音に、いちいち敏感に反応してその度にパッと身構える。
その仕草にシホは密かに可愛いと感想を抱いて、イザークの一歩前に立って先をずんずん行く。
こんな時くらいはイザークをリードするのも自分の務めだと、シホの心は母性本能と使命感に燃えていた。
そんなシホに守られるように、辺りの小さな物音にも敏感に反応しながら森の中をゆっくりと進む2人。
かなりの時間を要してようやく教会に辿り着いた。
思わずホッとするイザーク。
だが、教会の佇まいを見てすぐに表情を強張らせる。
その教会というのは、扉は半分無くなりもう片方も蝶番がずれて今にも外れそうな状態だ。
窓もガラスは割れており、屋根や壁には穴が開き、僅かに零れる月明かりが光の柱の様に伸びているいかにも、という感じのものだった。
「さあ、行きましょう」
しかしシホは全く臆することなく、教会の中へと消えていく。
イザークはそれを慌てて追いかけて、自らも教会の中へと足を踏み入れた。
教会の中はそれほど広くなくすぐに中央の祭壇に気がつき、2人はゆっくりと近づく。
そこには貼り紙がしてありこう記されていた。
『1人一つずつ、同時にボールを掴むこと』
何かあるのは一目瞭然だったが、取らないことにはどうにもならない。
イザークは大きく深呼吸をすると、シホと目配せをしてせーのとボールに手を伸ばす。
その瞬間、ボールを置いた台座を突き破って青白い手が飛び出し2人の手首を掴む。
「ぬわあぁーーーっ!」
悲鳴を上げて、パッと手を振り払うイザーク。
シホも驚いて手を振り払い、ボールは虚しく台座の上に取り残された。
しばらく押し黙って、今は手の消えている台座を見つめる2人。
「隊長、もう一度行きます」
シホが勇ましく拳を握って宣言すると、イザークはえっという表情をしてシホを見た。
シホは次は大丈夫と言わんばかりに、力強く頷いて手をぐっと胸の前に構えてイザークを待つ。
そこは負けず嫌いなイザークだ。
シホができて自分ができないのは許されない、という負けん気が恐怖心よりも勝り、何とかもう一度手を伸ばすことに成功した。
今度は手首を掴まれる事無く、無事にボールを手にすることができた。
ホッと安堵の息を吐く2人。
しかしそれは甘かった。
今度は台座の下から、青白い布でぐるぐる巻きにした人間が雄叫びを上げて勢いよく飛び出してくる。
さすがにシホも悲鳴を上げて、小さく飛び上がる。
予想通りの反応で、青白い布でぐるぐる巻きにしたその人も満足する。
しかしイザークはというと、シホすらも予想だにしない行動に出た。
驚いて長い長い叫び声を上げると、迫ってくるそのお化けに扮した誰かに向かって、思い切り拳を突き出した。
それは見事に顔面にヒットし、相手は派手な音を立てて仰向け倒れた。
その間もイザークは叫び声を上げたままだ。
シホは口に手を当てて、その一部始終を見守ることしかできなかった。
ようやく叫び声が止んだイザークは、そこで自分がしてしまったことの重大さに気が付く。
相手がピクピクと床で痙攣しているのを見て、イザークはシホの手を引っ張ると教会を慌しく飛び出していく。
その後青い布を巻いたその誰かはすぐに意識は取り戻したが、顔面に鈍い痛みを覚えて顔を抑えるとまた1人悶絶していた。
イザークとシホは教会が見えなくなるところまで来て、ようやく走るのを止めた。
「大丈夫でしょうか、あの人は」
シホが心配そうに教会の方を振り返る。
しかしイザークは膝に手をついて、肩で息をしながら答えない。
遊びとは言え相手を本気で殴ってしまったことは、申し訳ないという気持ち以上に恥ずかしい気持ちでいっぱいだった。
しかもシホの前で起こしてしまった失態だけに、穴があったらすぐにでも入りたかった。
しかしプライドの高いイザークは、存外開き直りも早かった。
あんなところから急に出てきたから、必要以上に驚いただけだ。
ちゃんと警戒していればさすがにあんなことはしない、と1人自己完結すると、気配を殺して周囲を警戒し始める。
シホが何事か話し掛けようとしたが、シッと口に指を当てるとまるで軍の進軍の訓練宜しく、周囲を確認しながら木々の間に身を隠すように腰を屈めて先へ進む。
シホはクスリと笑みを零しながらも、そんなイザークに従い、そうして慎重に森の中を進んだ。
かなりの時間を要した頃、木々の間にようやく海岸線が見えた。
そこがこの森の出口だ。
終わりが近づいたことで、イザークの緊張も少しばかり解けて歩行速度が速くなった。
とは言っても周囲への警戒は怠らなかったが。
そのままゆっくりそこ目掛けて近づいていくと、道の脇にマリューが笑顔で立っているのが確認できる。
どうやら最後の道案内らしい。
「お疲れ様、後はここを抜ければ浜辺だから」
暗がりでよく見えないが、いつもと違って体のラインが隠れる黒いドレスのような服装をしているようだ。
暗闇に紛れて何をしようとしていたのかは気になる。
しかし既に姿を晒しているので、脅かすつもりではないのだと2人ともすっかり油断していた。
「すいません。教会で脅かしていた人を、ジュール隊長が殴って気絶させてしまいました」
シホが申し訳なさそうに頭を下げる。
イザークはバツが悪そうに視線を泳がせている。
シホの言葉を聞いてマリューは、一瞬えっと驚いた表情を浮かべるが、すぐにいつもとは異なる、怪しげな笑みで睨みをきかせる。
「そう、それはちょっといけないわね。そうゆう悪い子にはお仕置きが必要ね」
言いながら不気味な笑みを零したかと思うと、いきなりマリューの首がストンと腰の辺りに構えた手の上に落ちた。
「きゃあーーー!」
目一杯悲鳴を上げたのはシホ。
まさか自分の目の前で、知り合いのそんなスプラッターな現象に出くわすとは夢にも思っていなかった。
これには心の底から驚いた。
一方のイザークはというと、驚きのあまり声も出せずにマリューの落ちた首を見て固まっていた。
最早腰を抜かす余裕すら無いほどに。
シホが必死の形相でイザークの腕を掴むと脱兎の如く駆け出す。
その勢いで森を一気に抜け、海岸沿いをひた走る。
そのままスピードを緩めず、角を曲がればカリダの待つゴールというところまできた。
それでもシホはゴールするまでとにかく走り続けようと、さらに強く砂を蹴った。
その瞬間、急に足元が抜けるような体が宙に浮いた感覚に襲われる。
あれっと思った時には既に遅かった。
足で宙を1,2度蹴るがそれは虚しく空をかくばかりで、そのまま重力に従って地面の中へ吸い込まれるように落ちていく。
次に気が付いた時には背中に鈍い衝撃を受けて、星空を見上げているという状況だった。
シホがイザークの上に覆い被さるという格好で。
しばらく落ちた衝撃に動けずにいたが、シホは自分の格好に気が付くと顔を赤くしてパッと飛び起きた。
イザークはシホがどくとのっそりと上半身だけ起こし、痛たと顔をしかめる。
「隊長、大丈夫ですか?」
「ああ、しかし何なんだ、一体これは!」
イザークは怒気を声に含んで、自分達の身に一体何が起こったのかを理解しようとした。
しかしこの周りを取り囲む砂の壁にそれ以外の様子を窺い知ることはできず、はっきりと把握できない。
その時、頭上から聞きなれた笑い声が響いてきた。
「はははっ。見事な落ちっぷりだったよ、お2人さん」
その方を振り向くと、穴の上からバルトフェルドがさも可笑しそうに覗き込んでいた。
そこでようやく落とし穴に落ちたことを理解した2人。
シホはガックリと脱力してその場に膝から座り込み、イザークは顔を真っ赤にして地団太を踏む。
イザークはもちろんだが、シホにも仮にもザフトの赤を着るエリートだという自負とプライドが少なからずある。
それが最初から子供騙しな手に引っ掛かってばかりでは、面目丸潰れだ。
しかし今更落とし穴に引っ掛かったことを訂正できるはずもない。
バルトフェルドに引っ張り上げられた後も、イザークは何かを言いたげにバルトフェルドを睨みつけるが、こんな単純な手に引っ掛かった自分にも非があるため、何も言わずに通り過ぎる。
バルトフェルドは、おお怖、と全く怖がっている素振りを見せずに、大げさに肩を竦めた。
「あら、意外と遅かったわね」
ようやく戻ってきた2人に、時計を見ながらカリダは笑いを噛み殺す。
砂まみれの格好からして、どうやら最後まで見事にトラップに引っ掛かったらしい。
脅かす側としては冥利に尽きるというものだ。
「で、どうだったかしら?」
ニコニコと問い掛けるカリダに対して、シホはええ、まあと苦笑いすることしかできない。
まさか肝試しでこんなにボロボロの状態になるとは思っていなかった。
しかしシホは今回のことで、イザークの意外な一面を知ることができて、それなりに満足していた。
「俺は絶対に二度とやらんからな!」
片やイザークは顔を真っ赤にして力強く宣言したが、それを残念そうに見つめるシホの視線に、結局またイザークが参加する羽目になるのはまた別のお話。
― シン&ルナマリアペア ―
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