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「Testing courage (キラ&ラクスペア)」
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- 「キラ、それでは参りましょう」
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- ラクスは嬉々とした表情で爽やかにそう告げた。
- およそ今の雰囲気には似つかわしくないほど優雅に。
- キラはそんなラクスの笑顔に喜び半分、憂鬱な気持ち半分でコクンと頷いて手を繋いで歩き出す。
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- 「私、肝試しというものは初めてですので、とても楽しみですわ」
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- 森へ向かう道すがら、ラクスは無邪気にそう言ってキラに微笑みかける。
- キラはそんなラクスに苦笑を浮かべて、肝試しが何なのか未だに分かっていないラクスに、子供の頃の体験を少し思い出しながらラクスのショックが少しでも和らぐようにと事前知識を教える。
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- 「一応先に言っとくけど、肝試しって怖いものだからね」
- 「あら、怖いのですか。それは大変ですわ」
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- しかしラクスは全く大変そうに見えない表情で、愛らしく小首をコトンと傾げる。
- その仕草を可愛いなと思いながらもキラはガックリと肩を落とすと、とりあえずはこれ以上肝試しの説明をすることを諦めた。
- 自分が言っても分かってくれそうもないし、体験すればすぐにでも分かるだろうと思った。
- 未だ楽しそうに笑みを浮かべているラクスの顔を見ると、少し胸が痛んだけれど。
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- そんなこんなで仲睦まじく森へと続く道を歩く2人。
- そして森の入り口に着いた時、ラクスが急に足を止めた。
- キラがどうしたのと尋ねようとした時、キラの首筋にゆるっとした冷たい感触が襲った。
- 背筋にゾゾッと悪寒が走り、キラも立ち止まる。
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- 「うわっ、何?」
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- 言いながら反射的に首筋に当たったそれを掴む。
- その正体はこんにゃくだった。
- おそらく誰かが付近に隠れて、釣竿でこれを吊るして飛ばしたのだろう。
- 耳を澄ますと、微かにかさかさと茂みの中が揺れる音が聞こえる。
- そちらを睨んでいると、ラクスがキラの手にしたものを覗き込んでにこりと微笑んで感心する。
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- 「まあ、こんにゃくですわね。これ使って脅かすというのは、私には思いつかないことですわ」
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- ラクスらしい感想にキラは怒りを削がれてクスリと笑みを零すと、こんにゃくを放り出して森の中へと足を踏み入れる。
- ラクスといると落ち着くからだろうか。
- キラはスタート時よりも怖いという感覚は無くなってきていた。
- 先程よりも少し明るい気分になって森の中を歩き、順調に教会へと辿り着いた。
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- その教会というのは、扉は半分無くなりもう片方も蝶番がずれて今にも外れそうな状態だ。
- 窓もガラスは割れており、屋根や壁には穴が開き、僅かに零れる月明かりが光の柱の様に伸びているいかにも、という感じのものだった。
- キラは愕然とし、再び湧いてきた恐怖心に思わず立ち入ることを躊躇した。
- だがラクスは全く異なる感想を抱いた。
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- 「こんなに壊れてしまっていては、肝試しが終わったら修理をお願いした方が良いかも知れませんわね」
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- そう言って頬に手を当てて真剣に考えている。
- キラはズッコケそうになりながらまた緊張感が削がれたことに、もしかして僕の緊張を解そうと思ってやってるのかな、などと勘ぐってしまう。
- ラクスはボーっとしているようで、実は先の先まで読んで実行に移す行動派だけに、その可能性もないわけではない。
- しかしそれがふりなのか天然なのかは、未だにキラにも分からないことだった。
- だが今そんなことを考えても仕方が無い。
- キラはよしと自分に気合を入れると、とにかく中に入ろうかと、ラクスを伴って教会の中へと入っていく。
- 教会の中はそれほど広くなくすぐに中央の祭壇に気がつき、2人はゆっくりと近づく。
- そこには貼り紙がしてありこう記されていた。
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- 『1人一つずつ、同時にボールを掴むこと』
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- 何かあるのは一目瞭然だったが、取らないことにはどうにもならない。
- キラはどうしようかとラクスの方をチラリと見る。
- しかしラクスはニコニコと微笑むばかりで、これを取ればよろしいのですねと、罠だと気付いた様子も無い。
- キラは内心で溜息を吐きつつ覚悟を決めると、じゃあいくよと頷き合ってせーのと手を伸ばした。
- その瞬間、ボールを置いた台座を突き破って青白い手が飛び出し2人の手首を掴む。
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- 「うわあああ!!」
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- キラは叫び声を上げると手を振り払って飛び退いた。
- ボールは虚しくキラの手を離れて、元の入れ物の中でコロコロと転がっている。
- それを呆然と見つめたキラだが、ラクスの悲鳴が聞こえなかったことに気が付いて、パッとラクスの方を振り向いた。
- そのラクスはというと、捕まれた手首をじっと見て固まっていた。
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- 「これはどなたの手でしょうか?」
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- 人差し指を顎に当てて、誰の手なのか真剣に答えようとしている。
- キラは慌ててラクスの手首から手を引っぺがしてやると、ぎゅっと抱き寄せる。
- 思わず腕に力が入ってしまっていたことで、ラクスが苦しいですわと抗議の声を上げた。
- それを受けてキラはあたふたと回していた腕を放し、謝罪の言葉を口にする。
- ラクスはすぐに微笑んで大丈夫ですわ、とキラの手を取るとあることに気が付いた。
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- 「あら、ボールはどうされたのですか」
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- 言われてキラは、先ほど手を振り払った時にボールを手放したことを思い出す。
- それからラクスの手元に視線をやると、そこにはしっかりとボールが握られていた。
- そのあたりはボーっとしているようでしっかり者のラクスらしい。
- だが感心している場合ではない。
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- 「もう一回取らないとダメ、だよね」
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- キラがげんなりした様子でラクスに確認する。
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- 「はい、それがルールですから仕方ありませんわ」
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- ラクスは頑張ってくださいなと、笑顔であっさりと答える。
- キラは内心ガクッと脱力しながら、ラクスの前でいつまでも恥ずかしい姿は見せられないと、意を決して祭壇の前に立つと勢いよく手を伸ばした。
- 今度は手首を掴まれることなくボールを手に出来たキラは、安堵の息を吐く。
- しかしそこで安心するには早すぎた。
- 今度は台座の下から、青白い布でぐるぐる巻きにした人間が雄叫びを上げて勢いよく飛び出してくる。
- キラは飛び上がって驚く。
- だが一方でラクスは一瞬目を見開いたものの、すぐに柔らかい笑みを浮かべるとお辞儀をして労いの言葉を掛ける。
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- 「私達が来るまでここで待っておられたのですね。ご苦労様です」
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- 脅かそうと飛び出した青い包帯を巻いた人間も、驚いた様子の無いラクスに戸惑い、丁寧な物言いに思わずペコリと頭を下げる。
- キラはそんなラクスの手を引くと教会を飛び出す。
- 取り残された格好となった青い包帯を巻いた人物は、頭をポリポリと掻いて首を傾げるしかなかった。
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- キラは教会が見えなくなるところまで一気に走り、そこでようやく走るのを止めラクスの手を離した。
- ラクスはまだご挨拶が途中でしたが、と胸に手を当てて少し弾んだ息を整えながら教会の方をちらちらと振り返る。
- キラは膝に手をついて呼吸を整えながら、ラクスの動揺した姿はこれまでもほとんど見たことはなかったが、それでもあの状況でもその素振りも見えないのはキラの中では有りえない事だ。
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- 「ねえラクス、全然驚かなかった?」
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- キラは不思議そうに尋ねる。
- するとラクスは事も無げに答える。
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- 「急に飛び出してこられた時は驚きましたが、キラに予め教えていただいたとおり、どなたかが待っているのは分かっておりましたので」
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- どうやらラクスはキラの忠告に従って心の準備はしていたらしい。
- それにしてもそうは見えないというのは、キラにとっては羨ましいし、驚いた自分が恥ずかしい。
- キラはそれ以上何も言えず納得するしかなかった。
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- ラクスの呼吸も整うと、キラはラクスの手を引きながら慎重に森の中を歩みを進める。
- どこに何が仕掛けてあるか分からないため、キラは絶えず周囲を警戒していつでも逃げられるように身構えた。
- そうして進んでかなりの時間を要した頃、木々の間にようやく海岸線が見えた。
- そこがこの森の出口だ。
- 終わりが近づいたことでキラは内心安堵の気持ちが溢れてきた。
- ついつい足も速くなりそこ目掛けて近づいていくと、道の脇にマリューが笑顔で立っているのが確認できる。
- どうやら最後の道案内らしい。
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- 「お疲れ様、後はここを抜ければ浜辺だから」
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- 暗がりでよく見えないが、いつもと違って体のラインが隠れる黒いドレスのような服装をしているようだ。
- 暗闇に紛れて何をしようとしていたのかは気になる。
- しかし既に姿を晒しているので脅かすつもりではないのだと、キラはすっかり気を抜いた。
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- 「もう勘弁してくださいよ、マリューさん」
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- 今回の肝試しについて愚痴を零すキラ。
- 片やラクスはまだ物足りなさそうな感じで微笑を湛えている。
- その様子を見て、やはりラクスにもう少し怖がってもらおうとマリューの胸に悪戯心に火がつき、いつもとは異なる怪しげな笑みを浮かべる。
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- 「そう、でもまだお楽しみは残っているのよ」
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- 言いながら不気味な笑みを零したかと思うと、いきなりマリューの首がストンと腰の辺りに構えた手の上に落ちた。
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- 「うわあああああー!」
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- 叫び声を上げて後ずさりし、後ろにあった木にドンとぶつかるキラ。
- その表情は完全に怯えきっている。
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- しかしここでもラクスの反応は予想と違った。
- マリューの姿に別の意味で驚き、血相を変えて駆け寄る。
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- 「マリューさん大丈夫ですか!?」
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- これにはマリューの方が驚いてしまった。
- えっと驚くと、バランスを崩して前のめりにバッタリと倒れてしまう。
- ますます慌ててオロオロとし出すラクス。
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- その光景にキラの頭は一瞬にして切り替り、また強引にラクスを引っ張ってその場を離れる。
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- 「ほらラクス、ここは逃げるところだからっ!」
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- しかしラクスは本気でマリューのことを心配し、ですがと強い抵抗を見せる。
- しびれを切らしたキラは構わずラクスを抱き上げると、森を突っ切り浜辺を走る。
- そのままスピードを緩めず、角を曲がればカリダの待つゴールというところまできた。
- まだラクスはじたばたともがいているが、ゴールまで行けばその必要はないということをゆっくりと説明しようと心に決めた。
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- その瞬間、急に足元が抜けるような体が宙に浮いた感覚に襲われる。
- あれっと思ったが視界にはどんどん砂の壁が迫ってくる。
- キラは無意識のうちに空中で状態を捻り、ラクスが壁にぶつからないように自分の体を盾にした。
- そして背中と後頭部に鈍い衝撃を受けて、星空を見上げているという状態になった。
- その上には抱えられたままだったラクスが一瞬遅れて落ちてくる。
- ぐえっと潰れた声を出すキラ。
- キラを押し潰してしまったことに、ラクスは悲鳴のような声でキラの名を呼ぶ。
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- 「大丈夫ですか、キラ」
- 「う、うん、何とかね。でもこれは一体?」
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- キラはラクスを上からどかせると、のっそりと上半身を起こして頭に掛かった砂を払いながら答える。
- しかし今自分達の置かれた状況というのは理解できない。
- 自分達の身に何が起きたのかよく分からなかった。
- それでも相手のことを気遣い合うのは、2人ならでは。
- 頭に付いた砂を2人で払いながらお互いの無事を確認し合い、ホッと溜息を吐く。
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- その時、頭上から聞きなれた笑い声が響いてきた。
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- 「はははっ。君達は相変わらず熱いねぇ」
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- その方を振り向くと、穴の上からバルトフェルドがさも可笑しそうに覗き込んでいた。
- そこでようやく落とし穴に落ちたことを理解したキラ。
- やられたと天を仰ぐ。
- 一方のラクスはバルトフェルドに無邪気に手を振り、ここから引き上げてくださいな、と愛らしく嘆願する。
- やはりここでも冷静さは失っていないようだった。
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- 「ラクスが怪我でもしたらどうするんですか」
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- 引き上げられたキラは、落とし穴に引っ掛かったことよりもラクスを危険に晒したことに対してバルトフェルドに噛み付いた。
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- 「おや、そんなことにならないように君がついてるんだろう」
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- しかしバルトフェルドにこうかわされては、顔を真っ赤にして押し黙るしかない。
- ラクスはそんな2人のやりとりをしばしニッコリと笑みを浮かべて見つめた後、丁寧にお辞儀をするとキラの腕を引いてゴールへと向かっていく。
- バルトフェルドはその後姿にニヤニヤしながら口笛を吹いて、若いっていいねえ、としみじみと零した。
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- 「あら、意外と遅かったわね」
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- ようやく戻ってきた2人に、時計を見ながらカリダは笑いを噛み殺す。
- キラだけが砂まみれの格好からして、こちらの思惑通りに最後まで見事にトラップに引っ掛かったらしい。
- 脅かす側としては冥利に尽きるというものだ。
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- 「で、どうだったかしら?」
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- ニコニコと問い掛けるカリダに対して、ラクスはニコニコと笑顔で答える。
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- 「はい、とても楽しかったですわ」
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- 甚く満足したようだ。
- その様子にカリダも嬉しそうに頷く。
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- 片やキラはと言うと、不機嫌そうに頬を膨らませて答えようとしない。
- そして2度と参加しない、という態度がありありと見えた。
- 息子の態度にカリダは溜息を吐いて苦笑を浮かべるしかない。
- しかしラクスの一言でキラは再び陥落することになる。
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- 「また一緒にやりたいですわね、キラ」
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- その時のキラの表情に、カリダは笑いを堪えることができなかったとか。
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― アスラン&カガリペア ― |
― ディアッカ&ミリアリアペア ― |
― ダコスタ&メイリンペア ― |
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